レクサスGS 開発責任者に聞く (2015年11月)

次世代のレクサスを予感させる「走り」と「デザイン」の進化

レクサスGSは、長距離を快適に走るためのグランドツーリングセダンであり、現在のレクサス車のデザインアイコンである‘スピンドルグリル’を最初に採用し、レクサスの方向性を示したクルマである。

このレクサスGSが2015年11月にマイナーチェンジした。開発を担当した加藤亨開発責任者と青木淳主幹にお話を伺った。

GSはレクサスの変曲点になったクルマ

聞き手:最初に、今回のマイナーチェンジのポイントを教えていただけますか?

加藤:2012年に発売された現行モデルのGSは、デザインや走りにおいて、レクサスの「変曲点」になったクルマです。現在のレクサスのデザインアイコンである‘スピンドルグリル’を最初に採用するとともに、「エモーショナルな走り」-意のままにクルマを操る楽しさ-にこだわり、ボディ剛性を高め、ハンドリング、加速フィーリングなどをこのモデルから大幅に進化させました。

今回のマイナーチェンジでは、「走り」をさらに進化させ、そして、その走りの進化に相応しい、新しい走りを感じさせる「デザイン」にすることを強化ポイントに置きました。その他には、時代を先取りした環境性能を備えた「エンジンの開発」、先進安全装備「Lexus Safety System +」の採用などが、ポイントになります。

コーナリングと乗り心地の良さの高次元での両立

聞き手:では、走りの進化からお話しいただけますか?

青木:走りの面では、ハンドリングの良さ(安定した操縦性)と乗り心地の良さの両立を追求しました。通常、ハンドリングの良さを追求していくと、ややもすると乗り心地が犠牲になりがちです。しかし、それらを両立させて、ドライバーが運転していて気持ち良く、クルマを思い通りにコントロールでき、そして助手席や後部座席に乗っていても乗り心地がいい。それらをより高い次元で実現することを目指しました。

そのために徹底的にボディ剛性を高めました。ボディの各パーツの接合部には、構造接着剤を広範囲(22.5m)​に追加使用したのに加え、スポット溶接の打点数も増やし、部位によってはより小さく細かいピッチでの打点が可能なレーザースクリュー式溶接を採用し、ボディ剛性の向上と振動の減衰特性を高めています。

聞き手:なぜ、ボディ剛性を高めると、ハンドリングと乗り心地が両立するのですか?

加藤:分かりやすく極端な言い方をすると、クルマの旋回時、ボディはたわんで、曲がりたい方向の反対側に向かって力がかかります。その時ボディがねじれやすいと、ボディのねじれによってタイヤの向きが、本来向きたい所に対してズレる動きがでます。
そこを、サスペンションのアブソーバーで踏ん張らせるのですが、アブソーバーを硬めにチューニングするとクルマの旋回時の安定性が高まる一方で、路面の凹凸を拾った時の衝撃が大きくなり、乗り心地が悪くなってしまいます。アブソーバーのチューニングだけでは、どうしてもハンドリングと乗り心地の両立が難しくなるのです。

そこで、ボディ剛性を強化するとボディのたわみが減り、アブソーバーで踏ん張らなくても、タイヤ側が狙った向きから乱されないようになるのです。

今回、ボディ剛性を高めたことにより、アブソーバーの硬さの調整幅に余裕ができたので、最適なチューニングをすることができるようになり、結果、ハンドリングと乗り心地の両立をすることができました。
2012年の現行GSが出たときにレクサスのクルマ造りで、ドライバーが操って楽しい、意のままに操れる「エモーショナルな走り」を目指す方向に舵を切りましたが、その延長線上で、より高い次元にまで引き上げることができました。

ハンドリングや乗り心地の良さは、実際に試乗して体感いただければ、分かっていただけると思います。コーナリングでは、思ったところにピッタと頭が向いて、安定して気持ちよく曲がっていきます。開発の途中で、走りとか、ハンドリングとかにあまりこだわりのない女性のスタッフに新旧のGSを乗り比べてもらいましたが、「ちょっとクルマが小さくなったと感じるくらい、運転しやすくなった」という評価をもらいました。走り全体の質感、乗り味みたいなものがすごく進化しています。グレードによっては電子制御サスペンションの設定がありますが、これがまたより一層、気持ちいい走りを実現してくれています。

