青春時代の思い出を再び。大人になったからこそできるロードスターとの付き合い方とは

  • マツダ・NAロードスターの右斜め

「今思うと、あの頃はユーノスを維持するのが精一杯で、時間がどんどん過ぎていくような感じがしました」

そう話すのは、ずっと昔に通り過ぎた“青春”を取り戻すために、大学生の頃に初めて自分で買った思い出のクルマであるロードスターを、再び愛車として迎え入れたという岩崎さん。

  • マツダ・NAロードスターのリア

「バイトは3つ掛け持ちしててね。ガソリンの値段が高騰してたから、ちょっとでも安く入れられるように“ガソリンスタンド”が1つ目。

大学の近くに動物園があって、そこで“ソフトクリームを売るバイト”が2つ目。ここでバイトするとね、バイトと称して、動物園の駐車場にタダでクルマを停められるんですよ。そうすると、駐車場代が浮くでしょ?

そして、3つ目は“ファミレス”。まかないが出るから、食費も浮くし、なにより食いっぱぐれがない。一人暮らしには最適です。

学校に行って、バイトを3つも掛け持ちするって結構大変だったけど、全然せわしない感じはしませんでした。むしろ、あの頃に過ごした日々や、行った場所や、辛かったことも、全てが楽しかった思い出として僕の中に残っているんです」

  • マツダ・NAロードスターのリトラクタブルヘッドライト

岩崎さんが学生時代にロードスターを購入するきっかけとなったのは、友達が乗っていたという発売されたばかりのマリーナブルーのロードスター。
夏合宿でサークル仲間と清里高原へ行き、大自然の中を初めてのオープンカーで駆け抜けたことが、心にネガフィルムのように焼きついたそうだ。

そして、免許を取って1年後に“21才の大学生が青色のオープンカーで清里を走る”というのが、ユーノス・ロードスターとカーライフを送るすべての始まりだと、活き活きとした表情を見せた。

  • マツダ・NAロードスターのナルディハンドル

「友達からロードスターを借りて自分で運転してみると、ハンドリングだとか、軽快な乗り心地とか、強烈なインパクトがあったんです。

借りていた時間は自分としてはそれほど長くなくて15分くらいかと思っていたのですが、返したときに友達から『心配した!お前にはもう乗せない!』と言われたので、思っていたより長く乗っていたのかもしれませんね(笑)」

  • マツダ・NAロードスターのEUNOSのロゴ

その後、友人から借りるだけでは運転し足りないと思った岩崎青年は、合宿から帰ってすぐにディーラーに駆け込むこととなる。
当時はバブル期で、学生にもローンを組ませてくれたらしく、バイトを3つも掛け持ちしなければ支払いが追いつかないのにもかかわらず、購入することに迷いはなかったという。

こうして手に入れたのは、初代ロードスター(NA6CE)の1周年記念モデルとしてデビューしたばかりの“V Special"というグレード。八王子ナンバーで、エリア1号納車だとディーラーマンに言われたことは、岩崎さんにとってちょっとした自慢だという。

その時に、ディーラーでもらった「ユーノス1周年記念」のテレフォンカードは、今でも大事に持っているという。

  • マツダ・NAロードスターのシート

ところが、苦労して手に入れたクルマは、サークル仲間からは不評だったという。

「当時のサークルの定番はハチロクやプレリュード、シルビアなんかで皆でワイワイしながらどこかへ行く!っていう感じだったからね。『なんで2シーター?』と、こういうわけです。サークルでクルマを出しても、誰も乗ってくれなくてね。最後まで残っていると、男友達が『しょうがねぇな〜』とか言いながら乗ってくれるんです(笑)」

そういったホロ苦い思い出も、時を経て、青春時代の良き思い出になるから不思議だ、と目尻が下がった。だからこそ、子育てがひと段落した今、岩崎さんは再びロードスターに乗っているのだ。

