MT再考(最高)…安東弘樹連載コラム

先日、ある番組のロケでTOYOTAのカローラスポーツのMT(マニュアル・トランスミッション)モデルを長時間、運転する機会に恵まれました。

私は普段からMTのスポーツカーに乗っていて、所謂、シフトフィール(シフトノブがそれぞれのギアゲートに入るときの感触等)に関して、一家言あるので、楽しみであり不安でもありました。何故なら、シフトフィールが悪いと楽しみが半減してしまうからです。

撮影の都合から事前にクルマに触れる事は叶わなかったので、撮影本番で初めてクルマに乗り込んで、いよいよエンジン始動です。今回のロケのパートナーの女性タレントさんを乗せて、どんなフィールか期待しながらシフトノブをロー(1速)に入れました。

想像以上に軽いクラッチに驚いて、同じくノブの反力の小ささに戸惑いましたが、スコッと、まずまずの感触で1と書かれたゲートにノブが吸い込まれます。思わず「操作が軽いな~」と声が出ました。隣のタレントさんは、ポカンとしています(笑)。

自分のクルマと比べて操作系が全て軽いのに、5分ほどで慣れてからは、MTのクルマを初めて、もしくは久しぶりに運転する方には、この位が良いのだなと納得し始めました。そこからは、運転が楽しくて仕方がありません。

今回のロケ場所は房総半島の某所(放送日が先ですので細かい事は申し上げられません。スミマセン)。適度なワインディングロードも有り、MTのクルマをリズミカルに運転するには、とても良いコースでした。

それにしても、フィールが良いMT車の運転は「とにかく楽しい」の一言です。私の周りの殆どの方は(ジャーナリストを含む自動車関係者でさえ)MTのクルマの運転は疲れると言います。どうしても私には理解が出来ないのです。

何度か申し上げていますが、私はどんな渋滞でもATよりMTのクルマの方が疲れません。理由は簡単です。ツーペダルのクルマの場合、渋滞時は左足を殆ど動かしません。渋滞の場合、右足も、ほんの少し動かすだけで、身体全体として動きが無くなる事になります。これでは血流も滞りがちになり、所謂、エコノミークラス症候群に陥る条件が整ってしまいます。

その点、MT車の場合、低速でノロノロ動く度にクラッチを踏みシフトノブを動かし、常に身体を適度に動かせる事になり、長時間フライトの時に航空会社が推奨する体操を常時している様なものです(笑)。そう、科学的な見地からもMTの方が疲れないというのが私の考えなのです。しかし、これまで、この考え方に対して賛同された事はありません。皆、MTの場合、「クラッチを踏む左足が攣りそうになる」等と仰います。これが本当に私には理解できないし、経験もありません。皆さん、どれだけ力を込めてクラッチを踏んでいるのでしょうか。

普段、私が運転しているクルマのクラッチは今回のカローラスポーツのクラッチ踏力の軽さに驚く位に重い部類に入ると思うのですが、それでも、一度として足が攣りそうになった事は無いばかりか、クラッチを踏むことに疲労を感じた事もありません。

ちなみに私、上半身は、それなりに鍛えていますが、残念ながらランニングやスイムといった下半身も鍛えられるトレーニングはしていませんので脚力は決して強い方ではないと思います。これまでも陸上やサッカー等、脚力に特化したスポーツの経験もありません。ですからクラッチを踏む力そのものは、平均的もしくは平均以下かもしれません。

だからこそ、不思議でならないのです。

理由の一つが、これも何度か申し上げましたが、教習所で拷問の様な「半クラッチ教習」という名の坂道発進で嫌な思いをしたドライバーが、「二度とこんな思いはしたくない」と脳裏に刻んでしまうから、と私は個人的に思っています。クラッチにとっても、人間にとっても、「半クラッチ」というのは、不自然な状態であり、それを免許取得時に身体に叩き込むというのが、私には理解できません。日本の教習所を経て免許を取得したドライバーは皆、「半クラッチが疲れる」と言うのが、この弊害を表しています。

渋滞時、私は「半クラッチ」状態にする事は殆どありません。ニュートラルポジションにしているか、完全にミート(繋がっている)させているかを繰り返しています。ですから足を攣る事も過度な疲労を感じる事も無いのだと思います。

話を戻しますが、今回運転したカローラスポーツのiMTと呼ばれるMTは、殆どのドライバーが苦手とする坂道発進時も車が後退しない様に、一瞬、ブレーキをかける機能(最近のMT車には殆どのクルマに付いています)や、スポーツモードにすると、シフトダウン時にはエンジン回転を合わせてくれる、シンクロレブと言われる機能(MTに慣れたドライバーが、足の先の方でブレーキを踏みながら足の踵の方でアクセルを踏んで回転を合わせて無駄なスピードロスや不快な振動を避ける技術)も付いていて、出来るだけドライバーの負担を減らしてMT車を選んで貰おうという意思が伝わってくるものでした。

メーカー主催のカローラスポーツの試乗会には、このMTモデルは用意されていなかったので、今回は貴重な機会になりました。唯、折角、素晴らしい機能が付いた楽しいMTのクルマをリリースしたのにも関わらず、MTモデルのアピールが世間に全くされていない事が私には残念でなりません。

今回、シフトフィールマニアの私は、撮影するためのロケの間、純粋に移動するための行程、更にはロケ終了後、テレビ局に戻る行程も、全て運転させて頂きました(ロケが日曜日で、帰路は大渋滞であった為、合計8時間以上、運転していた事になります)。

通常、出演者はロケ撮影時しか運転しませんが、私は、その運転が楽しくて、スタッフに文字通り呆然とされながら、最初から最後までステアリングを最後の最後まで誰にも渡しませんでした。それだけ運転が楽しいクルマであった、という事です。

正直に書きます。これまでTOYOTAのクルマで運転が楽しいと思った車は「皆無」でした。これは86のMTも含みます(86はドライビングポジションがどうしても合わず、スポーツカーとして見た時に、低トルクや操作系の軽さに最後まで違和感を覚えました)。

今回運転したカローラスポーツは全てに於いての“身の丈感”が良く、そして最も大きいのが、オプションのものではありますが、身体をキチっと支えてくれるシート、完ぺきなドライビングポジション(全てのTOYOTAのクルマに付けて欲しいフットレストの位置も適切)による疲労の少なさが、私をステアリングから離さなかった理由だと思います。

他にも私を楽しませてくれたMT車はMAZDAのロードスターやルノーのトゥインゴGT等、少数ではありますが、今も存在しています。世の中が自動運転に変わっていく時に「MTの運転の楽しさ」なんて古いと思われる方もいるとは思いますが、私は断言します。

MTだけではなく運転が楽しいクルマを造れるメーカーこそ、快適な自動運転のクルマもつくれると。そしてユーザーも楽しい思いをさせてくれたメーカーのクルマを、それが自動運転になろうとも、選ぶ様になると思います。しかも完全自動運転になるには、まだまだ時間を要します。それまでは、運転自体が退屈で苦痛なものと感じるよりも、楽しんだ方が人生も豊かになるというものです!

皆さん、教習所の坂道発進の悪夢は忘れて、もう一度、MTの楽しさを味わってみませんか?!

安東 弘樹

MTの運転テクをおさらい~GAZOOドライビングスクール

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