イギリス仕様の三菱・コルトCZTを輸入し、オンリーワンの“バージョンRスペシャル3ドアハッチ仕様”に
「初めて乗るクルマは、本当はもっとスポーツカーらしいクルマが良かったんです。おじさんになったら乗れないかもしれないですからね。でもなぜか、このクルマが一番好きになっちゃいました」
そう話す末永知勇さん(33才)の愛車は三菱のコルト。しかし、見慣れたコルトは4枚ドアのコンパクトカーなのに対し、このコルトはドアが2枚しかない。
実は末永さんの愛車は、日本国内では販売されなかったイギリス仕様のコルトCZTなのだ。しかも、ただ海外仕様を輸入しただけではなく、コルト・ラリーアート・バージョンR スペシャルのパーツを流用して装着するなど、こだわりの詰まった1台に仕上げられている。
「親父は117クーペとか2ドアのシビックに乗るようなクルマ好きで、それもあってか学生になると通学用のクルマに親がお金を支援してくれるという話になったんです。最初は『フェアレディZが欲しい』と言ったんですが、スポーツカーはダメだと反対されてしまい、条件を飲んでもらうのに提案した結果、コルトならOKということになったので、そのなかでもいちばんスポーツタイプのラリーアートバージョンRスペシャルを選びました」
ダイムラー・クライスラーと三菱自動車の共同開発によって2002年に誕生したコルト。1.3Lエンジンと1.5Lエンジンのモデルに加えて、MIVECターボエンジンを搭載した『ラリーアート』が設定され、さらにゲトラグ製5速マニュアルミッションを搭載しオーバーフェンダーやスポーツサスペンションなどが装着されたスポーツモデルの『ラリーアート・バージョンR』も登場した。
そして、ラリーアート・バージョンRのボディ剛性をさらに高め、マフラーやホイールなどの専用パーツを装着して台数限定で発売されたのが『コルト・ラリーアート・バージョンR スペシャル』だ。
数あるクルマの中からこのモデルを選択した理由は、ターボエンジンでマニュアルミッションの仕様が存在しているからだったという末永さん。
おそらく、末永さんの父親がイメージしてOKを出したコルトと、末永さんが実際に手に入れた愛車とでは、まったくの別モノだったに違いない。
「当時は本格的なスポーツカーよりも自分の身の丈に合っているか、と妥協して選んだつもりだったんですが、乗ってみるとトルクもあるし速いしで、かなり満足できたんです」という末永さん。知り合いからサーキットに誘われたことを機に、大学時代にはジムカーナや草レースにも参加するようになったという。
「バージョンR スペシャルで走り込むようになったものの、学生時代だったのでチューニングもできずに1年間くらいほとんどノーマルの状態で走っていました。そしたら、車高もそのままで限界が低いのに攻め過ぎて横転しちゃったんです」
そんな大事故にもかかわらず、被害が大きかったのは主にボディで、ターボエンジンやゲトラグ製5速ミッションは無事だったという。
「最初は修理しようと考えたのですが、バージョンRスペシャルはボディ剛性を高めるために開口部に普通のスポット溶接ではなく連続シーム溶接という加工がしてあって、鈑金修理がとても難しいことが分かったんです。仕方なくクラッシュしたバージョンR スペシャルを復活させるのは諦めて、無事だったパーツを別の車体に移植して乗ろうと決めました」
「しばらくクラッシュしたときのまま保管していたんですが、就職して金銭的に余裕もできたこともあって、どうせ載せ換えるならなにか面白いことができないかなと考えはじめたんです。そして、海外には日本に存在しない3ドアのハッチバックモデルがあることを知り、右ハンドルのイギリス仕様を輸入できれば誰も乗ってない3ドアのラリーアート・バージョンR スペシャルが作れるんじゃないか!?と思いついたんです」
日本では4枚ドアモデルしか発売されなかったコルトだが、海外ではクーペカブリオレや3ドアハッチバックもラインアップされており、末永さんはその海外モデルに目をつけたというわけだ。
「国内の輸入業者に連絡するところからはじめたのですが『まずは輸入したい車体を海外の中古車サイトで見つけてください』と言われたので、eBayでイギリスの右ハンドル仕様を見つけて連絡しました。そこから日本に来るまで2ヶ月半くらい、さらに新規で車検を取るための排ガス検査レポートの費用にも数十万円かかりましたが、輸入してから3ヶ月ほどでようやく無事に登録が済んで乗れるようになりました」
こうして2014年に手に入れたコルトCZTは、現在でも通勤をはじめ普段の街乗りやサーキット走行、さらには趣味の釣りなど様々な場面で活躍し続けているという。
そのため、天井にはアシストグリップを渡すようにレイアウトしたロープをかけ、釣りで使うロッドを収納できるようにカスタム。
「釣りは弟の影響で始めました。おもにルアー釣りがメインですが、川や湖、堤防での海釣りと色々とやってます。このあたりは沖に行かなくても堤防でハマチやブリが釣れるんですよ」
サーキット走行においても、ドアの枚数が少ない3ドアのおかげで剛性感がしっかり確保されている点が実感できたという。
「実はバージョンRと同じ1.5Lエンジンと5速マニュアルが載っているベース車を選んだので、元のコルトからパーツを移植する必要はなくなってしまいました。でも、ミッションのシンクロがダメになってきたのを機に、元のバージョンR スペシャルに装着していたラリーアート製の機械式LSDごとミッションを載せ替えました」
いっぽうで、思わぬところが国内仕様と異なるため、簡単だと思っていた作業につまずくこともあったという。「エアコンのコンプレッサーが壊れたので国内メーカーに修理を頼んだら、海外でしか取り扱いがないタイプだからと断られてしまい、一式まるごと国産の新品に交換する羽目になりました。それからシフトノブも交換しようと思って外したらレバーにネジが切られてなかったり、樹脂製で頼りなかったサイドレバーも国内とは互換性がなくて取り付け加工に苦労したり(笑)。他にも海外から取り寄せないといけないパーツがいくつかありましたね」
また、元のコルトに装備されていたラリーアート製マフラーの全長を短く加工して流用。ブレーキはマツダ・RX-7用のキャリパーとローターを移植していて、なんと必要なパーツは末永さん自らがCADで設計し、金属加工業者に依頼して製作してもらったそうだ。
これらの作業は、大学時代から自然とチャレンジするようになっていったと末永さん。
「もともと機械に興味があって仕組みとかを調べることは好きだし、そこまで複雑なものじゃないので『何かあってもどうにか元に戻せるだろう』と思って行き当りばったりにやっています(笑)」
今の自分がやっている作業を考えれば工業系の大学に進学すればよかったと後悔することもあるという末永さんだが、大学卒業後は医療の道を選んで薬剤師となり、現在もその職を続けている。忙しいぶん稼ぎもあり、愛車のコルトに乗るかたわら、三菱ではGTO MR、ランサーエボリューションファイナルエディション、ホンダのトゥデイ、日産のシルビアなどを乗り継ぎながら趣味を満喫してきたという。
「それでもコルトは初めて乗った愛着のある車種だし、3ドアのCZTを国内に持ち込んで乗っている人は本当に数えられるくらいしか知らないので、これからも大事に乗っていきたいです」と語る末永さん。
手に入れてからずっとマイペースにカスタムやメンテナンスを重ねてきたというが、今後は今まで後回しにしていた外装のオールペンや、内装の修理へと段階を進めていく予定もあるという。そうなれば末永さんのコルトCZTは、ますます他にはいないオンリーワンの存在になっていくことだろう。
取材協力:鹿児島県立吉野公園
(⽂: 長谷川実路 写真: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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