自動運転車の事故、その責任はどうなる? 「自動運転の論点」

自動運転ワンテーマという珍しいコンセプトのwebメディア「自動運転の論点」が2017年3月1日(水)にオープンしました。いったいどんな内容なのでしょうか?編集部におじゃまして、「自動運転の論点」編集長の須田英太郎さんに立ち上げの経緯や方針などをお聞きしました。

「自動運転の論点」編集長、須田英太郎さん

――「自動運転の論点」は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?

自動運転という切り口で日本の社会的な論点を扱う専門誌を作れないか、というのが最初のキーコンセプトでした。世の中にはいろんな社会問題がありますが、なかなか自分事として捉えられないことも多いですよね。自動運転という切り口を加えれば、クルマ業界にいる方はもちろん、運転しない人にとっても身近に感じることができるのでは?と考えました。
例えば「今後タクシーはどうなるの?」とか「田舎のおじいちゃんが免許を返納したら、生活面で困る」といった論点だと、自分事として捉えやすいですよね。

「自動運転の論点」トップページ

――メニューが社会科学系、自然科学系、工学系……となっていますね。ジャンルはどう設定しているのでしょうか?

簡単に言うと、大学の講座を模しています。執筆して頂いている著者も大学の先生が多いのですが、それぞれの専門分野から自動運転を見るとどうなるのか?社会の課題を自動運転がどう解決しうるのか?といった議論をしていただいています。

――なるほど、大学の学部・学科に近いイメージということですね。どういう読者層を想定しているのでしょうか?

自動車業界や運輸業界など、自動運転によってビジネスが変わる人たち、特に経営者層を想定しています。いま社会にはどういう課題があって、10年20年先の未来に人々がどのような価値を重視するのかを示せば、ビジネスをより深める手助けができるのではないか?という考え方です。

例えばタクシー業界を考えると、いずれ完全自動運転車が実用化されれば、ドライバーさんを雇うよりもAIによる自動運転の方がコストが低くなります。しかし、それでも人に運転してもらいたいと思うお客さんもいるでしょう。それはなぜなのでしょうか。こういった疑問は、ドライバーさん自身はもちろん、ドライバーさんを雇っている経営者も抱えているはずです。今後のタクシー業界であれば、「完全自動運転車にできなくて、ドライバーにできるサービスは何か」を考える必要がありますし、トラック業界であれば「どうすれば人手不足を解消できるのか?」について現在進行形で悩んでいるはずです。
「自動運転の論点」では、10年後、20年後をふまえて選択をしないといけない経営者層に向けた、良質で重厚なレポートを集めています。料金は月額900円(税抜)で、会社の経費として購読してもらうことを想定しています。

「自動運転に必要な道路/自動運転で高速道路の交通渋滞はなくなる?」より抜粋

――個人の読者というより、会社の定期購読紙のような位置づけということですね。無料で読める記事もありますが、使い分けはどのように?

2017年1月にプレオープンし、記事を無料公開していましたが、3月より正式にスタートということで有料会員制に移行しました。ただ、読める記事がまったく無いとどういうサイトか分からないので、「こんな議論をしていますよ、あなたも参加しませんか」と示すために、現在もいくつか無料公開しています。今後も週に1本は無料記事を出していこうと思っています。

――どういう記事が人気なのでしょうか?無料で読めるおすすめの記事などあればご紹介ください。

TMI総合法律事務所の弁護士さんが執筆した「自動運転車(レベル3)の事故と運転者の法的責任」は、比較的多く読まれていますね。運転者に操作権限が委譲された場合/されなかった場合など、ドライバーの責任がどうなるのか、いろんなパターンを想定して法的に議論してもらっている記事です。あくまで仮説ですが、できるだけ厳密に、かつ想像力も使って書いていただきました。

「新制度設計と立法/自動運転車(レベル3)の事故と運転者の法的責任」より抜粋

あとは、市川政雄先生の「本当に必要な高齢ドライバー対策は何か」という記事ですね。
ドライバー本人と同乗者のケガ・死傷者数は高齢になるほど多くなりますが、相手側をケガさせる事故は若い世代のほうが多く、高齢になるにつれて減っている、といったデータを分析しています。第2章では海外の高齢ドライバー対策や効果検証の例も紹介しています。
「うちのおじいちゃん、運転させてあげたいけど、だれかケガさせちゃったら……」と心配している方も多いでしょう。そういう意味では一般の方にも興味のあるテーマかと思います。

「本当に必要な高齢ドライバー対策は何か」より抜粋

――須田さんご自身は、どのような課題を感じていますか?

たくさんの場所で社会的問題が顕在化していて、場当たり的な対策ではもうどうしようもないところに来ているのではないか、という危機感を持っています。ただ、社会問題は人々のニーズの表れであり、ビジネスチャンスでもあります。現在の問題点を洗い出しながら、30年後、40年後の社会システムを考えることは、ビジネスリーダーが未来のサービスを考えるために避けては通れないプロセスです。
自動車メーカーでは、「シェアリングエコノミーが進んでみんなクルマを買わなくなったとしたら、どんなビジネスモデルでやっていけばいいのか?」という議論がすでに始まっています。それは大手メーカーだけの問題ではなくて、関連する中小企業も考えなければいけない。そんな社会制度や価値観についての議論を、みなさんのビジネスに近い切り口で提供できれば、と思っています。

――今後の予定は?

夏ごろにイベントを行う予定です。「交通事故をなくす方法」をテーマに、自動車業界の方や「自動運転の論点」の講師陣を招いて座談会を開き、読者にも参加してもらう企画です。年末にはwebサイトからも一部の講義を転載して、書籍版『自動運転の論点2018(仮題)』を出版する予定です。web版の記事だけでなく、データリストや自動運転関連の用語集なども加えます。

「自動運転の論点」編集部スタッフ

「私もクルマは好きですし、よくドライブします。すべて自動運転になればいい、というわけでもないでしょう。できるだけフラットに自動車や自動運転技術を捉え、本当に社会が必要とするサービスは何かを考えています」と話す須田さん。自動運転というと技術的な面ばかりクローズアップされがちですが、それを私たちがどう受け入れるのかが重要なポイントなのだな、と改めて気づかされました。

(村中貴士+ノオト)

[ガズー編集部]