レクサスGSF 開発責任者に聞く (2015年11月)

誰もが笑顔になれるスポーツカー

レクサスブランドのプレミアムスポーツを示す“F”に、2015年11月、新たにスポーツセダンの GS Fが加わる。

この“F”の立ち上げ当初から開発を手がけ、IS F、RC Fに引き続き、このGS Fの開発責任者を務めた矢口幸彦氏にお話を聞いた。

より幅広い層のお客様に“F”の世界を

GS Fは、「スポーツカーの性能」×「セダンの魅力」というIS Fで作り上げて来た価値をさらに昇華させた、ミッドサイズ4ドアセダンの“F”モデルです。開発にあたっては「走りを楽しみたい全てのドライバーが笑顔になれるスポーツカー」という“F”のコンセプトのもと、徹底的に走りを磨き上げてきました。初心者からレーシングドライバーまで、どんなスキルの人でも存分に走りを楽しむことが出来ます。

そもそも“F”の役割・位置づけは、レクサスのブランドイメージを“エモーショナル”で“若々しい”イメージに押し上げていくことです。

レクサスのプレミアムスポーツ“F”は、頂点に、世界で500台限定生産の、究極の走りを体現した“LFA”があり、この次にスポーツカーとして専用設計が施され、車名に“F”が冠せられるモデルとして、“RC F”とともに“GS F”があり、そして、その下に、各車種のスポーツチューニンググレードとして、“F SPORT”がラインナップされる3段階のピラミッド構造になっています。

その中で、LFAが既に販売終了していることから、RC Fと今回発売したGS Fは、実際にお客様にご体感いただける“F”の最上級モデルです。お客様に“F”の世界観に触れていただくことで、「レクサスって面白い。実際に乗ってみると楽しい」と感じていただくという重要な役割を担っているのです。

GS Fは、プロドライバーしか操れないレーシングカーではなく、もっと間口を広げて、初心者からレーシングドライバーまで、スキルに関係なく、「日常からサーキットまで、誰もがシームレスに走りを楽しめる」という“F”のフィロソフィー(哲学)を、より実用性の高い4ドアモデルで体現したスポーツセダンです。

日常の一般道や高速道路でも十分に走りを楽しめて、それでいて安全で快適。サーキットに行けば、もっと楽しめるし、安全性も高まる。サーキットでもそこへの行き帰りの公道でも走りを楽しむことができるクルマなのです。商品カタログでは、そのイメージを伝えたいとの思いから、サーキット帰りにレーシングスーツのまま、ドレスアップした奥さんを迎えに行くシーンを表現しています。最初はヘルメットも持っていたのですが、さすがにそこまではやめようってなりましたけど(笑)

数値競争はやらない。乗ってみて比べてほしい。

“F”にとって最も重要なことは「誰もが笑顔になれるスポーツカー」であることです。普通免許を取得したばかりの初心者からプロのドライバーまで、誰が乗っても、運転が終わると「面白かった」「楽しかった」と笑ってクルマを降りてくる。他社のライバル車と比較して、「エンジン出力が勝った、負けた」とか「ニュルブルクリンクの周回タイムが0コンマ何秒、早かった」とかでなく、私たちにとって大事なことは「お客様が乗ってみて、楽しいと思えること」だけなのです。

そもそも私は昔からクルマが大好きで、新車が出るとカタログを入手しては徹底的にスペックを比較していましたし、モータースポーツ観戦はいまでも大好きで、よく観ています。排気量の大きなエンジンや速いクルマも大好きです。排気量や出力などスペックや走行タイムに拘って開発されるクルマがあることは自然なことで、また、ライバル車の数値を意識しながらクルマが開発されるのも当然のことです。
ただ、“F”では数値でなく、「お客様が乗ってみて、楽しいと思えること」に拘って開発しています。他のブランドに対しては、「この考えに近づいてくるのは止めて!」と言いたいのが本音だったりします(笑)

