あの「ミシュランガイド」は、いつどのようにして生まれたのか?

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

世の中にグルメガイドは数多あれど、「ミシュランガイド」の存在は別格。「一度はミシュラン三つ星のレストランで食事をしてみたい」なんて思い描く人も少なくないはず。

さて、その「ミシュランガイド」、掲載されるレストランや評価の星の数がよく話題に上りますが、そもそもどういった経緯で発売に至ったか、ご存知でしょうか? 日本ミシュランタイヤ株式会社に取材をして、その歴史を紐解きました。

19世紀末、華やかなりしフランスで誕生

発行元はもちろん「ミシュラン」。ご存知の通り、フランスのタイヤメーカーで、1889年にアンドレとエドゥアールのミシュラン兄弟が、自身の名前を冠して創立したもの。現在、世界最大級のタイヤメーカーであることは、言うまでもありません。では、なぜタイヤメーカーがグルメガイドを?

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

「ミシュランガイド」の初版は、1900年8月にフランスで発行されました。当初は、あくまでドライバーのために作られたガイドブックだったそう。当時はまだクルマがほとんど普及していなかった時代で、「ドライブ」といっても今のような快適なものではありませんでした。ガス欠、車両故障、もちろんタイヤだってパンクしてしまう。そういったクルマの置かれた状況に、ミシュラン兄弟が「もっと楽しくクルマを運転してもらいたい」「遠くまで快適にドライブしてほしい」と考えて作られたのが、ミシュランガイドなのです。

タイヤの修理方法、ガソリンスタンドや自動車修理工場のリスト、ドライバーが食事を楽しむレストラン、遠方でのドライブでも困らない宿泊施設が掲載されていました。1900年といえばパリ万博の年。華の都・パリでは地下鉄が開通し、ちょうど人々が遠くに動き出し始めた時代です。当然ミシュラン兄弟もこの気運を感じ、クルマやタイヤの需要もこれからさらに伸びると感じていたことでしょう。当時はドライバーに無料でガイドを配っていたそうですよ。

基準を設けて「おいしい」を表す

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

現在のような美食のレストランガイドに姿を変えていったのは、いつのころからでしょう。ミシュランガイドに最初に星が登場したのは、1923年。「快適さと適正な値段のレストランに黒い星をつける」というものでした。その星が「おいしさを表す」ものとなったのは、1926年です。そして、おいしい料理に舌鼓をうつミシュランのキャラクター「ムッシュ・ビバンダム(ミシュランマンの愛称でも親しまれている)」を通して、グルメな読者にもガイドブックが浸透してきたころで、1931年にフランスの地方版から「二つ星」「三つ星」と評価するようになったそうです。

ミシュランのモビリティを世界に広げるために

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

では、フランス国外で最初にミシュランガイドが発行されたのはどこだったでしょうか。答えはベルギーで、1904年だったそうです。1911年には国というくくりではなく、エリアとして「アルプスとライン川版」や、フランス・コートダジュール、コルシカ島、イタリア、北アフリカ、エジプトを網羅した「太陽の国版」が出版されています。「太陽の国」とは、なかなか素敵なネーミングですね。

さて、そろそろ我が日本について。日本のレストランが初めてミシュランガイドの評価対象となったのは、2007年です。その経緯は、当時のエドワール・ミシュラン社長とジャン=リュック・ナレ編集長はともに「ミシュランのモビリティを世界に広げたい」という考えを持っていて、まずヨーロッパ以外では2005年にアメリカ版が刊行されました。

その後、世界の都市を探る中で、東京のレストランがより魅力的で際立つことを知り、日本版刊行に向けた動きに。日本ミシュランタイヤで調査員のポテンシャルを持つ人物を採用し、準備を進め、ついに「ミシュランガイド東京」が出版となりました。

掲載店舗や星の数はどうやって決まる?

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

お店は本や雑誌、SNS、インターネット、業界の評判、読者や自薦のご意見など、編集部に寄せられるありとあらゆる情報をもとに選定するそうです。そして、「素材の質」「調理技術の高さ、味付けの完成度」「料理の独創性」「コストパフォーマンス」「常に安定した料理全体の一貫性」という世界共通の5つの基準をもとに匿名調査員が複数回調査を行い、合議制で決定します。レストランでおいしそうに食事をしている人の中に、調査員がいるかもしれないのです。

では、ここで星の解説をしておきましょう。星は「飲食店・レストランで提供される料理に対する評価」です。

一つ星★:そのカテゴリーで特においしい料理
二つ星★★:遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理
三つ星★★★:そのために旅行する価値のある卓越した料理

このほかに、フォークとスプーンのマークで「快適さやサービス」が5段階で示され、その評価の下に「シンプルショップ」と「ストリートフード」というマークがあります。

もうひとつある、ミシュランマンがペロリと下を出しているマーク。これは「ビブグルマン」というもので、良質な料理を手頃な価格で楽しめる店を紹介しています。基準は、5,000円(東京・京都・大阪)もしくは3,500円(地方ガイド)以下で、特におすすめの料理を提供するお店だそうです。ビブグルマンなら、ちょっと手が届きそうな気がしますね。

100年前と同じ「ドライブでの楽しい体験」を

(C)MICHELIN
(C)MICHELIN

毎年話題になる「ミシュランガイド」。今や「美食家のバイブル」として多くの人が認識し、評価を受けた飲食店やレストランはとても名誉なこととなりますが、そもそもはクルマとタイヤのことを心底考える兄弟が、クルマに乗る人のために作った実用ガイドブックなのです。初版の序文には次の言葉が書いてありました。

「このガイドブックは、旅行者に宿泊と食事ができる場所を見つけていただくために編集されたものである」

「このポリシーは今も変わらない」と日本ミシュランタイヤの広報担当者は話します。「すべての方に便利に使っていただき、ご家族や友人と素晴らしい外食・宿泊をしていただくためのガイドであり続けたい」。ドライブに出かけて素敵な体験を。それこそがあの赤い本が一番喜ぶ使い方なのでしょうね。

(取材・文:別役ちひろ、取材協力・画像提供:日本ミシュランタイヤ株式会社、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road