青木:後部座席の乗り心地に関しては、加藤がすごくこだわったところです。最初に試作車に乗ってテストコースを走った時、突然、「青木、運転を代われ!」といわれて、後部座席に乗り込まれて、後部座席の乗り心地を確認されました。そして開口一番「このリアの乗り心地はあかんやろ!」と駄目出しされて…。

加藤:試作車の試乗会で初めて乗った際、併せて配布されていた社内関係者の評価シートを見ると、運転席を中心に評価をしていて、後部座席については簡単な評価項目しかなかったことに気がつき、それで自分で後部座席にも乗ってみたのです。

GSは、スポーティなセダンでドライバー中心の走りの部分を進化させてきましが、このクルマを開発する上で最も大切なことは、5人乗り乗用車として普通の道を普通に気持ちよく走れて、疲れないクルマを造ることです。
お客様の約90%はこのクルマを街中での買い物や通勤、そしてレジャーに使われるのですから。そういう意味でも後部座席の乗り心地にもしっかりとこだわりました。

次世代のレクサスを予感させる知性と獰猛さを兼ね備えたデザイン

聞き手:では次にデザインについてご説明ください。
加藤:デザインについては見ての通り、フロントフェイスはかなりアグレッシブというか、知性と獰猛さを兼ね備えた顔つきに進化しています。今後、高級車のマスクはどんどん獰猛な顔つきになっていくと予感しています。それを一歩、先取りしたデザインです。現時点ではレクサスで最強に獰猛なマスクと自負しています。

青木:最初の段階からデザイナーは「獰猛さ」や「アグレッシブ」などのキーワードを出して、スケッチを描いていました。戦闘機や猛獣の写真などを並べてみながら、インスピレーションをもらったり、エッセンスをアイディアに取り込んだりしていました。

スピンドルグリルはかなり大きく、そして立体的になったGS独自のダブルスピンドルグリルを採用しました。より獰猛な顔つきにするためにヘッドランプは細くて、黒目が上についているような形の三眼フルLEDランプに変わっています。リアのコンビネーションランプもL字シェイプが強化され、よりレクサスを印象づけるものへと進化しました。また、インテリアは、ドアスイッチやノブに金属加飾をあしらうなど質感を向上し、ナビゲーションを操作するリモートタッチの両側にENTERボタンをつけるなど、質感と機能面を向上させています。また、シートもかなり良くなっています。とくに、加藤がこだわったのはドアトリムやシートなど車内の随所に施されているステッチです。これまでは、ステッチの1縫い1縫いが斜めになっていたのを、まっすぐで綺麗なステッチを実現するために16台あったミシンを全台、新型に交換してもらった、自慢のこだわりのポイントです。これを機に、レクサスのステッチはワンランク上の品質へと進化しました。

加藤:こうして出来上がったものは、新しいGSの進化した走りに相応しく、次世代のレクサスへのつながりを予感させるような先進的なデザインに仕上がったと思っています。

実は、私がGSの担当になった2014年の6月のタイミングではデザインはすでに最終確認段階にありました。私の仕事はこのデザイン案を経営陣に提案し、通すこと、そして、最も重要な仕事はこのデザインを出来るだけ忠実に再現することでした。というのも、通常、デザインモデルは、設計の段階で、製造時の効率など様々な制約によってはそのとおりに作れない部分が必ず出てきてきます。そこで、「いかに工夫したら、このままデザインを守れるだろう」というアイディアを設計者と一緒になって考え、導き出していきました。

一例を挙げると、車両をレッカーで牽引するときにひっかける「けん引フック」の蓋が、ちょうどフロントグリルに位置するのですが、外から見ると、グリルの中途半端な境目に線が入ってしまいます。それを、フロントグリルの筋に沿って設計してもらい、目立たなくする工夫など。言い出したら切りがありませんが、いろいろと、直接現場へ向かっては、やっていました。