今回、開発したGS Fについても、まずは試乗していただきたいと思っています。そうすれば、走る楽しさ、“F”モデルの不変のコンセプト「誰もが笑顔になれるスポーツカー」の意味がお分かりいただけると思います。GS Fの本当の魅力は残念ながら、カタログの数値や言葉ではお伝えし尽くすことはできません。

先日もGS Fのジャーナリスト向けの試乗会をスペインで実施しました。当然のように事前のブリーフィングではエンジン出力などスペックに関する質問が寄せられます。私は「とにかく、まず乗ってみてくれ」といって試乗してもらい、その後で逆に「どうだった?」と質問します。すると「面白かった。楽しかった」という感想が返ってきます。「他ブランドと比べて、どっちが楽しい?」と聞き返すと「こっちだ」と。「でも、顧客は全部のブランドを乗り比べたりしないよ」と言うので、「だから、あなたが記事を書いてそれを伝えるんじゃないの?」と返す。相手はもう苦笑いです。スペック重視でクルマを購入される傾向にある北米マーケットでは、正直なところ、カタログ上、非力に見えてしまう“F”モデルは苦戦しています。それでも、雑誌やウェブの記事はよく読まれていて、重視されています。だから、私はジャーナリストのみなさんには「試乗してみて、そのときみなさんが思ったこと、感じたことをそのまま書いてください」とお願いしています。先日掲載された記事を見たら、すごく高い評価をしていただいていて、感謝しています。

また、実際に、オーナーの方にもお会いする機会があります。IS Fを発売以降、富士スピードウェイで定期的に“F”のオーナーの方々が集まってドライビングレッスンが開催されています。次回でたぶん16回目になりますが、毎回、参加されるオーナーの方の数が増えていて、平日開催にも関わらず60台くらいのIS FやRC Fが集まっていただけます。半数くらいがリピーターで、うち10台から20台は毎回参加されるコア・リピーターです。
一見、スポーツカー同士が集まると、タイムを競い合うことを想像されるかもしれませんが、“F”に集ってくるオーナーの方々の特徴は、みなさん和気あいあいと走りを楽しむところです。みなさんが“F”を愛し、醸し出される独特の楽しい雰囲気で1日が終わります。“F”よりも速く走れるクルマはあると思いますが、みんなで走って「楽しい」のは断然、“F”。そういう世界こそ、ライフスタイルに溶け込むプレミアムスポーツの楽しみ方だと、私は考えています。

唯一無二の、プレミアムな大人のスポーツセダンに仕上がったGS F

GS Fの開発では「誰もが笑顔になれるスポーツカー」を目指して、これまで“F”が培って来た全ての技術と知見を注ぎ込むとともに、「サウンド」「レスポンス」「伸び感」という“F”の楽しさ3要素をさらに深め、お客様の感性に響く官能性能をより一層高めています。「“F”の楽しさ3要素」はIS Fの時から、“F”が大切にしてきたキーワードです。

GS Fに搭載しているエンジンは、RC Fでも採用している自然吸気V8、5Lエンジンです。もともと滑らかに加速していくことが特徴のエンジンですが、それを組み立て後に、一基ずつ回転バランスを取るという専用の工程を導入し、加速の滑らかさとレスポンスの良さをさらに研ぎ澄ませています。分かりやすい表現をするとアクセルを踏み込んだ時、エンジンの回転数が瞬時に上がり、ドライバーの意図した通りの加速感が得られます。これはエンジン出力等の数値には表れない、人間の感覚に訴える部分ですが、そういうところにしっかりと手間をかけています。その昔、「高級って何だろう?」と模索していたとき、イタリアの高級家具メーカーのカッシーナで、「目の肥えたお客様は椅子を購入する時、椅子の裏側を見る」という話を聞きました。つまり、高級品ですから、目に見えるところがきちんとしているのは当然で、見えないところにどれだけ注意を払い、手を加えているのかに差が出るわけで、それを確認するというのです。本当の意味での高級・プレミアムっていうのは、そういうモノだと思いました。ですから、いまでも私たちはそういう部分にこだわっています。

