『クルマはトモダチ』伝説の文化遺産「BMW 3.0CSL」(その価値1億〇千万!)を走らせた…山田弘樹連載コラム

  • BMW 3.0CSLと富士山

みなさん、ゴキゲンよう!
2023年も残り、あと僅か。そんな年の瀬に、すごいクルマに試乗しました。

その名は、「BMW 3.0CSL」。
これを聞いて「おおおぉ!」とか「 懐かしいッ!!」と叫んだ方は、濃いめのエンスージアスト。3.0CSLは1971年に誕生し、欧州ツーリングカー選手権で大活躍した、伝説のツーリングカーです。

その特徴は、とにかく軽いこと。
BMWはなんとベースとなるBMW 3.0CSiを215kgも軽量化し、1165kgでホモロゲーションを獲得しました。この軽量化を進言したのは、アルピナだったと言います。

ちなみにCSLはCoupé Sport Leichtbau(クーペ・シュポルト・ライヒトバウ)の略称で、英語で言うと「クーペ・スポーツ・ライトウェイト」。軽量なスポーツクーペという意味になります。

そんな3.0CSLは、'73年のヨーロッパ・ツーリングカー選手権で参戦初年度から大暴れしました。アルピナのマシンはあのニキ・ラウダやジェームス・ハント、そしてジャッキー・イクスがドライブ!
BMWワークスと共に、ジャッキー・スチュワートやヨッヘン・マス、ジョディー・シェクターたちが駆るフォード・カプリと闘ったと言います。
クーッ、すごいメンツですね!

3.0CSLはこの年ニュルブルクリンクの6時間レースや24時間レースを制し、シリーズを圧倒。74年こそフォード勢に反撃されましたが、75年からはなんと5年連続でタイトルを獲り続けました。

今回試乗したのは、そんな3.0CSLのオマージュモデルです。
そしてこれを製作したのは、BMW Mモータースポーツ社でした。
というのも彼らは、この3.0CSLでETCに参戦するために、1972年に組織されたんですね。よって自身の50周年を記念するにあたり、そのルーツとなった3.0CSLを、リメイクしたわけです。

  • BMW 3.0CSL

    そのスリーサイズはM4クーペに対して全長で106mm長く、全幅で61mmワイドで、全高で2mm低い4911×1946×1393mm。ホイルベースは2857mmでほぼ同等。にもかかわらずその車重はM4クーペに対して約180kgも軽量化されている。

そんな二代目3.0CSLは、現行M4クーペをベースに作られました。
当然そのコンセプトも、「クーペ・スポーツ・ライトウェイト」。
以前このコラムで「M4 CSL」を紹介しましたが、こちらが現行M4比で約100kgだったのに対し、3.0CSLはなんと約180kg(!!)の軽量化を果たしています。

はたしてその乗り味はというと、冗談抜きに、羽根が生えた軽やかさでした。
ただこの軽さとは裏腹に、私の心はメチャメチャ重かった。

なぜかって?
だってこの3.0CSL、M社の50周年を祝うモデルとして、たった50台しか造られていないんですよ。
しかもそのお値段は、75万ユーロ(約1億2000万円)とも言われているんです。さらに言うと今では既にプレミアが付いて、1億6000万円くらいになっちゃってるらしい(滝汗。そして今後は、さらに上がって行くこと間違いなし)

価格のことばかりいうのも、無粋ですね。言ってみればそれは、BMW Mモータースポーツ社の文化遺産です。

  • BMW 3.0CSLのエンジン

    エンジンは現行M3/M4に搭載される3リッター直列6気筒ツインターボ「S58」ユニットで、その最高出力は560PSまで出力が引き上げられた。これはM4 Competitionに対して50PS、そしてM4 CSLより10PS高い数値だが、最大トルク値は550Nmと、むしろ両者よりも100Nm低い。ちなみにそのパワーウエイトレシオはたったの2.9kg/PS。

  • BMW 3.0CSLのリア

    当時その特徴的なウイングやワイドなボディ形状から“バットモービル”と呼ばれた3.0CSL。これを現代的に再現するために、述べ200時間に及ぶ空力開発が行われ、そのうち約50時間を風洞実験に費やしたという。ただしその目的は現代的なダウンフォースの獲得ではなく、あくまでこのスタイルを実現しながら空力バランスを整えることだと思う。

ワイドトレッド化したボディの外板パネルには、ドライカーボンがふんだんに使われています。そのアイデンティティである赤・紺・水色のMストライプは、デカールじゃなくてなんと塗装。アルパイン・ホワイトのボディとトリコロールストライプの間には、まったく段差がないんですよ。
そんなクルマに飛び石で傷がついたら、考えるだけで恐ろしい!

