アメ車の魅力を多くの人へ伝えるべく、自らイベントを主催するオーナーの愛車は2003年式フォード・サンダーバード
人と違うクルマに乗りたい。
この取材を続けていると、そんな趣向を持つオーナーと出会う機会がある。その一方で、ベース車は問わないが、自分だけの1台を造り上げたいというオーナーも存在する。前者であれば、必然的に希少車を選ぶことになるのだろう。そして後者は、注文時にオーダーメイドで仕上げてくれるメーカーのクルマを選ぶか(必然的に高級車になってしまうのだが)、購入後に波長の合うショップにカスタマイズしてもらうことになるはずだ。
今回は「人と違うクルマに乗りたい」という想いから現在の愛車を手に入れ、さらにアメ車の魅力を多くの人へ伝えたいと自らイベントを企画し、現在まで26年間に亘り実施しているという68歳のオーナーとその愛車を紹介したい。
「このクルマは、2003年式フォード・サンダーバード(以下、サンダーバード)です。現在、手に入れてから約2年経ちました。オドメーターの距離は2.6万マイル(約4万2千キロ)を刻んでいます。私が所有してから1.5万マイル(約2万4千キロ)ほど走った計算になりますね」
サンダーバードは、初代モデルが1955年に誕生した歴史あるクルマだ。ハードトップを外せばオープンカーになり、スポーツカーというよりはパーソナル2シーターモデルという位置付けだった。オーナーが所有するクルマは、2001年に開催されたアメリカ・デトロイトショーにおいてデビューした、初代サンダーバードのリメイクモデルにあたる。スタイリングはもちろんのこと、脱着可能な美しい形状のハードトップも見事に再現され、モダンに生まれ変わったサンダーバードはアメリカで人気を博した。その結果、発売直後はプレミア価格で売買されたほどだ。
サンダーバードのボディサイズは、全長×全幅×全高:4733x1829x1323mm。駆動方式はFR、トランスミッションは5速AT。排気量3900cc・V8気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は252馬力を誇る。なお、このサンダーバードは正規輸入されていないため、日本の路上で見掛けることはめったにない。手に入れるとしたら、並行輸入された個体を根気強く探すか、自ら輸入するしか方法がないのだ。
日本の路上ではめったに見掛けることがないサンダーバードを手に入れたオーナー。どのようにしてこの個体を見つけたのだろうか?
「eBay(世界最多の利用者を誇るインターネットオークション)で手に入れました。ここに出品されていた個体を落札して個人輸入したんです。予備検査も自分で方法を調べて書類を用意し、日本の法規に合うように仕様変更しました。専門の業者さんに頼むと高くつきますが、手間を掛けてでも自分で行えば案外費用も抑えられるんです」
現在68歳になるというオーナーだが、これまでどんなクルマを乗り継いできたのだろうか?
「最初の愛車はホンダ・S600クーペでした。性能の割に値段が抑えられていて、運転していて楽しかったですよ。結局、S600クーペは4台乗り継ぎました。その後、ミニ・1000や1275、モーリスなどを4台乗り継ぎました。今まで80台くらいは乗り継いでいますね。アメ車に乗るようになったのは1989年頃からです。マツダ・キャロルから、フォード・ムスタング マッハIに乗り換えたこともありましたよ。軽自動車から大排気量のアメ車に乗り換えたわけです。ものすごい排気量アップですよね」
(ウィルソン・ピケットの「Mustang Sally(ムスタング・サリー)」という曲に思い入れがあり、マスタングではなく敢えて『ムスタング』と呼んでいるとのことだ)
国内外のさまざまなクルマを乗り継いできたオーナー。このサンダーバードを気に入っている理由を挙げてもらった。
「やはりこのスタイリングでしょうね。オリジナルの状態がベストではないでしょうか。それと人と被らないことも、私にとっては重要なポイントです。例えば、交差点で停止しているとき、対向車に自分と同型のクルマが停まっているのは避けたいんです(苦笑)」
確かに、このクルマがサンダーバードだと瞬時に判別できる人は少ないかもしれない。運転しているとき、このクルマを見掛けたときの周囲の反応はどうなのだろうか?
「運転していると周囲から視線を感じます。『このクルマは何だろう?』と思っているのかもしれないですね。なかには『隣に乗せてください』と話し掛けてきた女性もいましたよ(笑)。実はこのサンダーバードは雨の日用でして、1913年に造られたシボレー・ロードスターも所有しています。このクルマはありとあらゆるところをカスタマイズしていますし、サンダーバード以上に目立ちます。オリジナルがベストなクルマがサンダーバードだとしたら、徹底的にカスタマイズして楽しむのがシボレー・ロードスターですね。このシボレー・ロードスターは手が掛かりますが、『手が掛かるほどかわいい』んです」
そんな個性豊かな2台のクルマを所有するオーナーに、アメ車の魅力について伺ってみた。
「存在感とエンジンのトルク感でしょうか。アメ車にはそれぞれに『顔=表情』があるんです。その分、個性が強いから好みが分かれますが、最近のクルマはエンブレムを外してしまうとメーカーが分からなくなることもありますよね。『多くのユーザーに受け容れられる=みんなに嫌われないクルマ』が増えてきたのかもしれません。そんなアメ車の個性や魅力をより多くの人に伝えたいと、1992年からイベントを開催するようになり、現在に至ります」
自らイベントを開催するほどアメ車の魅力に取り付かれるきっかけがあった…ということだろうか?
「アメリカ・カリフォルニアでドラッグレースを見たんです。レース用に改造したマシンが、サーキットのクオーターマイル(1/4マイル。約402メートル)をものすごい勢いで掛け抜けていくんですね。日本でもドラッグレースを開催してみたいと思い、それから数ヶ月後、当時の全財産を投げ打って粘り強く交渉した結果、富士スピードウェイで『スーパーアメリカンフェスティバル』というイベントが実現できたんです。メインスタンドが人で埋め尽くされるほどたくさんのお客さんが来てくれました。嬉しかったですね。これまで、本当にいろいろなことがありましたが、26回目となる今年は、場所をお台場に移して8月26日に開催します。ぜひ、若い方やアメ車に関心がない方にも来てほしいですね」
1992年といえば、オフ会などという言葉もなく、インターネットが普及する前の時代。当時から現在まで継続しているクルマ関連のイベントは数えるほどしかないだろう。その間には一筋縄ではいかないできごともあったはずだ。26年もの間、『スーパーアメリカンフェスティバル』というイベントを開催し続けるほど強い意志を持つオーナー。最後に、このクルマと今後どう接していきたいか伺ってみた。
「サンダーバードは、これからも手を加えずに乗り続けると思います。もし、どうしても譲って欲しいという人が現れたら…。アメ車の魅力が伝わるのであれば…譲ってしまうかもしれません。」
断っておくが、オーナーは道楽でアメ車を所有したり、イベントを開催しているのではない。より多くの人にアメ車の魅力を伝えたいという自分の想いを実現させるべく、私財を投げ打ってまでイベントを開催してしまう情熱と行動力、そして覚悟がある。生半可な気持ちではできないことは容易に想像できるはずだ。だからこそ、オーナーが発する言葉は人を動かす力を秘めている。そんな強い引力を持つオーナーのところへ縁あって嫁いできたサンダーバードは幸せ者だ。
めったに見掛けないクルマなだけに、もし白いサンダーバードを見掛けたら、今回のオーナーの愛車かもしれない。勇気を持って話し掛けたら、アメ車の魅力を余すところなく話してくれるに違いない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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