スポーツCVTのVitzでセントラルラリーに参戦!そこで感じたCVTの可能性とは?!

ビギナー向けの「TGRラリーチャレンジ」、中級者向けの「TRDラリーカップ」、JAF地区戦そしてトップカテゴリーとなる「全日本ラリー選手権」と、国内ラリーは全国各地で盛り上がっています。そして2020年11月19~22日、10年ぶりに「WRC」が日本で開催されることになりました。

そのテストラリーとして、『セントラルラリー愛知/岐阜2019』が開催され、“GR TOKYO Racing(トヨタモビリティ東京)”より、社員ドライバーの長山等選手とともに参戦しました。

マシンは“ヴィッツCVT”。トヨタが先行開発し、2017年から実戦投入されているスポーツCVTがどのようなものなのか体感したくて、今回オクヤマとのコラボレーションにより実現しました。その走りと可能性についてレポートします。

多くのお客様が乗るCVTをもっと知るために

私が所属する“GR TOKYO Racing”は、東京でトヨタ車を取り扱うディーラー、トヨタモビリティ東京のチームでGR Garage東京三鷹をハブに、社員ドライバー、メカニックが中心となって「86/BRZレース」、「Vitzレース」そして「TGRラリーチャレンジ」などに参戦しています。

「86/BRZレース」では、GTドライバーひしめくプロフェッショナルシリーズで、トップ争いを展開し、Vitzレースでは、社員だけでなくレースに出たいお客様のマシン製作から現場でのサポートをしています。ディーラーのお客様にはCVT車も多く、もっとCVTを知って、お客様にCVTについてもっとお話しできるようになりたい。

そして、2ペダルであれば、モータースポーツに参加しやすくなるので、すでに「TGRラリーチャレンジ」ではVitz、AQUAのCVT車でモータースポーツ未体験の社員をドライバーに体感する活動を進めています。そして先行開発しているスポーツCVTを載せたマシンで、CVTの可能性をもっと体感しようと、セントラルラリーに参戦しました。

左のピンクのVitzから右のライトブルーのVitzへ。
左のピンクのVitzから右のライトブルーのVitzへ。
換装は『GR Garage東京・三鷹』のメカニックが行う。
換装は『GR Garage東京・三鷹』のメカニックが行う。

民家の脇を抜ける、驚きのSS

WRCのテストラリーとして開催された、『セントラルラリー愛知/岐阜2019』は、今までの国内ラリーとは、走っている景色がまったく異なりました。SSの距離自体は「全日本ラリー選手権」と大きく変わらないのですが、2車線を占有した高速エリアから民家の間を縫って走る、ヨーロッパのラリーのような楽しさ溢れるレイアウト。

その家の家族が、庭でBBQをしながら応援してくれたり、一緒にラリーを楽しめる感じがすばらしいです。そして、時折きれいな湖が見える湖畔の道路や、木々が鬱蒼と生い茂る林道など、バラエティに富んでいて、走っている私たちもワクワクするSSばかりでした。

また、岡崎中央総合公園のSSは会場で「岡崎クルまつり」が同時開催され、ラリーだけでなく、クルマの展示や特殊な消防車、自衛隊車両なども観られたりして、ここだけで約30,000人も来場があって盛り上がりました。サービスパークのある愛・地球博記念公園でもSSがあり、駅を降りてすぐSSが観られる便利さもよかったです。

集落のなかを走る!今までの国内ラリーでは考えられない。
集落のなかを走る!今までの国内ラリーでは考えられない。
神社の前をラリーカーが駆ける。日本ならではの風景。
神社の前をラリーカーが駆ける。日本ならではの風景。
神社の狛犬は、一方は口を開け、もう一方は口を閉じている。それが「阿吽(あうん)」。それはドライバーとコドライバーとの呼吸。
神社の狛犬は、一方は口を開け、もう一方は口を閉じている。それが「阿吽(あうん)」。それはドライバーとコドライバーとの呼吸。
『TGR WRT』のサービスには多くの観客が。
『TGR WRT』のサービスには多くの観客が。
新井大輝選手の乗る『シトロエンC3 R3”』
新井大輝選手の乗る『シトロエンC3 R3”』
役者揃いの『セントラルラリー』
役者揃いの『セントラルラリー』

スポーツCVT+LSDは異次元の走り

今回、急遽スポーツCVTとLSDを組み込んだため、長山選手も私も、練習走行もままならぬままラリーに参戦しました。長山選手は、長年Vitzレースに参戦しているVitzの使い手で、エンジン回転数が6,100rpmを保ちながら加減速していくVitzを、うまく活かして最初のSSからクラス2番手のタイムを出す快走をしてくれました。

一方、私は目視だけでなく、横Gやエンジン音で、コースを感じながらペースノートを読み上げているのですが、この回転数がキープされる感覚に慣れず、出だしにロストしてしまう大失態。2つめのSSから補正してことなきを得て、初日のLEG1をクラストップから2分48秒遅れの2位につけました。トップはMT車のVitzで、「全日本ラリーJN5クラス」のチャンピオンなので、私たちも初コンビで初のスポーツCVTで上々の出来でした。

