人生初の愛車と同じエンジンにこだわったシビックは、未来の家族のためのファミリーカーに【取材地:福岡】

「父親がクルマ好きでEF型のシビックに乗っていたり、アコードの兄弟車でちょっとマイナーなビガーに乗っていたので、自然と影響されていったんでしょうね。ホンダが好きという自覚はなかったんですけど、免許をとってすぐに買った最初のクルマはホンダのCR-Xでした」
東條陽介さん(31)にとってホンダ車、そして今の愛車であるこのEG5型シビックは特別な思い入れがあるクルマだったという。

「もともと地元は大阪なんですけど、5年前に福岡の北九州市に住むようになりました。こういうスポーツ系のクルマに乗るのは大阪にいたころから10年近く離れていたんですが、大阪時代からの友人がたまたま福岡にいて、当時を知っている彼がEG型のシビックを紹介してくれたんです。結局その話自体は流れちゃったんですけど、それをきっかけに探し始めて出会ったのが今のシビックです。このシビックはちょっと珍しくて、自分が初めて乗ったCR-Xと同じZC型のエンジンが積まれているモデルなんです」

5代目シビックとして1991年にデビューしたこのEG型の通称は『スポーツシビック』。その名の通り走行性能を重視した前後ダブルウィッシュボーンとなり、エンジンもホンダ独自の可変バルブタイミング機構であるVTECを採用したB16型エンジンを搭載したモデル『EG6型』が人気となった。
しかし、このシビックはVTECエンジン搭載ではなく、シビック発売20周年を記念して限定生産モデルとして旧型のZCエンジンを搭載した『EG5型』というモデルだ。

「大阪ではVTECエンジンが載ったEK型シビックにも乗っていたことがあったんですけど、やっぱり自分が人生で最初に乗ったCR-Xに載ってるエンジンという思い入れが強くて。それに、ホンダといえばVTEC、シビックといえばVTECというイメージに対して、ひねくれて人と違う方を選びたいという理由もあります。それがいま住んでいる福岡で見つかったということもあって飛びつきました」

ところが、購入時のシビックは現在の姿とは全く異なる状態だったという。
「ベタベタに車高を落としてあるスタンス系なカスタムカーでした。まぁ、外装はあとからどうでも直せると思ったので問題だとは思ってなくて、内装がとてもキレイで車体のダメージも少なかったのが決め手でした」

肝心のエンジンも「オイル漏れがとにかくひどくて、普通にアクセルを踏んで走ってるだけでもマフラーから白煙がモクモクと出るような状態でした(笑)」ということで、エンジン内部をオーバーホールして新品同様の状態に戻すことをショップに依頼するわけだが、そこでもZCに強いこだわりがあった。

「人気のあるB16エンジンのほうが圧倒的に供給量やアフターパーツが多いので、程度のいいB16エンジンを買ってきて載せ換えるほうが、わざわざZCをオーバーホールするよりも安く済むのはわかってました。でも、ボクはどうしてもZCが好きだから、高くてもいいからZCのままオーバーホールしてほしいとお願いしました」。
しかもオーバーホールするのであれば、パワーアップを狙ってオーバーサイズピストンを組み込んで排気量アップさせるメニューも比較的容易に行えるチャンスではあるのだ、東條さんはあくまで『ノーマルの1600ccのZCエンジン』にこだわったのだった。

エンジンの次に大変だったというのが足まわりの整備だ。地を這うように低かった車高を上げるのはもちろんだが、劣化していたサスペンションを交換し、きちんと車検を通せるようにアーム類もすべて新品を用意。ホイールはレーシーなデザインが気に入っているというウェッズスポーツ製に換えた。

このシビックの外見のなかでとても個性的なウイングは、東條さんが大阪時代に通っていたショップ『BrushUP auto works』が製作したオリジナルパーツとのこと。