燃費性能が8%向上した新開発V6 3.5Lエンジン

聞き手:では「環境・安全」についてお願いします。

加藤:今回GS350に採用しているV6 3.5Lエンジンは新規に開発しました。エンジンの型式が「2GR-FSE」から「2GR-FKS」に後ろの2文字が変わっただけなので、「改良型」と勘違いされるかも知れませんが、ほとんどの部品を新しく設計した全く新開発のエンジンです。ボアストロークといった基本諸元は変えていないのですが、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、燃焼室、カムシャフトなど新設計しています。3.5Lという総排気量や最大出力などのデータは同じですが、燃費性能は8%向上させています。ガソリンエンジンで8%の向上っていうのは、なかなか達成できない数字です。

青木:前の型式の「2GR-FSE」は開発されてから、もう10年くらいたっています。ご存知のとおり、世界各国の排出ガス規制、環境基準というのはどんどん厳しくなっています。それに対応するエンジンの新しい環境技術開発は、競合他社を含めて非常に熾烈です。

今回、GS350に搭載したエンジン「2GR-FKS」は、最新技術を取り入れて、燃費性能を高め、新しい排出ガス規制や環境基準に対応した次世代のレクサス・トヨタのV6 3.5L FR用エンジンとして新開発しました。これは新型RXが搭載しているFF用のV6 3.5Lエンジン「2GR-FXS」と一体開発したもので、今後、いろいろなクルマでこのエンジンシリーズが使われていきます。

聞き手:そして最新の安全装備「Lexus Safety System +」の採用ですね。

加藤:事故低減効果の高い4つの予防安全機能である、歩行者検知機能付衝突回避支援の「プリクラッシュ セーフティシステム」をはじめ、夜間走行時のハイビームを自動切替して視界を支援する「オートマチック ハイビーム」、車線逸脱の防止をサポートする「レーン キーピング アシスト」、適切な車間距離を保ちながら前車に追従走行する「レーダークルーズ コントロール」をパッケージ化して組み合わせることで、多面的な安全運転支援を実現しています。
また、3眼LEDヘッドランプにはAHS(アダプティブ・ハイビーム・システム)を採用しています。これは11個の光源のON/OFFを駆使して、対向車にはロービームで、それ以外の部分はハイビームで照射するシステムです。実際に、社外走行モニタで夜間のさまざまなシーンで視認性確保できるシステムだと実感しました。

聞き手:最後に読者に対して一言お願いします。

加藤:レクサスGFは、レクサスの走り、そしてデザインを大きく変え、その変曲点となったモデルです。今回のマイナーチェンジでは、さらに「走り」と「デザイン」に磨きをかけています。デザインが進化したのは一目見ていただければ、すぐにお分かりいただけると思います。しかし、GSの本当の良さをご理解いただくには、ぜひ試乗していただきたいと思います。新しくなったGSの走りの良さを体感いただけると確信しています。

加藤 亨(かとう・とおる)
1955年三重県生まれ。大学では機械工学を専攻。名古屋工業大学 大学院修了後、1981年トヨタ自 動車工業入社。ボディ設計部に配属。1985年製品企画セクションに異動。総括担当やNCC委員会の事務局を担当した後、車両担当として、センチュリー、 プログレ、ソアラ(SC)、ランドクルーザープラドなどの開発に関わる。またチーフエンジニアとして、レクサスHS、SAIなどを担当。2014年6月からレクサスGSの開発責任者。 趣味は音楽。中学時代にギターを始め、高校1年からロックバンドを結成してギタリストとして活動。現在も活動継続中。ハードロックから歌謡曲までを幅広くたしなむ一方でオリジナル曲も多数という。

青木 淳(あおき・じゅん) 1968年愛知県生まれ。92年、岐阜大学工学部卒。自動車メーカーに入社。ガソリンエンジンの燃焼効率を上げる研究などに従事した後、2004年トヨタ自動車に中途入社。主に、エンジンの適合を担当。ランドクルーザーや北米向けのタンドラ、セコイアなど商用車のV8エンジンの制御プログラムの開発などを手がけた後、2012年1月に製品企画セクションに異動。現行のレクサスGS(4代目GS)の担当として、2.5Lエンジンを採用したハイブリッドモデルの新グレードGS300hの開発、および今回のマイナーチェンジを担当してきた。
趣味はスキー。高校時代にスキーを始め、社会人でアルペンレースに出場し始め、現在も社会人レーサー活動中。近年は基礎スキーにもトライ、テクニカルプライズ取得。雪がないシーズンはテニスで汗を流す。

取材・文・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

MORIZO on the Road