『Vitzレース』で活躍する長山選手。今回のラリーで初めてコンビを組む。
『Vitzレース』で活躍する長山選手。今回のラリーで初めてコンビを組む。
ポディウムからセレモニアルスタート。気分が高まる。
ポディウムからセレモニアルスタート。気分が高まる。
  • 後ろに見える2頭の狛犬に見守られ、息も合ってきた。
    後ろに見える2頭の狛犬に見守られ、息も合ってきた。
  • 民家の前を全開で走る。
    民家の前を全開で走る。
  • モリコロパークの地球市民交流センターのドーム型の体育館が青い地球のように光る。
    モリコロパークの地球市民交流センターのドーム型の体育館が青い地球のように光る。
  • 日本らしい農村の風景。海外の方々にぜひ観てもらいたい。
    日本らしい農村の風景。海外の方々にぜひ観てもらいたい。
2名のディーラーメカニックが整備を担当。
2名のディーラーメカニックが整備を担当。

大会前に通常のCVTで練習走行をしていましたが、このスポーツCVTとLSDを搭載した差はとても大きく、コーナリングからの立ち上がりが、確実にトラクションがかかり、格段に速いです。SSではいかに直線的な部分で、最高速を上げていくかがタイム短縮に関係していて、コーナー出口でいかに加速できるかが重要です。

こういったスポーツ走行にぴったりマッチしているのが、このスポーツCVTです。また発進時も、いきなり最大出力でフル加速していくので有利です。そして、ラリーのように急加速、減速、登り降りとスポーツ走行を繰り返すと、通常だと制御がかかり、車速が上がらなくなります。スポーツCVT仕様では、このセーフモードを解除して、アタックしています。

アクセルをオフにすれば、エンジンブレーキもしっかりかかり、もちろん市街地走行では、それがピーキーに感じると思いますが、モータースポーツではドライバーのイメージ通り、リニアに反応してくれるのでかなり有効です。

今シーズンの「全日本ラリー選手権JN6クラス」に、このスポーツCVT搭載車で参戦し、チャンピオンを獲った大倉聡選手は、左足でブレーキをコントロールし、ブレーキングだけでなく、マシンの姿勢コントロールをします。クラッチがないので左足はブレーキに専念でき、エンジン回転数は落とさず、いつでも加速態勢を維持し、MT車と遜色ない走りをします。

CVTの効率のよさをスポーツに活かす

私が、「全日本ラリー選手権」のコドライバーをしている、“LEXUS RC F”のAT制御でも相談に乗っていただいている、トヨタの東富士研究所、パワートレーン先行設計部の高原秀明さんに、セントラルラリー参戦をお話したら、協力を快諾いただけました。

2017年から、全日本ラリーに参戦しているこのスポーツCVTは、アップデートを重ね、制御の精度も上がり、信頼性も申し分ないほどの実績があります。自動車の歴史のなかで、エンジンやバッテリー+モーターといった動力源、タイヤ、ステアリング、ブレーキ、サスペンションなど基本構成は変わっていませんが(個々の性能は格段によくなっていますが)制御技術が加わったことで、クルマは飛躍的に進化しました。

走行性能から省燃費、安全技術まで、この制御技術がクルマの品質を高めています。一般のCVTの制御は、燃費をよくしたり、誰が乗っても運転がスムーズになるようなセッティングがされています。移動だけ考えれば、安く楽に移動できる。しかし、走りを楽しみたい人からすれば、走りのフィーリングがあまりおもしろいものではない。

高原さんは、「決してCVTのせいでなく、燃費最適を狙った制御になっているからで、CVTも制御次第で、速く走れるということを皆さんに知っていただきたかった。」との思いでスポーツCVTを開発しました。

装備としては、LSDとオイルクーラーを追加した程度で、CVTは純正のままです。セッティングを変えたECUによって、最高出力を維持しながら、無段変速のプーリーとVベルトを最適な位置にして走れます。MT車のようにシフトアップしていくときのロスがなく、パドルシフトも必要なく、両手でステアリングを握り、右足はアクセル、左足はレーシンドライバーのようにブレーキに専念できれば、理想の走りが実現します。

2020年2月中旬頃(ガソリン車の4WDは4月)に、Vitzは『YARiS』になることが発表されました。噂ではVitzより軽くて剛性がより高くなっていることから、ぜひ『YARiS』でもスポーツCVTを継続してもらいたいと切に願います。

『CVT』の未来を切り拓き、可能性を見出すべく挑戦し続ける高原さん。
『CVT』の未来を切り拓き、可能性を見出すべく挑戦し続ける高原さん。

(写真:山口貴利・山本佳吾・GR TOKYO Racing/テキスト:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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