専門家が気になるクルマは? ブース設営の裏側は?視点を変えた「ジュネーブ・モーターショー」レポート

去る2018年3月5日~18日の14日間、スイスのジュネーブで開催されていたモーターショー。GAZOO.comを始め、さまざまなメディアが取り上げていましたから、ここで発表された新型車やコンセプトカーの姿を目にした人も多いことでしょう。今回は、ちょっと視点を変えて、ジュネーブ・モーターショーをクローズアップ。欧州在住のコラムニスト、デザイン系ジャーナリスト、メーカーのモーターショー担当の方に、「注目したクルマ」や「ショーの裏側」などを聞いてみました。

大矢アキオさんの注目はGFG Styleのコンセプトカー「Sibylla」

お一人目は、二玄社『SUPER CG』元編集記者でイタリア在住22年のコラムニスト、大矢アキオさんです。欧州の目を持つ日本人が注目したクルマはGFG Styleのコンセプトカー、Sibyllaでした。

「GFG Styleは、ジョルジェット・ジウジアーロが新たに立ち上げた会社で、このコンセプトカーSibyllaは、ENVISIONという中国系再生可能エネルギー機器企業とのコラボレーションで生まれたもの。同社は風力発電機メーカーであり、世界トップ10入りする規模を誇ります。Sibyllaは、SUVとは違うスタイルでスペースと高級感を演出。マッシブに見えるけれど、全長はアウディA8より短いんです。スペース・ユーティリティーを極限まで追求することが、ジウジアーロの真骨頂。そんな作品を久しぶりに見ました。間違いなくこのショーのベスト・オブ・ベストです」(大矢さん)

「東京でフィアット・ウーノ、イタリアでランチア・デルタという彼の作品に乗っていたことがあり、パッケージングの妙を体感していましたが、このクルマにも同じ思想があります。ぎりぎりまで拡げた室内空間、えぐられたドア内側の小物入れ、リアシート後ろに大きいラゲッジスペースがちゃんとあり、さすがジウジアーロという室内空間です。スペクタクルなスライドキャノピーも乗降性を向上させるための手段です。一見華やかなコンセプトカーですが、必要最小限のボディサイズに最大限の空間という、昔から目指し続けている思想が反映された、気骨のあるデザインだと思います」(大矢さん)

古庄速人さんはヒュンダイのコンセプトカー「Le Fil Rouge」に注目する

お二人目は、元『CAR STYLING』の編集部員であり、自動車をはじめとしたトランスポーテーションや工業デザインの分野を得意とするフリーライターの古庄速人さん。古庄さんにも「注目のクルマ」をお聞きしたところ、「自分はフィアット・パンダのようなシンプルな大衆車が好きなので大きいクーペに興味はないのですが……」、と、前置きした上でヒュンダイのコンセプトカー「Le Fil Rouge」を挙げてくれました。

「表現が難しいんですけど、『ぐわって』いう感じの韓国人が大好きなデザインだと思います。インテリアが特にいいですね。メータークラスター、インパネが液晶の一枚ものになったときにどんなデザインができるの? という課題に対して、欧州大メーカーとは違う回答を出しています。自動運転レベル4時代の、ステアリングがないインテリアはどこも横並びで住宅のインテリア調にして快適さを表現していますが、このヒュンダイはダイナミックで有機的な造形を織り込みつつ、今までの住宅調とは違った表現にしてきているのがいいですね」(古庄さん)

また古庄さんは、ルノーのバスみたいなコンセプトカー「EZ-GO」にも注目したと言います。

「ステアリングやペダルのない完全自動運転になったときに、どういう乗りものを提案できるかということを考えた結果、バスのようになったのでしょう。天井からガバッと開くドアなので、奥の席まで立ったまま入れるのがいいですね。小型のパーソナルカーを中心とするブランドが、こうしたクルマを堂々と出してきた姿勢は、すごく高く評価しています。なかなかの割り切りですね」(古庄さん)

マツダの塩崎さんにブース設営の裏話を聞いてみた

最後は、マツダ株式会社で世界のメジャーなモーターショーの裏方としてご活躍の塩﨑さと子さんに ”モーターショーの舞台ができるまでと苦労” についてお話を伺いました。

「展示ブースにはベースデザインというものがあり、それは日本の建築家にお任せしています。各国のモーターショーには、このベースデザインを基本としながら、ショーによって大きく異なるレギュレーションに合わせていきます。このレギュレーション対応が苦労するところです」(塩崎さん)

「ジュネーブの場合は、かなりレギュレーションが厳しく、プレスデイと一般公開日で違う部分もあります。ブースについては床からの高さや、壁や柱からのセットバックの寸法も規定があるのですが、天井から照明を吊り下げる場合も『天井から何メートル以内』と決められているので、きれいに照明を当てるのが難しいんです。マツダは色と見せ方にこだわっているので特に。施工代理店や照明業者と一緒になって調整するのですが、ここがもっとも大変な部分ですね」(塩崎さん)

通常、モーターショーのブース設営は4日ほどで行うそうですが、ジュネーブでの設営期間は、約1カ月。期間が長いため、今回は床をリノリウムで作っているそう。メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンが、アスファルトのような素材を使っているのも、設営期間が長いジュネーブならではだと塩崎さんは言います。

「大きなブランドはどこもグローバルデザインを持っていますが、ショーによって使用できる素材が異なったり、レギュレーションが違ったりするのでショーによって微妙に異なってきます。しかし、それでクルマの見え方が変わってしまうのは具合が悪い。だからブースのベースデザインが重要なんです」(塩崎さん)

ブースの最終仕上げのあたりから現地入りしてプレスデイを迎え、それが終わると一般公開日に向けてレイアウト変更工事を指揮。会期中には、来場者の案内や現地クライアントとのミーティング、そして他社ブースの視察など、早朝から深夜まであれこれと忙しく動き変わるそう。華やかなモーターショーの裏には、メーカーの方のこんな苦労があったのですね。

さて、少し変わったジュネーブ・モーターショーレポート、いかがでしたでしょうか? このショーは、ほかのショーと違ってクルマを見るだけでなく、クルマを見ながらじっくり人の話を聞いてみたくなる、そんな展示会だと感じています。実はほかにも話を聞いてみたい専門家の方々がいるのですが、それは来年の楽しみといたしましょう。2019年は、3月7日~17日の開催です。

(取材・写真・文:大田中秀一 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]