新車から20年。「次の20年」を一緒に生きるためのレストアを決行!2004年式ホンダ S2000(AP1型)

  • ホンダ・S2000(AP1)

ある動画を見ていたとき「ホンダ S2000といえば?」という質問に、若い方が「古い!」と答えていてハッとした。2000年初頭に登場したS2000をリアルタイムで見つめてきた立場からすると、時の流れの早さに驚かされるとともに、いささか複雑な心境でもある。なにしろ、これまで「古い」なんて1度も思ったことがないのだから。

生産終了後も高い人気を誇るホンダ S2000に、新車から乗り続けるオーナーへの取材が実現した。今回は“次の20年”に向けて、大掛かりなレストアを決行したという愛車とオーナーのカーライフに迫る。

  • ホンダ・S2000(AP1)の左リア

「このクルマは2004年式のホンダS2000(AP1型)です。24歳のときに新車で購入して、2024年でちょうど20年目になります。私も43歳になりました。現在の走行距離は6万8千キロです」

1998年に本田技研工業は創立50周年を迎えた。その記念モデルとして1999年4月15日に発売されたホンダ S2000(AP1型/以下、S2000)は、先代のS800以来、29年ぶりとなるFRスポーツの復活だった。

  • ホンダ・S2000(AP1)のS2000のロゴ

車名の「S」は「SPORTS」を意味する。S500・S600・S800と「Sシリーズ」の系譜を継ぐS2000の「2000」は、2リッターの排気量を示しながら新世紀の到来も想起させた。

さらに、Sシリーズ伝統のオープンボディをもつS2000は、新開発の骨格構造「ハイエックスボーンフレーム」によって、クローズドボディと同等以上のボディ剛性を得た。また、フロントミッドシップレイアウト(FRビハインドアクスル・レイアウト)にすることで、FRスポーツとして理想的な前後重量配分50:50も実現している。

現在も一級品の国産コーナリングマシンとして、数多くのショップがデモカーやタイムアタックマシンとして起用している車種でもある。

  • ホンダ・S2000(AP1)のエンジンルーム

オーナーが所有するS2000のボディサイズは全長×全幅×全高:4135×1750×1285mm。排気量は1997cc。搭載される直列4気筒DOHCエンジン「F20C型」は、VTECを搭載したNAエンジンで、最高出力250馬力を誇る。さらにレッドゾーンは9000回転を許容するという超高回転型のパワーユニットである。

S2000は、生産終了の2009年までに主立ったマイナーチェンジを4回行っており、2リッター「AP1型」は前期・中期・後期型に、2.2リッター「AP2型」になると前期・後期型(タイプS)に分かれている。

オーナーが所有する個体は、排気量が2.2リッターにアップされる前のモデル、つまり2リッター「AP1型」の後期型だ。2003年にマイナーチェンジされた通称「04モデル」であり、ボディカラーはロイヤルネイビーブルー・パールを選択している。

  • ホンダ・S2000(AP1)のデジタルメーター

2005年のマイナーチェンジで排気量が2.2リッターとなった「AP2型」では、走りの質感をより高める改良が施されている。中低速回転域での扱いやすさを重視するため、エンジンの最高回転数が9000回転から8500回転に抑えられた。そのほかにも電子スロットル採用などのアップデートが行われた。

しかしあえて「9000回転まで回る最後のS2000」として、この04モデルにこだわるファンは多い。

  • ホンダ・S2000(AP1)のフロント

04モデルでは、前後のライトやバンパーのデザインも一新された。ホイールのサイズも16インチから17インチにサイズアップされ、ホイールデザインも変更。内装では、オーディオリッドやセンターコンソールなどに上質感がプラスされた。

デジタルメーターのデザインも変更されている。これまで直線的な表示だった水温計と燃料計は円形となり、縦並びに配置されたことで、視線を移動しなくてもひと目で把握できるようになった。

  • ホンダ・S2000(AP1)のステアリング

ちなみに、S2000のデジタルメーターパネルは、マクラーレン・ホンダのMP4/5がモチーフになっているといわれる。F1へのオマージュだけでなく、湾曲させたタコメーターとセグメントディスプレイ(文字盤)は、速度と回転数を素早く把握できる機能的メリットもある。