昨年発売したRC Fに乗ったジャーナリストの方はみなさん口を揃えて、「NA(自然吸気エンジン)は楽しいよね」とおっしゃいます。
NAがなぜ楽しいかというと、「サウンド」と「レスポンス」「伸び感」がリニア(直線的)だからです。つまり、エンジンの回転数に対して、音の上がり方、パワーの出方、トルクの出方が比例するからです。

アクセルを踏めば踏むほど力強さが立ち上がってきて、どこまでも加速して行くような気持ちのよい伸び感が、感覚的に楽しい。それにつながってサウンドが出てくるのが楽しいのです。

サウンドについても、かなり力を入れています。もともと、“F” では、防振騒音技術によって不快な騒音や要らない音は遮断する一方で、ドライバーの気持ちを昂揚させる良い音はより聞こえるように積極的に車内に取り入れ、アクセルを踏み込むほどに音程が高まっていく昂揚感、どこまでも加速していくような飛翔感、低速域から高速域へと変化していく音程を明確にチューニングすることで、聴覚によって回転数と駆動力の状態を判断できるエンジンサウンドを実現してきました。

アクセルを踏んだ時、エンジンから走りを感じさせる心地の良い音が出てくるのですが、それとともに空気の吸気音や、エンジンルームと室内の間にある様々なパーツの振動音などの雑音もでてきます。そういった雑音を消し、心地の良いエンジン音は活かして、室内に聞こえるようにしています。さらに、心地の良いエンジン音にスピーカーから調整音を加えて「ゴオーッ」と迫力のあるエンジンサウンドを完成させています。これも試乗して、ぜひ楽しんでいただきたいポイントの一つです。

もちろん、デザインにおいても“F”としてのこだわりを注ぎ込んでいます。新GSとホイールベースは同じですが、車高を下げ、フロントが30ミリ、リアが5ミリ、全長で35ミリ長くなっています。“F”にはフロントに大きなエンジンとラジエーターなどが入っていますので、冷却・空力性能を高めるとともに、デザインが成り立つようにフロントグリルも大きく変えています。グリルの両サイドには空冷オイルクーラーグリルを配置し、過酷なサーキット走行にも対応した冷却性能を確保しています。“F”のアイデンティティでもあるL字型のサイドエアアウトレット(空気排出口)は、フロントからエンジンルームに入った空気をスムーズに抜く役割を担うとともに、優れた操縦安定性の向上にも貢献しています。そして、4本出しのマフラー。これらは"F"で築きあげてきたデザインを継承しています。

インテリアは、ドライバーがクルマと対話するために重要な部位、情報を得る、手で触る、座るといった箇所を、GSと差別化し専用開発しています。

例えば、メーターはお客様の利用シーンによって、表示内容を選択できるようにしています。サーキットを走りたい時と普通に街中を運転する時では、レッドゾーンの表示位置を変えていたり、エコ運転したい時にはアクセルじわっと踏ませるような誘導する表示を選択できるようにしています。
また、シートのホールド性についてもGS Fはサーキットでの走行で運転姿勢が乱れないように、通常の車の1.5倍以上の横Gに耐えられるシートに変更しています。

このように、細かいところに気を配り、“F”を感じられるように造り込みました。唯一無二の、プレミアムな大人のスポーツセダンに仕上がったと思っています。

これから先もより多くのみなさまに笑顔を広げていく

今でこそ、“F”の認知度も高まり、社内でもそれなりに評価されていますが、最初にアイデアを出した時は、社内で相手にしてもらえなかったですね。“F”というモデルが成功するなんて、社内では誰も思っていませんでしたからね(笑)。
当時、レクサスのブランド戦略において、スポーツモデルの必要性は何度も繰り返し、社内で提案しましたが、全く理解してもらえなかったですね。
そこで、役員が出席する社内での発売前の車両や試作車の試乗会に、本来は予定になかったのですが、ISにレーシング用エンジンを積んだIS Fの原型となる試作車を持ち込んで、役員に乗ってもらいました。試作車といっても、完成品に近いもので、実際のIS Fのようにワイドフェンダー化したり、内装もそれなりに仕上げたものです。

