ジウジアーロに敬意を。28歳のオーナーが見初めた1990年式いすゞ ピアッツァ(JR120型)

“若者のクルマ離れ”と呼ばれて久しい。確かに現実はそうかもしれない。しかし、取材を通じて20代の旧車オーナーに出会う機会に恵まれているからなのか、世間でいわれるほどではない…というのが正直なところだ。

SNSを眺めていると、若いオーナーに「こんなクルマの楽しみ方もあったのか!」とハッとさせられることも少なくない。クルマ好きの人口は減っても、若い世代では“好きの多様化”が進んでいるのかもしれない。

今回の主人公である男性オーナーは28歳の青年。自身よりも“年上”の愛車は、1990年式のいすゞ ピアッツァ(JR120型、以下ピアッツァ)。ジウジアーロが手掛けたエキセントリックかつ端麗なスタイルは、生産から30年経った現代においても色褪せることはない。

ピアッツァは117クーペの後継モデルとして登場し、1981年から1994年まで生産された。オーナーの愛車は「XE ハンドリングバイロータス」と呼ばれるグレードで、技術提携を結んだロータス社がハンドリング性能に関わるチューニングを施している。ボディサイズは全長×全幅×全高:4385×1675×1300mm。排気量1994cc、駆動方式はFR。「4ZC1型」と呼ばれる直列4気筒SOHCターボエンジンをフロントに搭載し、最高出力は150馬力である。

では、若きオーナーはなぜ、自分よりも年上で個性的な1台を選んだのか。今回はオーナーと愛車の日常とカーライフの背景に注目してみたい。

この個体を迎えて2年目になるという。納車から2万キロ走破し、オドメーターは12万キロを刻んでいる。 記録簿上ではオーナーが3人目だそうだ。このピアッツァを“普段使い”しているオーナー。買い物や帰省はもちろん、ピアッツァのオフ会にも参加しているという。まずは乗り心地や使い勝手を伺ってみた。

「見た目はスポーティーながら実用的な点が気に入っています。普段は職場まで徒歩通勤をしているので、帰宅してからふらっとドライブへ出かけることもありますね。燃費は街乗りだと8~9km/L、高速だと10km/Lくらいです。車幅(1675mm)が狭いわりに室内スペースがあるので、リアシートを倒すと荷物もかなり載ります」

日常的に乗りつつも良いコンディションを保っているあたりは、オーナーの細やかな気遣いがあってこそかもしれない。では、このクルマでもっとも気に入っている点は?

「全体のシルエットが一番好きですね。特にリアビューがお気に入りです。インテリアではサテライトスイッチまわりが好きです。“特別なクルマに乗っている”という気持ちにさせてくれます」

オーナーが参加しているという「ピアッツァのオフ会」。ここに参加するオーナーには、どんな人がいるのかを尋ねてみた。

「40~50代の方が多く、当時から乗り続けていたり、若い頃に乗っていてもう一度買い直したという方もいます。若手では23歳の方もいますよ。参加者のピアッツァは年式に幅はありますが、全体的に外観の改造をしている人は少ないですね。基本はジウジアーロデザインを保っているように思えます」

このクルマのアイデンティティともいえるデザインに魅せられ、外観を損なわないようにしている人が多いのだろう。それでいて「自分なりの“色”を出したい」という欲求は、オーナーの中にあるのだろうか?

「これまでの変更点としてはPersonal製『Design Giugiaro』ステアリングに交換して、普段使いのためナビとオーディオを組み込みました。それから、ダッシュボードの割れを防ぐために専用のカバーを被せてあります。ドアバイザーだけは、どうしても好みでなかったので外しました」

インターネットの普及によって、若いオーナーたちは自分よりも年上のクルマと出会う機会があたりまえになりつつあるのかもしれない。ではオーナーの場合、どんなきっかけでクルマを好きになり、ピアッツァと出逢ったのかを伺った。