そんなS2000をこよなく愛してきたオーナーは、意外にも幼い頃からクルマが好きだったわけではないという。運転免許を取得するまでは機械そのものに興味があり、20歳でIT関連の仕事に就いた。

  • ホンダ・S2000(AP1)のHマーク

「今は他界した父が“ホンダ車オンリーの人”だったので、好きになるスポーツカーも自然とホンダが多かったですね。S2000はスペックを見て、当初はメカニカルな部分に興味をそそられました」

そう語るオーナーとS2000との出会いを振り返ってもらった。

  • ホンダ・S2000(AP1)のシフトノブ

「きっかけは、最初の愛車だったプレリュード(BB4型)が欲しくて、父と一緒に販売店へ見に行ったときです。そこにデビューしたてのS2000が展示してありました。私がこのクルマは何かと父に尋ねたところ『この間発売されたクルマだよ。S2000といって、排気量2000ccで2000年がモデルイヤーのすごいクルマだよ』と教えてもらったのを覚えています。そこからカタログや情報を収集して、好きなクルマに変わっていきました」

プレリュードを約2年間所有し、インテグラタイプR(DC5型)に乗り替えた。インテグラのオーナーコミュニティにも加わり、サーキットを走るようになるなどカーライフはますます充実していったという。ところがある日、S2000をマイナーチェンジするという情報が飛び込んできた。

  • ホンダ・S2000(AP1)のF20Cエンジン

「少し前から、2005年には2.2リッターに排気量をアップするという情報が流れていて、その後はどうなるんだろうと思っていたところでした。排気量は上がっても最高出力が落ちるというし、このタイミングを逃せば2リッターのモデルは新車で買えなくなる…それじゃあ買ってしまえ!と決断しました」

そこまでS2000でなければダメだった理由とは?

「やはりオープンに乗りたかったという理由は大きいです。国産のオープンスポーツならいくつか選択肢がありますが、9000回転も回るエンジンを積んだハイスペックなスポーツカーで、しかもオープンモデルという点に惹かれました。そのとき父はもう他界していて、S2000に乗ってみたいと生前に話していた思い出にも背中を押された気がします」

  • ホンダ・S2000(AP1)の左フロントタイヤ

こうして、滑り込みで2リッター最終型のS2000を新車で手に入れた。当時のオーナーは24歳。納車当時のエピソードを伺ってみた。

「試乗せずにオーダーしたので、納車日がS2000に初めて乗った日だったんです。中でも印象に残っているのは、なめらかな乗り心地ですね。すごくスパルタンな乗り心地だと想像していたため、インテグラタイプRよりも乗りやすくて驚きました。その次に気持ち良い走り。これは速いクルマだと確信しました。周囲からは『チャレンジャーだね(高いのによく買ったね)』といわれましたけど(笑)。インテグラのコミュニティにも報告に行きました。クルマが変わってもインテグラオーナーの仲間たちとは今も良い付き合いをしています。一緒に仕事をしている方もいますよ!」

  • ホンダ・S2000(AP1)のリアウイング

「オトコの60回ローン」の審査も無事に通ったそうだが、維持費をどのように捻出していたのだろう。

「20歳から働いていましたし、頭金はインテグラタイプRの下取りで得たお金が結構あったので大丈夫でした。どちらかといえば自動車保険が大変でしたね。S2000の保険代はすごく高くて、20代半ばぐらいの保険代に加えてガソリン代などの維持費もあるので、結構きつかったです。でもそれ以上に楽しいクルマだったので、気がついたら支払いが終わっていた感じでしたね」

  • ホンダ・S2000(AP1)のレカロシートのシール

そんなオーナーに、20年近く所有してみて変化した点を尋ねてみた。

「S2000はサーキット走行がメインとなったため、もう1台普段使い用のクルマを増車したんです。トヨタ ヴィッツ、ホンダ フィット・ジェイド、フォルクスワーゲン ポロGTIと乗り替えてきて、今は妻や子どもたちを乗せるためにファミリー用としてホンダ オデッセイ(RB3型/4代目)に乗っています。重心が低くて走りが良いし、2.4リッターのエンジンは200馬力以上あってパワフルです」

  • ホンダ・S2000(AP1)のヘッドライト

S2000を購入してから結婚し、現在は2児の父親となった。オーナーの奥さまはS2000のことをどう思っているのだろうか?