車内はステアリング、シフトノブ、サイドブレーキレバーなど操作系アイテムに東條さん好みの迷彩柄をモチーフにしたアクセントを追加。そして運転席には競技用にも愛好者の多い国産シートメーカー、ブリッドのフルバケットシートが鎮座しているのだが、なんとこれは東條さんの奥さんが結婚記念日のプレゼントとして贈ってくれた品物だという。

「このシビックが出来上がったあと、何気なく『フルバケをつけたい』と会話していたことがあったんです。もちろん自分で買って付けるつもりでボクは言っていたんですけど、ある日このシビックをメンテしているお店に行ったら新品のシートが届いていて、それがまさかの妻からのプレゼントでした」
「とても嬉しかったのでボクもお返ししようと思って、妻の乗っているコペンに付けたがっていたリヤウイングをプレゼントしました」というその後のエピソードも素敵な東條ご夫婦。そんな奥さんとは5年前福岡に来る以前の大阪で出会ったそうだ。

「知人の紹介で知り合ったのがきっかけでした。当時ボクはコペンに乗っていたんですけど、妻のお父さんがR32スカイライン、おばさんがS13シルビアに乗っているようなクルマ好きの家系だったみたいで、ボクのコペンも気に入ってくれました」
その後、地元が福岡という奥さんの仕事の都合に合わせて二人で移住し、2年前に結婚。
「妻が自分のクルマを買うとき、最初はダイハツのエッセとスズキのアルトラパンで迷って、どちらもディーラーへ新車の試乗に行ったんですが購入まではいかず、結局ボクとの思い出もあって気に入っていた中古のコペンを選びました。荷物とか使い勝手はエッセとかのほうがいいですけど、本人が『コペンが大好きでちょっと不便でもいい』と言うんだからしょうがないですよね(笑)」

ちなみに、東條さんが『このシビックの購入の決め手となった』というほど内装の綺麗さに拘ったのは「いずれ子供ができたときに、ファミリーカーとして使うことになるので、リヤシートがキレイなのは必須ですよね」という理由があった。
奥さんのコペンは2シーターだから、家族で出かける時にはこのシビックの後部座席が赤ちゃんの居場所となる。そんな未来を思い描きながらのクルマ選びだったというわけだ。

ちなみに、福岡に来て広がった交友関係も多いという東條さん。シビックを探す最初のきっかけになった大阪時代から知る知人というのは、SNSを通じてほとんど同じルックスのスズキ・アルトを所有していることから知り合った仲だった(写真右が東條さんのアルト)。

また、北九州市の近隣のクルマ好きが集まるスポットで気の合う仲間たちで『Pathetic』というチームも結成した。現在メンバーは7名いるそうだが、年長者の東條さんが幹事役として月に1回の食事会を開いたり、ドライブを企画したりする立場をしている。

1年前から趣味として始めたのがスケートボードだ。「会社の同僚から誘われてやるようになりました。最近はその延長みたいな感じでインラインスケートにもハマってます。港近くの公園に滑れるスポットがあるので、仕事が早く終わったときとか、休日の朝にシビックでドライブがてら行くのが楽しみですね」

「このシビックはスタイルからエンジンまで全部が好きなんです。低い位置にあるボンネットとか、横幅のサイズ感も大きすぎずにちょうどいい。内装もシンプルで余計なものがついていないじゃないですか。ZCはB16とくらべて設計は古いエンジンですけど信頼性も高いし、低速トルクがあって燃費もいいから街乗り向きなんですよ」と愛情を語ってくれた東條さん。

ひょっとしたら、生まれてくるお子さんもこのシビックに乗って育ち、東條さんがそうだったように、クルマ好きなオトナになっていくのかもしれない。
「好きになるか嫌いになるかは本人の自由だから、この趣味を子供に押し付けはしないですけどね。こういうクルマを維持する大変さは十分知っていますし(笑)」と話す東條さん。
これから家族で送ることとなるカーライフの中心に、このシビックがあり続けていてほしいと思うのだった。

(⽂: 長谷川実路 / 撮影: 西野キヨシ)

[ガズー編集部]

GAZOO取材会@福岡 取材記事はこちら

愛車広場トップ

MORIZO on the Road