JPNタクシー登場で気になる、世界のタクシー車両事情

昨年末から、新型のタクシー車両が街を走り始めているのをご存知でしょうか? 

「JPNタクシー」と呼ばれるその新型車両はトヨタが新たに開発したもの。JPNとは「JAPAN」のことで、つまり日本のタクシーとしての使い勝手を追求して作られているのです。従来のタクシーとの大きな違いはまず、タクシー専用の車体として設計されたことでしょう。

今までの設計はどうだったのでしょうか? 実は、従来のタクシーはどれも一般顧客向けに作られた車両をベースに、タクシー専用の改良が施されていました。しかしJPNタクシーはタクシーとしての理想を求めて、一般顧客向けにはない車体を「タクシー専用」として新たに開発したというわけ。ちょっと大げさな言い方かもしれませんが、日本のタクシー史に新たなページを開いたといってもいいほどの出来事なのです。

そこで、そんな新しいタクシーの誕生を記念して、世界のタクシー車両を見てみましょう。

日産の次世代タクシーも走るニューヨーク

車体が黄色いから「イエローキャブ」という愛称でも親しまれている、アメリカ・ニューヨークのタクシー。毎日60万人も利用するそうです。セダンからミニバンやSUVまで、さまざまな車両がタクシーとして使われています。中でも注目したいのは「NV200 NY(ニューヨーク)タクシー」と呼ばれる日産がイエローキャブ専用に開発した車両です。

同社のNV200をベースに大改良が施され、広い居住スペースと荷室を備えているのが従来のタクシーとの大きな違い。スライドドアだから狭い場所でも乗り降りしやすく、ガラスルーフや前席とは独立して操作できる後席用エアコン、充電用USBプラグなどお客様をもてなす装備があるので、タクシー乗車を快適にしてくれます。

ロンドンタクシーはモダンな新型車両が増加中

細かい道まで覚える必要もあり、ドライバーになる試験が世界一難しいとも言われるイギリス・ロンドンのタクシー。黒塗りの車両は「ロンドンタクシー」と呼ばれるほか「ブラックキャブ」という愛称もあり、専用設計されるのが伝統です。

大きな車体と高い天井で広い室内、乗り降りしやすいドアなど、さまざまな工夫が施されています。かつては「ロンドンタクシーカンパニー」、今では「ロンドンEVカンパニー」と社名を変えたロンドンタクシーを開発・生産する専門会社まであるのだから驚きですよね。

そんなロンドンタクシー、実は昨年から新しい車両が投入され始めました。「TX」という新型車両はスタイルが一気にモダンになったほか、それまでディーゼルだったパワートレインがハイブリッド化されるなど中身も大きく進化しているのも興味深いところです。

インテリアを見て、「おや」と感じた人は、かなりのクルマ通でしょう。新世代のボルボと、おなじデザインの部品が使われています。実は「ロンドンEVカンパニー」の現在の親会社は中国のジーリー社で、その傘下にはスウェーデンのボルボもあります。新世代ボルボ用に新開発した小型プラットフォームは、なんと本家のボルボに先んじてTXで最初に使われているんですよ。

なんとベンツが多い! ドイツのタクシー事情

日本をはじめ世界中で高級車の代名詞ともいえるメルセデス・ベンツ。さすがその本国ドイツと思わずにいられないのが、薄だいだい色に塗られたドイツのタクシー車両たち。なんと、メルセデス・ベンツが多く使われているのです。驚きますよね。

といっても高級だから使っているというわけではなく、コスト計算までしっかりおこなったうえでの最適な選択としてベンツを採用しているとのこと。多く使われているのはミドルセダンのEクラスですが、装備を簡略化したタクシー用車両は一般市販車に比べて安く販売されています。

あの懐かしい車両も現役。中国の大都市のタクシー事情

「サンタナ」というクルマをご存知でしょうか? 1984年から1990年まで日本でも作られていたフォルクスワーゲンのセダンです。日本での生産は、日産が担当していました。

そんなサンタナがまだ走っているのが、中国や上海など大都市のタクシー。日本で売っていたころに比べると、見た目も中身も進化していますけどね。

実は中国では2012年までモデルチェンジなしに作られていて、トゥーランなど新世代モデルが増えるまではタクシーとしてメジャーな車両でした。クルマ好きがタクシーを見て懐かしく感じるのが、中国なのです。

色使いがカラフル過ぎる、タイのタクシー

かつて日本を訪れたタイの人が、「日本のタクシーはどうして地味なのか?」という疑問を持ったそうです。どうしてか? なぜなら、タイのタクシーはとにかく派手だから。

イエローにグリーンやオレンジ、赤、そして時にはピンクとカラフルなペイントで街の風景に彩を添えています。使われている車両で最も多いのはトヨタカローラ。

バンコクの街ではエアロパーツを装着したチューニングカー風の派手な車両も少なくないのですが、ときどきマフラーの音がうるさかったりローダウンサスペンションの乗り心地が悪かったりして、快適性はイマイチ……なタクシーまであるのはご愛敬。

JPNタクシーに施されている工夫

一方、新型のJPNタクシーは、サイズは小さめながらボンネットを短くしつつ天井を高くするなど、居住空間を広げているのが特徴です。

荷室は従来のセダン型タクシーではできなかった大型スーツケースの複数積みも実現しているから、旅行に出かける際にも利用しやすいですね。もちろん訪日外国人観光客にも便利に使ってもらえることでしょう。

低い床&高い天井の大開口部にスライドドアを組み合わせて乗り降りもしやすく、誰にでもやさしいタクシーとなっています。そして低燃費のため、LPガスを燃料とするハイブリッドシステムを積んでいるんですよ。

こうしてタクシー車両だけを注目してみても、世界にはいろいろあって面白いですね。

(文:工藤貴宏 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]