憧れ続けて18年。2008年式マツダ RX-8を手にした24歳オーナーの“RX-8クロニクル”

憧れのクルマの相場をチェックするのが中古車検索の楽しみのひとつという人も少なくないだろう。しかし、絶版車となった国産スポーツカーの相場となると事情が異なるかもしれない。必死に探している「現在進行形」であればなおさらだ。それだけに、チャンスをモノにして憧れの1台を手に入れたときの喜びは、苦労した人ほど何ものにも代えがたい。大げさではなく、人生の宝物といい切って良いと思う。

今回の主人公も、長い年月をかけて憧れの1台を手に入れた一人といえる。

クルマ好きの父親をカーライフの原点とし、18年間憧れ続けたクルマを手に入れた24歳の若き男性オーナーだ。愛車は2008年式マツダ RX-8(SE3P型/以下、RX-8)である。

RX-8は、RX-7(FD3S)が生産終了した翌年の2003年に発売され、2013年まで販売された。ボディサイズは全長×全幅×全高:4470×1770×1340mm。水冷式直列2ローターエンジン「13B-MSP型」は、内部構造が新設計された自然吸気型のロータリーエンジンで「RENESIS(レネシス)」と名付けられた。排気量1308cc、駆動方式はFR。最高出力は235馬力を誇る。

オーナーが所有するRX-8は、スポーツ走行に対応したグレード「Type RS」。2008年のマイナーチェンジで追加されたグレードで、後期型にあたる。設定は6MTのみ。専用エアロパーツをはじめ、19インチアルミ鍛造ホイール、RECARO社と共同開発のバケットシート、ビルシュタイン社製ダンパーなどを装備。また、ロータリーエンジンの基本性能の向上やギア比の見直しも図られている。

オーナーがこのRX-8を手に入れてから、まだ3週間ほどしか経っていないという。オドメーターは約5万8000キロだが、実際の走行距離は200キロ程度。まだまだ夢見心地なのかもしれない。これからRX-8とのカーライフを送るオーナーに、実際に乗ってみた感想と喜びの声を伺った。

「実際に乗ってみると乗りやすいですね。レンタカーで乗った『スピリットR』はクラッチの繋ぎが難しい印象がありましたが『Type RS』は繋ぎやすいです。正直、クルマは好きでも運転はそんなに好きではなかったんです。このクルマを手に入れてからは運転が楽しくなりましたし、ロータリーエンジンの魅力もより感じられているように思います。また、スピリットRとTypeRSはシートやホイールの色の違いなどを除けば基本的に同じなので、私が乗りやすいと感じたのは個体差によるところが大きいと感じています」

そんなオーナーの愛車遍歴は?

「私はRX-8の前に、ダイハツ コペン(初代モデル)とトヨタ クラウン ハイブリッド(200系)を乗り継いできました。2台とも気に入っていましたが、ナンバーだけでもとRX-8にちなんだ数字にしていたんですよね。ナンバーのことを訊かれたとき『欲しかったけど買えなかった』と説明するのが悔しかったです」

今回の取材には、オーナーの父親にも同席してもらった。冒頭でも紹介したとおりカーライフの原点であるオーナーの父親は、現在マツダ ロードスター(NB8C型)を所有。NAとNB、2世代のロードスターを乗り継ぎ、幼いオーナーを連れて、ドライブやレース観戦、ミーティングなどに出かけていたそうだ。そんなオーナーの父親からは、こんな喜びの声を伺うことができた。

「ロードスターの助手席にチャイルドシートを装着して、息子を乗せて出かけていました。今、こうしてマツダのスポーツカーがガレージに並んでいるのはうれしいですね。気に入ったクルマを一生の宝として乗っていて欲しいと思っています」

ここからオーナーの“RX-8クロニクル”が始まる。まずはRX-8との出逢いを振り返ってもらった。

「RX-8がデビューした2003年、私は6歳でした。その年の年末に、特別仕様の『マツダスピードバージョンⅠ』が300台限定で発売されたんです。それを見て心を掴まれたことを、よく覚えています。特に専用エアロがかっこよかったです。通常のモデルとは異なり、エアロで精悍な印象に変わるからです。もし乗るなら本物のストラトブルーマイカのマツダスピードバージョンのRX-8が欲しいと長年思っていました。他人からは『なぜRX-7ではないのか』と訊かれるんですが、私は外装・内装を含めてRX-8のデザインが好きだったんです」

実車と初対面したのは?