ちなみにこの3.0CSLを購入したのは、スタディの鈴木“BOB”康昭会長。たった50台の枠には世界中から、実に500件以上の応募が殺到したとのことでした。
そしてBMWは、2年がかりで購入者を厳選。BMW社に対するこれまでの貢献度を考慮した結果、スタディが選ばれたというのですが……。
当のボブさんも「まさか自分が選ばれるとは、思わなかった!」と驚いていました。そりゃあそうですよね、何度も言いますが推定1億2000万円のクルマですから(価格は非公開)。

しかもBMWからは「おめでとう! ユーが選ばれたよ!」というメールのあとにすぐさま、「早くデポジット(3000万円)振り込んでね♪」(かなり意訳)という連絡が届いたと言います。

2008年からスーパーGTに参戦して、2011年にはGT300クラスのチャンピオンを獲得。毎年ワークスドライバーを招聘しながら活躍し続けているチーム・スタディ。アジアで唯一のワークスチームが、その活動を評価されたわけですね。
しかしこれにも増して私が嬉しかったのは、そんなスタディがエンドユーザーに一番近い、BMWの専門ショップであることです。ボブさんのあのフレンドリーな人柄が、この幸運(!?)を引き寄せたのだと思います。

  • BMW 3.0CSLの運転席

    インテリアの風景は基本的にM4 CSLと同じだが、3.0CSLはホワイトステッチ基調で左ハンドルに6速MTを組み合わせている。最大トルク値が低いのは6速MTの搭載を優先したからだろう。M4クーペでも6MTモデルは同様だった。そしてここから、3.0CSLのキャラクターを伺い知ることができる。

  • BMW 3.0CSLのフロントシート
  • BMW 3.0CSLのリアシートはラゲッジホールに

フロント2座はカーボンシェルに薄いクッションを貼り込んだMモータースポーツ製フルバケットシート。リアシートはM4 CSL同様取り払われており、ヘルメットや備品を入れられるラゲッジホールにはネットが掛けられている。ネームプレートも当然「3.0CSL」に変更。ちなみにスタディ号は50台のうちの♯15台目。

しかしいくら何でも、そんな文化遺産を試乗させるとは。
ボブさんはこれまで私が「M2 CS Racing」や「M6 GT3」を運転した経験を評価してくれているわけですが、はっきり言ってこんな貴重なクルマに乗るのは……嫌です(笑)。

でもボブさんは、そんなの全くお構いなし。挙げ句の果てには
「タイヤはミシュランが3.0CSLのために作った専用品で、予備がないから、減らさないでね。マジで気をつけてねー!」というメッセージが絵文字付きで送られてきました。フレンドリー過ぎるだろ!

パイロットスポーツ4Sのサイドウォールを確認すると、そこには確かに「50」のレターが。
いやいやいやホント、勘弁してくださいよ。

  • BMW 3.0CSLの右フロントタイヤ
  • BMW 3.0CSLのホイールの肉抜きの様子

タイヤサイズはF:285/30ZR20、R:295/25ZR21。扁平率25%のタイヤなんて初めて見た。というかこの薄いサイドウォールで走らせるの、ホント嫌なんですけど!!(泣 ホイールサイズはF:10.0J×20(ET14)、R:11.0Jか21(ET0)。5×2本スポークを側面から眺めると、肉抜き用のマシニングがエグい。

(インプレッションは、次号に続く!)

山田弘樹

自動車雑誌の編集に携わり、2007年よりフリーランスに転身。LOTUS CUPや、スーパー耐久にもスポット参戦するなど、走れるモータージャーナリスト。自称「プロのクルマ好き」として、普段の原稿で書けない本音を綴るコラム。


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