GAZOO写真教室 21限目 デジタルカメラは、最終形を想像してシャッターを切ろう!

僕は、フィルム時代からカメラマンを生業としています。フィルムからデジタルに移行する中で、写真に求められるニーズが以前と変わって来ました。インターネットの普及やスマートフォンに付属するカメラ機能が充実したことが起因で、スピードが一番に求められる時代となりました。そんな中で、僕が一番変わったと思う点は、作品を自分の手で最終形まで責任を持って作れるようになった…、ということです。

わかりやすく言えば、フィルム時代は撮影した後は、現像所に任せっきり。何も手を加えることが出来ませんでした。しかし、デジタルになってからは、写真編集ソフトを使うことで、脳内でイメージした最終形まで、自分で完結することが出来るんです。

フィルム時代は、背景に邪魔な物があったとしても、撮影してからでは消すことが出来ないので、撮影する場所を選ばなければなりませんでした。もちろん、デジタルでも撮影環境が良いに越したことはありませんが、次の作例のように雑多な背景をソフトで処理することで、写真1のように、どこかのスタジオで撮影したような作品に仕上げることが出来ます。ちなみに、この写真の元画像は写真2です。

写真1
写真1
写真2
写真2

頭の中にイメージさえ作ることが出来れば、撮影後にそのイメージに近づけることが可能になりました。劣悪な撮影環境でも、イメージさえしっかりしていれば、思い通りの作品を作ることが可能なのです。

写真3も同様に、バックを暗く落とすことで、よりシンプルにマシンを際立たせることが出来ます。

写真3
写真3

これは、SUPER GTのセッション中の写真で、ピットから出て行く直前に撮影したものです。1号車(KeePer TOM'S LC500)のコックピットには、平川亮選手が乗り込んでいて周りには沢山のスタッフが写っていました。そのままでも臨場感があって良いのですが、暗く落とすことでより“孤高”な雰囲気を演出してみました。ヘッドライトが点灯しているのも、この写真を選んだ理由の一つです。このように明暗差を利用すれば、自然光だけでも作品を完成することが可能です。

写真4は、ル・マン24時間優勝マシンTS050 HYBRIDの8号車を撮影したものです。

写真4
写真4

このマシンは、ル・マン24時間を走り切ったままの状態で保存されていますので、激闘の証しである汚れをフィーチャーしてみました。そんな理由ですので、汚れているボディを切り取って撮影しています。その後、コントラストを上げたり明瞭度を触ることで、より汚れを際立たせています。

写真5は、SUPER GTの19号車(WedsSport ADVAN LC500)がピットアウトするシーンです。

写真5
写真5

この写真は、撮影時にストロボの照射角を狭くすることで周辺の光量を落としています。更に、光量はマニュアル設定で、強めに設定し空が白茶けないようにコントロールします。その上で、コントラストや露光量をイメージに合わせてコントロールしています。周辺の光量を抑えることで被写体に目を向け、雲の表情を出すことで作品に力を与えているという訳です。

写真6、7は、共に鈴鹿10時間耐久レースで撮影したMercedes-AMG Team GOOD SMILEです。昨年開催された鈴鹿10時間耐久レースなどの長時間の耐久レースは、朝や夕方の遮光の時間に撮影できることが魅力です。

写真6は、日が落ちる直前、第4コーナーで撮影しています。ここは木や観客席の丘の影が伸びてきて、木漏れ日状態になるのでバックが落ちやすくなります。

写真6
写真6
写真7
写真7

写真7は、1、2コーナーのちょうど中間で撮影しています。撮影時は、ほぼ日が落ちていて、ボンネットやルーフに空の明るさが写り込んでいます。この時間になると、ブレーキのローターが赤く焼けているのも、撮ることが出来るので、作品に力を与えてくれます。

レタッチの方法としては、コントラストと彩度を上げ、被写体の凹凸を強調し立体的にします。その上で、色温度を変えることで夕景の感じを強く出しています。後処理をしなければ青っぽい写真になってしまいますので、夕方の雰囲気を表現しにくくなってしまいますね。

このように、撮影した写真をレタッチすることで、自分のイメージにより近い作品が作れるのが、デジタルカメラの良いところです。とは言え、何事もやり過ぎないことがポイントです。例えば、下り坂を上り坂に、また朝陽を夕陽にしてしまったりすることがないよう、自分の中で作品を壊さないルールを設けて、仕上げていくことが大切です。皆さんもレタッチに挑戦して、作品の完成度を上げてみてはいかがでしょうか。最後に、写真2を更に進化させ、CGに近い感じに仕上げた作品を掲載します。では、また!

(写真 / テキスト:折原弘之)

折原弘之

F1からさまざまなカテゴリーのモータースポーツ、その他にもあらゆるジャンルで活躍中のフォトグラファー。
作品は、こちらのウェブで公開中。
http://www.hiroyukiorihara.com/

[ガズー編集部]

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