世界中のカー・オブ・ザ・イヤーを総ナメにしたボルボが海に挑む

2017年から2018年にかけて最も注目されたブランドといえばボルボ。XC60で2017-2018日本カーオブザイヤー、2018北米SUVオブ・ザ・イヤーを受賞。2018欧州カー・オブ・ザ・イヤーはXC40で、そして世界カー・オブ・ザ・イヤーをXC60で受賞する快挙を成し遂げました。世界的にSUVが人気ですが、スポーティーなセダン、質感の高いコンパクトカー、魅力的なスポーツカーを押さえて受賞したことは、そのクルマの快適性、機能性の高さだけでなくドライビングの楽しさ、内外装の質感の高さを1台にまとめ上げたすばらしさでしょう。そして一貫したブランディングも大きく関わってきていると思います。ボルボのブランディングのひとつに「ボルボオーシャンレース」があります。世界一周するヨットレースで、私も趣味でヨットに乗るので昔からとても興味がありました。言わば、クルマメーカーの”海上のワンメイクレース”、ちょうど寄港地のニュージーランド・オークランドへ観に行くこととなったので、その模様をお届けします。

1973年から始まった歴史あるヨットレース

もともとはイギリスのビールメーカーがスポンサーとなり始まったヨットレースですが、現在はボルボグループとボルボカーグループが出資する運営会社がボルボオーシャンレースを主催しています。単にスポンサーなのではなく、ボルボはグループ企業そのものがこのレースを運営しています。なので、スタッフのなかには、以前はボルボでマーケティング部に所属していた方などがいたり、かつてこのレースに出場していた選手がいたり、とてもユニークでヨットレースに真摯な事務局です。4年に1度の開催で、今回は2017年10月22日にスペイン・アリカンテをスタートし、ポルトガル、南アフリカ、オーストラリア、香港、中国、ニュージーランド、ブラジル、アメリカなどを巡り、6月にオランダ・ハーグへゴールします。12都市、4つの海、6つの大陸に寄港し、45,000海里(83,340km)を競います。

参加チームは7チーム。事務局から65フィートの同じ艇がレンタルされるので、ヨットの性能は同じで、選手たちの技術、チームワークが問われます。選手のなかには、2016年リオデジャネイロオリンピックのセイリングで金メダルを獲った選手がいたり、アメリカズカップで優勝した選手がいるかと思えば、ディズニー映画でヨットレースを題材にした「モーニングライト」にも出演した選手までバラエティーに富んでいるが、みなヨットのスペシャリスト。今回は77選手が参加し、うち18名が女子選手。みな体幹がしっかりしたアスリートばかりです。

レグスタート前のパーティーは600名で
レグスタート前のパーティーは600名で

オークランドからブラジルへ向け、今回最も過酷なレグにスタートする2日前、関係者のパーティーがありました。ドレスコードはスマートカジュアル。オークランドで一番大きいであろうホールで着席ディナーでした。参加者は選手やその家族、スポンサー関係のみですが、なんと600名を超えていました。その壮大なスケール感に圧倒され、ボルボが目指すブランドへの思いがとても伝わってきました。

ブラジルへ向けてスタート
ブラジルへ向けてスタート

そしてスタート。マリンスポーツが日常的なニュージーランドでは、このレースは大人気で、大勢の観客がマリーナに集まりました。ちなみに前回は寄港した街すべてで約230万人もの観客が集まったそうです。選手たちが紹介され、レース艇に乗り込んだら湾内でスタートを待ちます。私も知人のチームボートに乗ってレース艇を追いかけました。スタートしたらそのまま外洋へ行くのではなく、観客のためにも湾内を往復します。そこですでに20ノット近く出るので、モーターボートで追いかけるのもかなりのスピードで驚きました。ふとマリーナを見ると堤防や隣接するホテルに観客がたくさんいて驚きました。

大勢の観客の声援のなか、レース艇へ向かう
大勢の観客の声援のなか、レース艇へ向かう
これからしばらく会えなくなるから
これからしばらく会えなくなるから
風だけで20ノット出る
風だけで20ノット出る
湾内のレースは接近戦
湾内のレースは接近戦
湾内ですらこれだけスプレーを浴びる
湾内ですらこれだけスプレーを浴びる
それぞれ思い思いのコースを行く
それぞれ思い思いのコースを行く

レースビレッジにはボルボを展示

寄港する12都市の港では、それぞれレースビレッジが設けられ、ボルボのクルマやトラックなど展示されています。ボルボ一色のマリーナでXCシリーズ、Vシリーズを見ると、なおさらかっこよく見えます。また子供向けに楽しみながら交通やクルマを学べるアトラクションもあり、家族で楽しみながらボルボを知る親和性の高さが印象的でした。
世界一周ヨットレースという壮大なものを、うまくブランディングに活かしているボルボ。事務局スタッフに聞いたら、今年は香港、広州と寄ったから、次回はぜひ日本にも寄るコースを作りたいと言っていました。今回、日本からは1社だけスポンサー企業がありましたが、ぜひ4年後は、もっと日本企業、日本人が関わって、横浜にでも寄港してくれたら、この世界観が日本にも伝わりそうなので期待したいです。

モーターショーのようなブース
モーターショーのようなブース
ボルボオーシャンレースのオフィシャルカー
ボルボオーシャンレースのオフィシャルカー
子供も楽しめるコンテンツ
子供も楽しめるコンテンツ

勇気と英知が栄光への鍵

洋上での戦いで選手たちに問われるのは、イノベーションとチームワーク。スタート直後は、選手どうし声をかけ合いながら進みますが、風や波の音で聴こえないステージも多く、早くアイコンタクトでコミュニケーションを取り、さらに何も指示がなくてもチームとヨットのことを考え、自発的に自分の任務を遂行し、余力があれば仲間のタスクもフォローする。阿吽の呼吸でいい風を捕らえれば、誰よりも先に水平線の先へセイリングできます。これこそがボルボのブランド、製品を支えるマインドにもなっています。ボルボはこのレースをオーガナイズしながら、クルマ作りでも数々のイノベーションを起こし、そして部署内だけでなく様々な部署が組んでチームワークを発揮する。ボルボオーシャンレースを見ていたら、今シーズン、ボルボのXCシリーズが各国そして世界カー・オブ・ザ・イヤーを獲った理由がわかった気がします。

(テキスト・写真:寺田 昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。