2023年のルーキーレーシングは、3人のプレーイングマネージャーがキーマンだ
スーパー耐久レースに、水素エンジンやカーボンニュートラル燃料(CNF)を利用して2台体制で挑戦し続けているROOKIE RACING。そのルーキーレーシングが、今シーズンは3台体制で臨むこととなった。それぞれのマシンにはプレーイングマネージャーが存在する、非常にユニークなチーム編成だ。しかも3台とも、目指す目的が異なるのだ。レースなのに優勝以外に目指す目的とは、一体どういう事なのか、片岡選手、大嶋選手、石浦選手に教えてもらった。
スーパー耐久シリーズには9つのカテゴリーがあり、順位を競わないQクラスというカテゴリーが存在する。このクラスは、車両開発、実走試験の場と言った車両がエントリー可能なため、競争以外の目的が存在するのだ。現時点ではトヨタ、マツダ、スバルの3社が次世代のカーボンニュートラルマシンの開発の場として参戦しているし、ホンダも2023年にCNFのシビックタイプRがデビュー予定だ。
1台目は、最高峰のST-Xクラスにエントリーした、中升 ROOKIE AMG GT3。監督件ドライバーの片岡龍也選手を中心に蒲生 尚弥、平良 響、鵜飼 龍太の4選手で純粋にシリーズチャンピオンを狙い、世界で沢山売れているレースで勝てる車を学ぶことも目的となる。
残りの2台は開発車両としてQクラスにエントリーし、それぞれ違った車両開発に挑戦している。ORC ROOKIE GR86 CNF concept の、監督件ドライバーに大嶋和也選手を据え加藤恵三、豊田大輔、山下健太の4選手でカーボンニュートラル燃料を使用した次のレーシングマシンの開発を目的に参戦している。そしてORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの石浦宏明監督件ドライバーに佐々木雅弘、MORIZO、小倉康宏選手の4ドライバーで液体水素燃料を使用した開発車両で挑んでいる。それぞれの目的に向かって、同じレースに臨む3人のプレーイングマネージャーに話を聞くことができた。
中升 ROOKIE AMG GT3と片岡龍也選手
シリーズチャンピオンを目指す片岡監督兼ドライバーは、
「監督とドライバーの比率で言えば、監督8割ドライバー2割ですね。車を走らせるという意味では、蒲生選手を中心として平良選手と鵜飼選手の言葉がエンジニアに正確に伝わるようにする役目がメインです。蒲生選手を見ていると、彼は天才型なのでなんでも乗れてしまいます。そのためセッティングの幅が広く時としてジェントルマンドライバーとの間に、感覚が乖離してしまう事もありました。その辺をコントロールしたり、セッティングの方向性のきっかけを作ったりすることが役割に一つですね。」
監督とドライバー兼任のメリットについて聞いてみると、
「一緒に乗る事で、監督としての仕事をより深く行えます。それに実際に乗ることで感覚を共有できるので、乗らずに想像で話すより正確にエンジニアに伝えることができるのも大きなメリットですね。」
今シーズンの目標は、
「もちろんチャンピオンを狙いに行きます。このチームは、それだけの力があると思っています。ともあれこのレースは、ジェントルマンドライバーがキーとなってくると思います。このチームで言えば鵜飼選手ですが、ベースはあるとしてもGT3初シーズンですので早く慣れてもらうことが課題でしょうか」
と、シリーズ制覇に自信をのぞかせていた。やはり監督業の占める割合が多くなり、ドライバーとして先頭に立つことはないようだ。
ORC ROOKIE GR86 CNF conceptと大嶋和也選手
次にORC ROOKIE GR86 CNF conceptを任された、大嶋監督兼ドライバーに話を聞いてみた。
「昨年のオートポリスで、片岡監督が欠場した時にやはり一台に一人船員の監督が必要かなという話になったんです。特に今年は一台増えるので、なおさら煩雑にならない為に必要ということになったんです。そこで片岡、石浦、僕に話が来たというのが発端なんです。」
確かに3台3チームを一人の監督というのは無理のある話しだろう。それにしても監督経験のない大嶋選手は、監督件ドライバーに戸惑いはなかったのだろうか?
「この話を受けた時に、戸惑いとか迷いはありませんでした。そもそもチームルマンで走っていた時も、ただのドライバーではなかったしルーキーレーシングでも同じような立場でしたから」
今回は勝つことが目的ではない、このことについて聞いてみると、
「このチームは車両の開発が目的なので、いろいろな部所の方々とコミュニケーションをとっていくのが大事なんだと思っています。それぞれの部所の想いが行き違わないように、すり合わせて皆が同じ方向を向いてレースできるように心がけています。乗ることに関しても、これと言って大変なことはありません。パートナーに山下健太選手がいるので、セットの面でも任せてしまっても大丈夫ですしうまく回っていると思います。それよりもこの車を開発する事で、次期スポーツカーに必要な要素を明確にしていくことが目的です。」
良い車を作ることが目的であるが、その結果人材育成や新しい考え方がチームに浸透していくことも大切な役割だと語ってくれた。
今回はトラブルのためROOKIE GR Yarisで出場した石浦宏明選手
最後にORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptを使い、水素燃料でレースにチャレンジするチームリーダーの石浦選手に聞いてみた。
「監督と言うと野球みたいに、試合の采配をするイメージが強いと思いますが、レースの監督は少し違います。采配は、レースエンジニアがいますのでお任せできます。このチームの監督の仕事は、チームがスムーズに回るような調整や、トラブルの発生を未然に防ぐ調整がメインの仕事です。今年はスーパーフォーミュラでも監督をやりますし、実戦での監督業の勉強をしています。」
監督一年目らしく謙虚な気持ちで望んでいる印象だ。順位を競わないチーム監督としての印象を聞いてみると、
「ライバルとの戦いではないので、通常の監督とは少しやることが違ってきますね。全く新しいシステムのマシンですから、安全に完走させる事が重要なポイントになってきます。」
革新的すぎるくらいの開発車両だけに、目的も明確に定められているようだ。
「液体水素を使って走らせるのは、技術的にとてもハードルの高いチャレンジなんです。ですから、多くの企業からたくさんの技術者が関わっています。その技術者の方々が円滑に仕事をできる環境を作るのは特に重要な仕事ですね。」
実験室をサーキットに持ち込んだと言っても過言ではないこのプロジェクト。新しい挑戦をサポートするのが仕事だが、仕事内容の概要はレーシングチームそのもののような気もした。3月19日、三重県の鈴鹿サーキットで開幕したスーパー耐久シリーズ。ROOKIE RACINGは、それぞれの目的に向かって、シーズンを戦うことになる。次戦は富士24時間レース、シリーズ中最も過酷なレースだ。ハードルは高ければ高いほど、チームの結束も強くなる。3台のマシンを、ワンチームで完走、優勝を果たして欲しいと願うばかりだ。
(文、写真:折原弘之 編集:GAZOO編集部)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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