「私の場合は、父親が根っからのクルマ好きで、その影響を強く受けています。父はいわゆる“エンスージアスト”で、家の本棚には輸入車や旧車関連の自動車雑誌が並んでいましたし、父が今も所有しているルノー アルピーヌ A310は、物心ついたときには家にあったクルマです。このA310で、イベントにしょっちゅう連れて行かれていましたね(笑)。幼い頃からそんな環境だったので、90年代が国産スポーツカーの全盛期だったということは免許取得後に知ったんです」

オーナーは愛車のカタログも保有していることはもちろん、クルマを大切に扱いつつ、臆することなく普段使いしている。過保護すぎず、適度にクルマを動かす。これも父親からの“英才教育”なのだろうか。家族のクルマ好きを素直に受け入れて育ったオーナーに愛車遍歴を伺ってみた。

「初めての愛車はトヨタ MR2(SW20型/5型)でした。ミッドシップに魅力を感じましたし、MTのスポーツカーにも乗りたかったんです。このときから基本的にノーマル重視ですね。ほぼ純正をキープして乗っていました。このピアッツァを手に入れてMR2を手放し、ルノー アルピーヌ V6ターボを増車して今は2台体制です。将来は父親のA310も引き継ぎたいと考えています」

では、ピアッツァを手に入れた経緯は?

「幼い頃から映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の影響で、デロリアンが大好きなんです。しかし希少性が高く、維持も難しかったことから、同じジウジアーロデザインのピアッツァに惹かれるようになりました。そして、2017年に、イベントで初めて実車を見て“好き”を確信しました。そこから本気で中古車を探すようになったわけですが、個体数が少なく、見つかってもコンディションが不明であることがほとんどでした。そして半年ほど経ったある日、ヤフオク(ネットオークション)で状態のいい個体を発見したんです。このチャンスを逃したくなかったので即決しました。おかげさまで満足度は100%です!」

ピアッツァを手に入れたことで、デロリアンへの憧れは変化したのだろうか?

「やはり、実際に手に入れてみて初めて気づくことがありますね。デロリアンも変わらず好きですが、あのクルマはいつまでも憧れの存在であるからこそ“好き”が持続するのかもしれません。そういう意味で“特別な存在”なのかなと思っています」

クルマ好きの父親に報告したときの反応は?

「『おぉ~!買ったんだ』といった反応でしたね(笑)。同じクルマ好きとして、素直に喜んでもらったと思っています。実家へ帰省したときは、助手席に乗せてドライブもしました」

トラブルにはどう対処しているのだろうか?

「主治医は、“知る人ぞ知る”老舗ファクトリーです。これまでのトラブルは、納車したての頃にゴムホースの不良が原因でエンジンの調子が悪かったくらいです。以来、大きなトラブルはありません。とはいえ、日頃から部品のチェックは欠かさないようにしています。ピアッツァは北米でも売れたクルマなので、海外にも互換部品があるようです。エンジン関連部品もまだ流通しているようですし、意外と出回っているものですね。しかし、内外装などのユニークパーツや、117と共通のNAエンジン搭載の初期モデル(JR130型)の部品は厳しいようですね。東京にいすゞ車の専門店があるんですが、そこから部品を調達している方もいるようです」

最後に、今後愛車とどう接していきたいと思うか尋ねてみた。

「ガレージにしまいっぱなし…ではなく、これまでと変わらず日常使いするつもりです。将来、結婚したとしてもこのクルマは手放したくないですね。オーナーのなかにはチャイルドシートを装着している人もいるそうなので、ファミリーカーとしてもアリだと思います。もちろん、奥さんの理解は必要ですけれど(笑)」

筆者はこれまで“旧車”と呼ばれるクルマたちと暮らすためには、ストイックさが大切だという思考だった。しかし、オーナーと話しているうちに、どちらかというと“寛容さ”のほうが必要ではないかと思う場面が幾度もあった。この取材を続けていると、若い世代のオーナーの方々と接することで初めて気づいたり、教えてもらうことが本当に多く、この場を借りて改めて感謝の気持ちをお伝えしたい。

ピアッツァとオーナーとのカーライフは、これからも心地よい関係が続いていくのだろう。良い意味で力を抜く、自然体の距離感が「本当に好きなクルマと長く暮らせる秘訣」なのかもしれない…と改めて実感した取材となった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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