「妻には『ウチには動いてないクルマがある!』と小言をいわれたこともありました(苦笑)。それでも所有を許してくれていることに心から感謝しています。この先も夫婦で助け合っていきたいですし、またドライブの機会もあればと思っています。一緒にドライブしたのは結婚前に1回くらいだったと思うので……。乗り心地は良くないですけど(笑)」

  • ホンダ・S2000(AP1)の右サイド

まさに奥さまの理解あってこそのS2000ライフといえるだろう。そして、お子さんたちをS2000に乗せてドライブする機会はあるのだろうか。

「娘を乗せることがありますね。屋根が開くクルマだと喜んでくれます。もともとクルマが大好きなので、運転免許を取得できる年齢になったらS2000に乗ってもらえるといいな…と密かに期待しています。息子はもう少し成長してから乗せたいと思います」

  • ホンダ・S2000(AP1)の4点ロールケージ

S2000はサーキット走行をメインにしているというが、本格的に走り始めたのはいつからだったのだろうか。

「32歳のときなので、10年ほど前ですね。富士スピードウェイがメインで、ツインリンクもてぎや筑波サーキットにも行きます。目標タイムを目指して自分を鍛える部分とクルマに頑張ってもらう部分とを決め、吟味しながら必要なモディファイでS2000をアップデートしていくのが楽しいですね」

サーキットユーザーであれば、剛性アップするためのハードトップを装着するオーナーも多い。そこを幌のままにするこだわりとは?

  • ホンダ・S2000(AP1)のリアビュー

「一時期は検討していましたが、S2000の本来のコンセプトはオープンだということで思いとどまりました。オープンにできる日はいつも屋根を開けて走っていますね」

S2000のコンセプトは「リアルオープンスポーツ」。本籍はサーキットとしながらも、「いつでも、心のままにオープンドライブできる」クルマなのだ。

では、オーナーがこのS2000の中でもっとも気に入っている点は?

  • ホンダ・S2000(AP1)のエンジンルーム

「そうですね…。シンプルに“速いところ”でしょうか。私のS2000は、サーキットで走らせると他のS2000よりもストレートが速いんです。同じ04モデルを乗り比べさせてもらったんですが、やはり私のS2000が速い。F20Cは個体差があるといわれていますが、私のエンジンは“当たりのエンジン”かもしれないですね」

冒頭でも述べたとおり、オーナーのS2000はサーキット走行を目的としたモディファイが施されている。続いてそのモディファイの内容をお聞きした。

  • ホンダ・S2000(AP1)が履くRAYSのVOLK RACING CE28N-plus

「街乗りは快適でサーキットも走れるというコンセプトです。あまり奇抜なことはしていなくて、自分が満足のいくものであればいいです」

そう話すオーナーのS2000は、無限のフロントウイングとリアウイングを装着する。

足回りはKYBの Spec TRを選択。ホイールは18インチのVOLK RACING CE28N-plusに POTENZA RE-71RSを組み合わせている。ブレーキに関しては富士スピードウェイをメインにしていることもあり、ブレーキにシビアなフルサーキット向けのブレーキパッドWinmax AC3を前後に装着している。

  • ホンダ・S2000(AP1)

車内を覗くと、サーキット走行には必須となるCUSCOの4点ロールケージやRECAROのシートSP-GNなどが装着され、レーシーな雰囲気を放つ。Wedsの空気圧センサーも装備されている。シフトノブはNSX-Rの純正品だ。

