きっかけは道路じゃなくて鉄道? 日本で初めてカーブミラーを作った人とは

クルマを運転するにあたって必要不可欠なもの、それはカーブミラーです。ドライバーにとっては当たり前の存在ですが、そもそもカーブミラーはいつ、誰が作ったのでしょうか? そこで今回は、日本で最初にカーブミラーを製造した「信正工業株式会社」にお話を伺いしました。ご回答いただいたのは、代表の飯嶋修一さんです。

――カーブミラーにはどのような種類があるのでしょうか?

鏡面の材質で分類すると、アクリル、ステンレス、化学強化ガラス、ポリカーボネートの4種類です。形状としては丸型φ600とφ800とφ1000、角型は450×600mmと600×800mmの5種類となります。日本全体での使用率は丸型が90%以上です。当社でも角型はめったに注文がありません。

丸型と角型
丸型と角型

――「道路反射鏡」が正式名称のようですが、「カーブミラー」とはどう違うのでしょうか?

道路反射鏡認定試験に合格したものを「道路反射鏡」といい、一定の性能以上がなければ認められません。カーブミラーは、凸面のある取付金具つき鏡を総称した呼び方です。
道路反射鏡協会のメーカーは2年に一度、認定試験を受けています。合格品には鏡体の裏、支柱上部にステッカーが貼ってあり、メーカー名や材質構成を表記しています。試験では、台風時などの強風に耐えられる強度があるか、鏡の中央から端までの歪み、鉄球を落としての耐衝撃性などを調べます。支柱は塗装塗膜が衝撃ではがれないか、塩水噴霧試験をしても腐食が進まないかなどをチェックします。

取り付け前の鏡体の裏側
取り付け前の鏡体の裏側

――御社のホームページでは直販もされていますね。個人で注文される方は、どういった用途で使われるのでしょうか?

私有地での使用が多いですね。個人所有の駐車場や会社の入り口にある古いミラーの交換、大きな工場内で車両やフォークリフトを使う場所、マンションの管理組合が出入り口に取り付け……といろんなケースがあります。
珍しい使い方としては、事務所内で座った状態から窓越しに会社敷地内を見る、2階の窓越しに1階の玄関周りの様子を見る、といったケースもあります。

――個人でも取り付けできるのでしょうか? また、基準などはあるのでしょうか?

支柱がしっかりしていれば交換はさほど難しくないので、購入者ご自身で取り替えられる場合がほとんどです。ただ、初めてのケースも多々ありますので、どのように取り付ければいいかという相談も寄せられます。
私有地内であれば特に制約はありませんが、大きな鏡+細い支柱の場合は強度に不安がありますので、基本的には道路反射鏡協会で定めた組み合わせをお勧めしています。

取り付け作業の様子
取り付け作業の様子

――カーブミラー=オレンジ色、というイメージが強いですが、何か決まりがあるのでしょうか?

昔は鏡体部分=黄色が主流で、柱は白と黒で交互に色分けされた(遮断機のような色配置の)支柱が使われていました。やがて黄色の支柱となり、のちに鏡体・支柱ともオレンジが広く使用されるようになりました。オレンジを採用した理由は、目立たせるため、鏡の存在をドライバーに知らせるためです。
20年以上前、景観問題がテーマになった時期があり、街になじむブラウン(茶色)の支柱と鏡体を採用する自治体が出てきました。ただ、価格が3割以上高い、目立たないために車両に接触されやすい、といった理由により、現在ではあまり出荷されなくなりました。

――変わった道路反射鏡があれば教えてください

防霜(ぼうそう)型シモレスミラーがあります。道路反射鏡はやや下方向に傾けて設置しているため、鏡面よりも裏板のほうが放射冷却の影響を受けて低い温度となります。シモレスミラーは鏡面が冷えにくいように、裏板からの冷熱を遮断しています。また鏡面を暖めるために、まわりの大気を側底面より取り入れ、鏡面と大気の温度差を少なくすることでくもる原因自体の発生を抑えています。

防霜(ぼうそう)型シモレスミラー
防霜(ぼうそう)型シモレスミラー

――道路反射鏡を日本で初めて道路に設置したのは、御社の初代取締役・飯嶋正信さんとのことですが、そのいきさつについて教えてください

1960年代、静岡県の十石峠(じゅっこくとうげ、当時は伊豆箱根鉄道が管理)に、私の父である飯嶋正信が設置したと聞いています。
道路反射鏡の原点は、道路ではなく線路でした。昔は遮断機のない小さな踏切も数多くあり、特に単線が走る市街地のカーブでは、接近する電車が見えない現象が発生し、とても危険でした。そこで少しでもカーブの先を見るために、平面のガラス製鏡を設置したのが始まりと教えてもらいました。ただし平面鏡は、ものを大きく映すかわりに範囲が狭くなる欠点があり、見る位置にかなりの制約が出ます。元国鉄の方が「鏡面を凸面に加工することで広い範囲を映す」というアイデアを考えた、とも聞きました。
ただ50年以上前のことなので、明確な資料が残っていません。母も「初めてカーブミラーを立てたのはお父さんだよ」と言っておりました。2人とも存命ならば詳しく聞けたのですが……すみません。

化学強化ガラス製、1面鏡と2面鏡
化学強化ガラス製、1面鏡と2面鏡

――日本で生まれた製品だったのですね。海外でも道路反射鏡が使われているのでしょうか?

海外での需要は、日本に比べれば低いですね。見通しの悪い交差路であっても狭ければ設置できませんし、昔ながらの街並みを大切にする場所には受け入れられません。
海外では安価な東南アジア製品が使用されているようです。主にステンレス鏡面製で、見た目は日本のメーカーとそっくりな製品もありますが、凸面にするプレスの精度と研磨技術に差があります。これはコストがかかる工程で、普通の鏡として見ると気がつきませんが、反射鏡として遠く離れたクルマを見た場合に違いが出ます。精度が悪い鏡面は途中でクルマの姿がゆがんだり、スピードが急に早くなったり遅くなったりすることがあり、正確な距離感をつかむのが難しくなります。

――最後に、ドライバーが注意すべきこと等ありましたら教えてください

「直径600、800、1000mm/丸型」で説明すると、それぞれの鏡はほぼ同じ範囲を映すように作られていますので、同じ距離でも大きさが異なって見えます。まれに、一本の支柱に左右違う大きさの鏡がついている場合がありますが、同じように見えても距離が違うので注意が必要です。
官公庁の設置した道路反射鏡には、柱の部分に管理者を示すステッカーが貼られています。破損、汚損などにより交換が必要な場合は、管理者に連絡を入れると対応してもらえると思います。新しく設置してほしい場合は、町内会や自治会経由で要望されるケースが多いようです。

アクリル製φ600、2面鏡
アクリル製φ600、2面鏡

「1960年代に日本で作られた」「個人でも購入できる」など意外な事実が明らかになりました。普段なにげなく見ているカーブミラーにもいろんな種類があるのですね。
クルマを運転していると、汚れていて見えにくい、また、破損しているカーブミラーを見かけます。事故につながる可能性もありますので、異常のあるカーブミラーを見つけたら放置せず、管理者に連絡するようにしましょう。

(村中貴士+ノオト)

[ガズー編集部]