「RX-8がデビューして間もない頃、確か、私は当時6歳だったと記憶しています。場所は現在もお世話になっているマツダのディーラーでした。試乗車は現在の愛車と同じベロシティレッドマイカの前期型のRX-8(TypeS)でした。

ここからは父から聞いたのですが、父がNBロードスターからRX-8への入れ替えで購入を考えていたときに私が“僕が将来マツダスピードバージョンのRX-8を買う!パパはロードスターにずっと乗っているんだから、これからも乗っていたほうがいい”と言ったらしいのです。その言葉で父は、RX-8を諦めたと聞きました」

結果的に父親との約束を、オーナーは年月を経て守ったことになる。しかも、20歳のときに宣言して30歳で実現するよりも、確率は低いはずだ。なかなかできることではない。

やがてオーナーは高校生となり、RX-8の購入も現実味を帯びてくる。

「高校生になると、ローターのオブジェ(再利用できないローターをオブジェとして販売)をロータリーエンジンのスペシャルショップである『R Magic』で購入して飾ったり、中古車雑誌やアプリで検索していました。RX-8が売られているショップを見つけて足を運ぶこともありました。運転免許も取得していよいよクルマを買おうかと、中古車サイトを眺めていたときのことです。幼い頃、父親が購入しようとしていた個体を発見したんです。マツダスピードのハーフエアロと、メーカーおよびディーラーを含めたフルオプションの組み合わせは、間違いなく同じ個体。運命を感じました」

幼い頃、父親が購入しようとしていた個体を見つけたオーナーは購入を決意。だが、無事契約してハッピーエンド…とはコトは進まなかったのだ。

「1回目は父が購入を断念。2回目がこのときで、遠方の中古車販売店だったので事前に何度か電話で問い合わせてみたものの、売約済みかどうか対応があいまいだったんです。不審に思い、このときは購入を断念。以後、3回目は当時乗っていたコペンの車検を通したばかり、4回目はクラウンに心が揺らいでおり、さらに3回目のときよりも販売価格が上昇していたこともあって断念しました。以来、その個体がどうなったのかは消息不明です」

結果として、同じ個体に遭遇しながら縁がなかったオーナー。その後、実際にRX-8を購入するまでの出来事や思いを尋ねてみた。

「実は幾度かチャンスがあったにも関わらず、本当に縁のない個体なんだと落ち込んだ時期もありました。とはいえ、RX-8のことが諦めきれず…。そこで、ローターオブジェのアペックスシールの部分に五円玉を挟み“良い個体とご縁があるように”と験担ぎをしたほどです」

憧れのRX-8、さらに同じ個体を4度も買い逃してきたオーナー。そもそもこのクルマとは縁がないと考えた時期もあったようだが、辛い経験の先にハッピーエンドが待っていた。

「昨年夏にいちど訪ねてみて、印象の良かったショップのストックリストに掲載されていたRX-8を観に行ったのが今年の3月でした。店頭には数台のRX-8があり、敷地の端に置かれていた個体に目が留まったんです。エンジンを掛けていただき、運転席に座った瞬間に”これだ!このエイトと一緒に走りたい!!”という感覚を味わったんです。こんな感覚は初めてでした」

「これだ!」という感覚とは?

「初めての感覚だったんです。でも、実際に乗ってみて驚くほどしっくりきたので、自分がRX-8に求めていたのは、型式・外装・エンジンのコンディション・エアロのかっこよさではなく、本当はRX-8そのもののフィーリングだったことに気づいた瞬間だったのかもしれません」

紆余曲折はあったものの、感覚的(本能的に…かもしれない)にしっくりくるRX-8に出会うことができたオーナー。あらためて愛車で気に入っている点を伺ってみた。

「特に気に入っているのは流線型で綺麗なサイドビューです。最近は、ロータリーエンジンのレシプロエンジンにはないフィーリングやサウンドにも魅力を感じます」

では、今後手を加えたい部分は?

「R Magicのマフラーを装着したいです。マツダスピードの前期型リアウイングも中古で良いものが見つかれば。M'z CUSTOMのバンパーも欲しいです。部分的に塗装がやれているため、同色で全塗装をしてリフレッシュさせたいですね」

最後に、このRX-8と今後どう接していきたいかを尋ねてみた。

「いつ乗ってもロータリーを感じられるように、コンディションを維持したいです。18年間憧れてきたクルマなので、18年以上は所有したいですよね。幼い頃から父がNAロードスターに乗っていたので、自分ももし、結婚して子どもができたとしても、手放すことはないだろうとは思っています。近々、仕事の関係で転居する予定なのですが、RX-8は実家に置いていくつもりです。私が不在の間は父が乗る予定です」

18年間、1台のクルマを所有している人がどれほどいるだろうか。それ以上に、18年間も1台のクルマに憧れ続け、さらに父との約束を果たし、晴れてオーナーになる…。ましてやオーナーの場合、もっとも多感な時期を経ても変わることなく「初志貫徹」しているのだ!なかなかできることではない。

仕事の関係でオーナーは地元を離れることになるそうだが、その間は父親がRX-8の面倒を見るという。結果的に18年前に諦めたはずの願望も叶う。まさに“親子の夢を叶えたRX-8”といえるかもしれない。

オーナーのRX-8も、再び走りはじめたことを喜んでいるかのように、太陽の下で輝いていたのが印象的だった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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