  • マツダ・NAロードスターのフロント

現在の岩崎さんのロードスターは1996年式のNA8C。搭載されるエンジンは異なるものの、グレードは昔と同じくV Specialで、車両ナンバーも昔乗っていた愛車と同じに。

さらには岩崎さんがロードスターで1番気に入っているポイントだというまるでニコッと笑って見えるようなフロントの“ファニーフェイス"のバンパーも大学時代に乗っていたNA6CEのものに交換しているという。

  • マツダ・NAロードスターのBBSホイール
  • マツダ・NAロードスターのエキゾースト

「こういうふうにクルマを少しイジってみるという楽しみ方は、昔はできなかったんですよ。ローンの返済に必死だったからね(笑)。幸い、今はそこそこ余裕があるから、やっとユーノスを楽しめているという感じですかね」

“やっと楽しめている”という言葉は確かにその通りで、岩崎さんのロードスターからは、各所にそれを感じられる。

  • マツダ・NAロードスターのセンターコンソール
  • マツダ・NAロードスターに装着しているNBロードスター用のエアロボード

例えば内装だ。“V Special”というグレードは、ブラック一色のノーマルの内装とは違ってタン色が用いられた豪華仕様となっているのだが、岩崎さんはこの世界観を壊さないように手を加えている。

シートは業者から生地を取り寄せ、色合わせをした上でワンオフで制作。ステアリングホイール、シフトノブなどはウッドパーツに交換。シートの後ろについているNBロードスター流用のエアロボードは自分で塗装するなど、クルマいじりを目一杯楽しんでいる様子がうかがえる。

  • マツダ・NAロードスターの運転席

「オープン時に見られることも意識して、内装はベースとなるタン色に揃えるよう意識しています。ハザードランプのスイッチや発煙筒などの法律で決まっているような赤色で、注意喚起が必要なものは例外として、茶色系、シルバー、ブラック以外のパーツは内装には使わないようにしています。

そうなると、スマホの充電ケーブルが目立つので、ケーブルもなるべく短く、色は黒。ダッシュボードにカーナビやレーダー探知機、スマホホルダーなどは置かない。フロントにドライブレコーダーを取り付けているのですが、モニターは目立つので、モニターレスのタイプを選択しています。あとは、マルプー(犬種)の“麦”も茶色だし、それから……」

次の言葉が出かかったときに、思わず遮ってしまった。大人になったからこそできるようになったロードスターの楽しみ方は、きっと記事に書ききれないくらい、まだまだあるに違いないからだ。

  • マツダ・NAロードスターのエンジン
  • マツダ・NAロードスター車高調のダイヤル

「このロードスターを手に入れてから、サーキットを走るようになりました。筑波サーキットのコース1000というコースを走らせるのが好きなんですけど、フラットで、アップダウンがなくて、レース仕様にガチガチにいじっていない、僕のユーノスくらいが調度いいんです。

スピードでいうと、ストレートで100km/h超くらい。それでも、アクセル全開にして踏めたり、コーナーを曲がる時にリアが滑ったり、普段は味わえない走りが出来るのはとても楽しいですよ。新しいクルマではないから、予防整備とか、やっぱりそれなりに大変です。だけど、買って良かったですよ。もう1回乗って、やっぱり楽しいクルマだし、これからやりたかったことができますから」

  • マツダ・NAロードスターのオーナー岩崎さんと愛犬

奥様と温泉へ出かけたり、ロードスターオーナーズクラブのみんなでツーリングに行ったり、ガレージを持っている友人の所でタイミングベルトやマフラーを仲間に手伝ってもらいながら交換したり、娘2人からは見向きもされなかったり……。

楽しそうにロードスターについて話している姿をみると、岩崎さんにとって、今が青春なんじゃないかと思えてくる。確かに、21才の頃とは隣にいる人や環境も違えど、その表情は、まさに青春のそれだ。

「売るつもりはないですよ。自分が乗れなくなるまではね」

岩崎さんの青春時代はまだまだ続きそうである。

取材協力:フェスティバルウォーク蘇我

(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)

[GAZOO編集部]

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