人生初の愛車がハチロクという幸せ、21歳のオーナーがベタ惚れするトヨタ・スプリンタートレノ GTアペックス(AE86型)
時代が移り変わっても、次世代の技術が相次いで投入されても、世代を超えて人々に愛されるクルマは確実に存在する。通称「ハチロク」、トヨタ・カローラレビン/スプリンタートレノ(AE86型/以下、ハチロク)は、その典型的なクルマといえるだろう。クーペボディ、2+2パッケージ、FR、そしてネーミング···。ハチロクの実質的な後継モデルにあたる「トヨタ・86」も、早いもので2012年に誕生してから既に5年が経過し、2016年にはマイナーチェンジを行ったばかりだ。86が誕生したことによって新たなファンを獲得している一方で、未だにハチロクに心酔している人も少なくない。しかし、いずれも後世に語り継がれていくクルマであることは間違いないだろう。
今や、ハチロクよりも高性能かつ低燃費で、イージーに運転できる同クラスのクルマは世界中に存在すると言っていい。おそらくは維持費や部品の調達、そしてトラブルに見舞われる確率を含めても、ハチロクとは比べものにならないほど手間が掛からないだろう。それを百も承知で、なぜ人は敢えてハチロクを選ぶのだろうか?
ある熱狂的なハチロクのオーナーが「アクセルを踏んだり、ハンドルを切る一つ一つの感覚が、現代のクルマでは得られないフィーリングなんです。理屈抜きに、運転していて楽しいんですね。それに、今でもさまざまなチューニングが可能で、アフターパーツが豊富であることも魅力です」と熱く語ってくれたことがある。そして、若い世代にとってはマンガやアニメで一世を風靡した「頭文字(イニシャル)D」の影響が大きいようだ。時代を超越し、唯一無二の存在であり続けるハチロクは、他でもない熱狂的なファンの存在と、それを支えたショップの力が大きいように思う。
深夜のパーキングに、オリジナルに近い雰囲気が漂うハチロクが佇んでいた。オーナーの男性は、明らかに20代と思われる容姿だ。もしやと思い、意を決して声を掛けてみた。
「このハチロクは私の愛車です。1986年式のトヨタ・スプリンタートレノ GTアペックスになります。手に入れてから2年半ほど経ちました。現在、私は21歳ですが、このハチロクは31年前に製造された個体なので、クルマの方が年上になるんですね(笑)」。
21歳のオーナーが、このハチロクを既に2年半所有している···ということは、10代のときに手に入れたということになる。程度の良いハチロクと巡り会うのは難しいことだと推察するが、どのような経緯で幸運を手にしたのだろうか?
「それは突然の出会いでした。あるとき、お付き合いのある板金屋さんのところにこのハチロクがやってきたんですね。しかし、今のような状態ではなく、事故を起こしてフロント部分がクラッシュしていたんです。この個体を直してから売るということを聞き、それならばと修復後に譲ってもらいました」。
ふとしたきっかけで「パンダトレノのハチロク」のオーナーになったわけだが、購入当時はそれほど興味がなかったそうだ。
「もちろん頭文字(イニシャル)Dはマンガを読んでいたので、パンダトレノのハチロクのことは知っていたつもりです。実は、小さい頃からトヨタ・スープラが好きだったんです。A70型とA80型、いずれも憧れの存在でした。このクルマのスタイリングが本当に大好きで···。グランツーリスモというゲームでも、自分の愛車をA70型にしたほどです(笑)。しかし、高校生になった頃、スープラが簡単に買えるようなクルマではないという現実に気づかされたんです」。
当時のオーナーにとって本命ではなかったハチロクを手にしたことで、心境の変化はあったのだろうか?すると、待ってましたとばかりに語り始めた。
「それはもう、実際にハチロクを所有するようになってから、運転が楽しくて仕方ないんです!一般的に言われているように決してパワーはありませんが、エンジンを回し切る楽しさがありますよね。それに、リアシートも思いの外、スペースがあり、実用性も兼ね備えていることも、所有してみて初めて知りました」。
一見すると、マフラーやホイールが交換されているくらいで、ノーマルに近い雰囲気のハチロクだが、手に入れてからモディファイした箇所はあるのだろうか。
「私が手に入れてからモディファイした箇所は、今のところヘッドライト、マフラー、タワーバーですね。基本的に前オーナーさんが装着していたものを引き継いでいまして、手に入れたときに装着されていたのは、TRUST製エアクリーナーおよびパフォーマンスダンパー、デフはTRD製のようでした。車内の追加メーターはDefi製で、油圧、油温、水温、バキューム計が装着されています。ステアリングはNARDI製のクラシックというモデルです。フルエアロ化に憧れはありますが、敢えてシンプルに、サイドステップを取り付けるくらいでいいかなという思いもあります」。
父親の仕事が自動車関連業だったことから、同じ業界で働いているというオーナーだが、職場にはこのハチロクで通勤しているそうだ。
「父親の影響で私も自然とクルマが好きになりました。今となっては、このハチロクにベタ惚れです。現行モデルにあたる86も気になりますが、やはりこのクルマが好きです。手放してまで欲しいとは思いません。それに、ハチロクに乗っていると声を掛けられることが多くて驚いています。とにかくおじさまにモテモテで(笑)。『昔、俺も乗ってたよ。大事にしてな』と声を掛けられることもよくありますし、このクルマに乗っていたからこそ出会えた人たちがたくさんいます。このハチロクが人生初の愛車になってくれて本当に良かったと思っています」。
事故によるダメージから見事に復活を遂げて、若きオーナーの記念すべき人生初の愛車となったこのハチロクは、ひょっとしたら大切にしてくれる所有者を探し求めていたのかもしれない。もちろん、現実にはそんなことはありえない。しかし、クルマがオーナーを選んでいると錯覚したくなる、それが偶然だとは考えられないような運命的な巡り合わせが、この世には確かに存在するように思えてならない。この若きオーナーとこのハチロクの巡り合わせも、きっとそうなのだと信じたいのだ。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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