すると、試乗した役員がみんなニコニコ笑ってクルマを降りてくる。これがきっかけで、「面白いね。とりあえずやってみよう」ということで始まったのがIS Fなのです。

実はこの時、IS Fだけでなく、もう1クラスサイズの大きいGS Fも合わせて開発したいと考えていました。当時のデザインスケッチも残っています。IS Fの開発が決まったとき、GS Fも一緒に出せないか、提案しましたが、さすがにそれは却下されました(笑)

2012年にデビューした現行GSの開発のタイミングで提案し、その時も却下されましたが、その後も、いつ許可が下りてもいいように、かなり完成品に近い試作車を用意して開発提案をし続け、ようやく今回、念願のGS Fを発売することができました。

最近は、レクサスの各車種にラインナップされるF SPORTグレードがすごく良くなっています。すごい勢いで“F”に追いつけとばかりに開発しています。だから、“F”はもっと先へ、先へと逃げなきゃいけない。F SPORTが頑張っていることは、私たちにとってもすごくモチベーションに繋がっています。そして、私たちがどんどん先に進めば、レクサス全体の技術も向上し、クルマがどんどん良くなっていく。技術者からの新しい技術提案も積極的に採用し、“F”がその技術を採用したことで彼らは自分たちの夢を実現する場として、モチベーション高く頑張ってくれる。

“F”はさらにいいクルマになっていきます。モチベーションが高い人が集まってクルマを造ったら、いいクルマが出来るに決まっています。そんな好循環が“F”によって生まれていると思います。

私事で恐縮ですが、先日、60歳になり、本来、定年退職となるところですが、引き続き“F”の開発を担当させていただいています。振り返れば、まだ30歳そこそこの若僧の時、当時トヨタが社運をかけて取り組んでいた初代レクサスLS400の騒音振動対策に自ら手を挙げ、担当にさせてもらったことが大きな転機だったと思っています。トヨタ自動車の中にレクサスという新しいブランドを興して、トヨタブランドとレクサスブランドをどう絡めていくかというところも含めて、まったく見たことのない世界を見た気がして、「トヨタで自分がやりたい仕事はこれなんだ。レクサスにずっと関わり続けていこう」と決意しました。その後、開発からは外れ時期もありましたが、一貫してレクサスと関わる仕事を続けきてました。レクサスのブランド戦略を担当し、“F”を立ち上げることができました。
今後は“F”にさらに磨きをかけ、進化させていくとともに、後継者を育てていくことが私にとっての大きな使命です。私たちが造りたいのは「お客様が笑顔になるクルマ」です。 
​今後の“F”の限りない進化にご期待いただければと思います。まずは、是非“F”の新しいモデルとして今回発売したGS Fにご試乗いただき、“F”の世界観をご体感いただければと願います。

<プロフィール>
矢口幸彦(やぐち・ゆきひこ)
1977年、トヨタ自動車工業に入社。自ら志願して初代および2代目LSの振動騒音開発を担当し、レクサスの静粛性を極める。 レクサスブランド戦略、レクサス技術部門の立ち上げに参加。コンセプトプランナーとしてIS Fを提案、開発責任者となり、2007年にIS Fを誕生させる。2012年にはIS FをベースとしたレーシングカーCCS-Rの開発も手がける。同時にプレミアムスポーツブランド“F”を立ち上げ、車種別に存在していたスポーツグレードをF SPORTに統一。その規定書の作成、監修を手がけてきた。その後、新世代の“F”となるRC Fに続き、GS Fの開発を指揮。

取材・文・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road