マフラーは無限。エキマニとエアクリーナーも同様に無限製に交換している。

さらにオーナーは最近、大規模なレストアを決行したという。

「新車から20年という節目なので『今までありがとう』という気持ちも込めたリフレッシュです。現実的な問題として、部品も“そろそろ出なくなりそう”だということ。実際に出ない部品も結構あるんですよ。ゴムの部品の供給が危ういので全交換しています」

  • ホンダ・S2000(AP1)の幌

消耗品はもちろん、あらゆるリフレッシュを行ったようだ。その全容を伺っていこう。

「幌が古くなっていたので張り替えをし、足回りやホイール・吸排気系パーツを使っていたものと同じ新品に交換しました。さらにボディを作り直して新車に近い形に戻してもらったんです。ボディアライメントを行い、修正。前後サブフレームを新品にして、リアは溶接補強しています。足回りやアーム類は純正品の新品に交換。新品のアーム類に無限のブッシュを打ち直してすべてリフレッシュしています。外観よりも見えない部分に手間が掛かっているかもしれないですね」

  • ホンダ・S2000(AP1)

ここまで大規模なレストアを、どのように依頼したのだろうか。

「複数の工場に出しました。ボディは板金工場で全塗装をし、サブフレームや補強は知人を通じて工場を紹介してもらいました。部品を集めるのに半年ほど掛かっています。出ない部品はバックオーダーで待機。購入できると預かってもらっていました。なので少しずつ補強作業を進めておいて、部品が揃った時点で板金工場に持ち込んで依頼するという流れでした」

これほど部品調達に苦労するということは、今からS2000を買って楽しむ場合、部品供給の問題はかなり深刻に思える。そのあたり、オーナー自身はどう考えているのだろうか。

  • ホンダ・S2000(AP1)の運転席

「これから大変になってくると思います。S2000も、一部で部品の出ないもの(欠品)も出始めていますね。パワステのコンピューターが出ないのはもう有名らしくて、通常よりもかなり高額で取引きされています。最悪壊れたら“重ステ”になるだけなんですけど、ないのはしんどいと思うので私もストックを持っています。そのうち部品取り個体を探すとか、違う方法で解決しなければならなくなるでしょう。特にコンピューターとゴム類は優先してストックしておいたほうが良いと思っています」

  • ホンダ・S2000(AP1)のリア

最後に、次の20年に向けてS2000とどう過ごしたいかを尋ねてみた。

「正直、乗り替えようかと思った時期もなかったわけではありません。最終型の『タイプS』が出たときは迷いましたし、アルピーヌA110が気になった時期もあったんですが、結局S2000に代わるクルマは存在しませんね。この先もし、クルマを買うなら増車します。実は近い将来、NSX(NA1型)を増車しようと決めたばかりです。S2000は大事に乗り続けていきたいですね。今後はサーキットをメインにしなければ、あと20年は維持できるのかな?そのうち子どもたちも運転してくれたらなとも思います」

  • ホンダ・S2000(AP1)のリア

S2000のオーナーの中には、1台を十数年間乗り続けている人が少なくない。だが、ここまで徹底したレストアを行っている個体はまれだろう。オーナーの体験談が、これから手に入れたいという方の参考になれば幸いだ。

余談だが、S2000は2024年4月15日に発売25周年を迎える。S2000にとっては節目という意味だけではない。1999年に発売されたAP1(前期型)の25年ルールが解禁となる。この先どんな未来が待っているのかは誰にもわからない。

しかし、今回の取材で「ホンダS2000」というクルマが後世に残る名車であることを強く実感できたことは確かだ。取材後、オーナーと愛車を眺めながら雑談をしていたとき「もう、S2000みたいなクルマは2度と出てこないでしょうね……」と話し合った。悲しいかな、その可能性は高そうだ。オーナー自身、その事実を強く実感しているからこそ、今回のレストアに踏み切ったのだ。あとは、S2000という、この素晴らしい名車をオーナーと2人のお子さんが受け継いでくれることを心から願うばかりだ。

  • ホンダ・S2000(AP1)のステアリングのHマーク
  • ホンダ・S2000(AP1)のマフラー
  • ホンダ・S2000(AP1)の空気圧を調整している様子

(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき / 取材協力: Garage, Café and BAR monocoque)

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