【カーライフメモリーズ ~愛車と家族の物語~】亡き父から息子へ、親友が8年がかりで繋いだ愛車のバトン(カローラワゴン/KE73)

近年の爆発的な旧車ブームの影響もあり、懐かしの名車に乗る若者に出会う機会が増えた。そして、そんな彼らにお話を伺うと、父親と2世代で旧車ライフを楽しんでいるというパターンがとても多かったりする。

今回お話を伺ったカローラワゴンのオーナー、志村朋輝さんは大学2年生の19才で、このクルマを手に入れた理由を尋ねると「父親が昔乗っていた愛車なんです」とのこと。

しかし、現在、父親と一緒にこの旧車を所有しているわけではなく、もともと「すごく好きでどうしても欲しかった」というわけでもない。少し特別なストーリーを持つ1台だ。

じつは朋輝さんのお父さんは8年前に急逝し、最後の愛車となったこのカローラワゴンは形見分けで当時のクルマ仲間だった友人の手に渡っていたのだという。

その友人というのが、今回の取材にも立ち会っていただいた坪山貴裕さん。

「もともと志村(朋輝さんのお父さん)とは、高校時代からの同級生で、オレをクルマ趣味にひきこんだのもあいつでした。自分はAW11を買って、オレにAE86を勧めてきて。それからは70系カローラを何台も乗り継ぎながら、クルマいじりをしたり走りに行ったり、いつも一緒に過ごしていましたね。そういう姿を知っていたので、彼が亡くなった時に、朋輝のおじいさんが『これはお前が持っていけ』と言ってくれたんだと思います」と、坪山さん。

そしてその時に、とある決意をした。

「当時、朋輝は小学校5年生だったんですけど、こいつが免許を取るまでオレがこのクルマを維持して、乗れるようになったら渡してやろうって思ったんです」

それから8年間、自分の愛車として普段乗りしながら、このカローラワゴンを維持し続けてきたのだという。
その間にはオールペンをしてリフレッシュし、ダメになったラジエターを他車種用のアルミ製へと交換もした。一時期は売却しようと考えた時期もあったけれど、幸いにも(!?)買い手がつくことなく、とうとう先日、朋輝さんに受け継がれる日がやってきたというわけだ。

「このカローラワゴンが僕の手元に来たのは1週間前なんですが、さっそくインスタに写真をアップしたら、友だちから思った以上に反応があってびっくりしました(笑)」と笑顔を見せる朋輝さん。

「昔、このクルマが家にあった頃の記憶は少しだけあったけれど、8年ぶりに我が家にやってきた時『すごいイカツイ顔だなぁ』というのが第一印象でした。だから、前からみた姿はお気に入りです。あと、中学生の頃にアーケードゲームにハマっていた時期があったんですが、カクカクしたボディラインと『初代GT-R』という響きが好きでハコスカを使っていたんです。だから、このクルマのボディラインも好みですね」

朋輝さんのトヨタ・カローラワゴンは、1985年式のKE73型。

同型に4ドアセダン、3ドアリフトバック、2ドアハードトップ、バンなど多くのラインアップがあり、なかでも2T-Gを搭載したTE71カローラ・レビン 1600GT はラリーなどでも活躍して人気となったモデルだ。

このカローラワゴンに搭載されている4K-Uエンジンは1300ccのキャブレター仕様。

「エンジンをかける時には、まずアクセルを何回か踏んでから、と坪山さんに教えてもらいました。なんだか儀式みたいでいいですよね。家にあるファミリーカーでしばらく運転の練習はしていたんですが、ステアリングは重たいし、バックカメラもついてない。まったくの別物なので、まだ恐る恐る乗ってます(笑)」

足まわりはフロントがストラット、リヤがリーフリジットで「自分が乗っていた時はフロントに短いスプリングを組んで、リヤは板バネを裏組みして車高を落として乗っていましたが、朋輝に渡すので純正車高に戻しました」と坪山さん。

ホイールは赤色だったハヤシレーシングを黒色にペイントし、ホワイトレター入りのタイヤを組み合わせた。

「実はこのステアリング、28年前に志村がはじめて買った愛車で、はじめて交換したパーツなんですよ。形見分けを手伝った時に見つけて家に飾っておいたんですが、朋輝に渡すのにあわせて装着しました。同じ頃に買ったオレのステアリングはもうボロボロなのに、なぜかコレはまだツヤツヤなんですよね」

グローブボックスの中身やドリンクホルダーも、当時のままだという。

朋輝さんがお気に入りだという少し青味がかったレイブリック製ヘッドライトは、坪山さんが乗り始めた時には交換済みだったというから、おそらく朋輝さんの父親が交換したもの。

そして、坪山さんの現在の愛車ジムニーにも、レイブリック製のヘッドライトが装着されていた。ずっと一緒にカーライフを楽しんできた仲間だから、選ぶパーツにも共通点が多いのだろう。

取材当日は朋輝さんのお母さんや坪山さんの奥さんも集まり「みんなで一緒にスノボに行ったよねー」「あーこれ、あいつがサーキットで事故ったときの写真だ」など、当時の写真や掲載誌を見ながら大盛り上がり。

「いろいろとやりつくして、最後に普段乗りしやすいクルマをと選んだのがこのカローラワゴンだったんだと思います。ほとんどノーマルのままで乗っていましたからね。でも、当時は塗装がダメになってカサカサの状態だったのに、8年経ってキレイになって帰ってきたから驚きました(笑)」と朋輝さんのお母さん。

坪山さんたちとは今でも家族ぐるみの交流があり、当時のクルマ仲間の男性陣は毎年、志村さんの命日に集まって飲んだりもしているそう。

しかし、朋輝さんはこれまで当時のお父さんのクルマ遊びについてはあまり知らされてこなかったようで、当時の写真や雑誌を見て「路上でオールペンとか、ヤバすぎる…」と、いろいろなことに衝撃を受けたようだ。

取材をはじめたときには「好きになるかはまだわからないし、イヤになったら乗り換えちゃうかもしれないですけど、このクルマに乗るためにわざわざマニュアル免許を取ったし、せっかくいただいたからまずは付き合ってみたいと思っています」と話していた朋輝さん。

しかし、取材が進んで知らなかった話がどんどん出てきたことで、このクルマへの興味や愛着が急速に高まってきたようす。

「じつはゲームの中で使っていたハコスカは黄色にしていたんですけど、写真をみていたら親父がお気に入りだったクルマも黄色でした。もしぶつけてしまったら黄色に塗ろうかなぁ。それなら親父もきっと喜んで許してくれますよね(笑)」と朋輝さん。

「友だちといっしょに湘南に釣りに行く約束をしているんです。趣味のスノボにも行きたいし、大学ではボーイスカウトをするローバークルー部に入ったので、キャンプとかにも活躍してくれそうですね」と、坪山さんから後部座席の倒し方を教わっていた。

ちなみに荷室に搭載されているパンク修理キットとコンプレッサーは「古いクルマはトラブルがつきものだから」という坪山さんからの贈り物だ。

旧型車は思わぬトラブルに見舞われることもあり「専門知識や経験がないと乗り続けることが難しい」というお話を聞くことも少なくない。

しかし、朋輝さんには「高速に乗って出掛けるんなら、その前にETCをつけなきゃなぁ」と、先回りして心配してくれる坪山さんという心強い味方がいる。

これまでも親同士のつながりはあったけれど、この1台のカローラワゴンを通して、また志村家と坪山家の新たな家族付き合いがはじまっていくことだろう。

エンジン音を動画でチェック!

(撮影: 平野 陽)

[ガズー編集部]

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