選挙活動を支える「選挙カー」のルールや工夫を製作会社に聞いてみた

毎週のように、日本全国どこかで行われている選挙。その期間中、必ず目にするのが、候補者が乗る「選挙カー」です。ではこの選挙カー、政党や候補者の所有物なのでしょうか? そもそも誰が作っているのでしょうか? 意外と知らないものですよね。

そこで、選挙カーの製造やレンタルをしている株式会社グリーンオートの若狭侍郎さんを訪ね、選挙カーの世界を教えてもらいました。同社は、「もっと選挙に興味を持ってもらいたい。もっと政治を“見える化”したい」という会長の考えから、2004年より選挙カー事業を行っている企業です。

細かいルールを守って選挙カーは作られている

まずは、選挙カーにまつわるさまざまな“決まりごと”から伺ってみました。

「選挙カーは、政党や候補者の所有物は少なく、選挙のたびに政党や候補者がレンタル業者から借り受けるもの。当社のようなレンタル業者は注文を受けると、スピーカーを始めとした装備類を整備し、看板の貼り付けなどをして納品します」(若狭さん)

選挙カーにレンタルが多い理由には、選挙用車両ならではの細かい規則があることが影響しています。選挙カーは、どんなクルマでもいいわけではないのです。また、国会を除けば地方議員や知事の任期が4年なのも大きな理由で、4年に1回使うためだけに所有するより、車両や設備の維持費を考えるならレンタルがいいという考え方も強いようです。

一般的な選挙カーは、こういうイメージではないだろうか(写真:グリーンオート
一般的な選挙カーは、こういうイメージではないだろうか(写真:グリーンオート

「公職選挙法により、 選挙で候補者が使用する場合はルーフやお立ち台の設置などは関係なく、3、4、5ナンバーに限られます。福祉車両が必要な場合のみ福祉車両の8ナンバーは可能です。弊社では、3ナンバーのエルグランドをベースに改造した選挙カーが多いですね。登録も3ナンバーです」(若狭さん)

車体後部を改造した日産エルグランドの選挙カー
車体後部を改造した日産エルグランドの選挙カー

ほかにも、オープンカーはNGで、車両につける候補者の写真や名前が載る看板のサイズにも決まりがあり、「縦273cm×横73cm以内」でなければならないなど、細かい文書図画の表示規定があるのだそう。また候補者用選挙カーの台数は、小選挙区や知事選の場合、ひとり1台まで、参議院の比例区のみでの立候補だと、全国をまわる関係上3台までの使用が許されていると言います。

加えて公職選挙法はもちろん、道路交通法への照らし合わせも必要で、思った以上に選挙カーのルールは厳密なようですね。ちなみに、候補者ではなく政党の幹部などが応援演説で乗る車両である「政党車」は、数十人が乗る車両になることもあるため、8ナンバー登録が許可されているそうです。

「地上戦」に「空中戦」、選挙によって向いている車種は違う

選挙カーはどの選挙戦でも同じ車種でいいというわけではなく、選挙の内容によっては向き不向きがあるとか。

「選挙にはよく、『地上戦』と『空中戦』があると言われますが、選挙カーもそれぞれに適した形があります。地方議員選挙などの『地上戦』では、細い道でも小回りが利き、街角で握手などに応じられる選車(せんしゃ=選挙カー)が適しており、軽自動車がよく使われます。『空中戦』は、国政選挙や知事選などですね。この場合は、大きめの車両の上に立ち、ターミナル駅などでの街頭演説で、多くの人の目に留まるようにすることが重要です」(若狭さん)

軽自動車ベースの選挙カーは、小回りが効くことと同時に「目線が近いこと」もポイント(写真:グリーンオート)
軽自動車ベースの選挙カーは、小回りが効くことと同時に「目線が近いこと」もポイント(写真:グリーンオート)

地方選の場合、あまり大きな選挙カーに乗って上から見下げるような演説をしていると不満に思う有権者がいるため、有権者と「同じ目線」に立てるよう、軽自動車や小型車の選挙カーを使う候補者が多いのだそう。草の根活動で、地道に町の区画の一つひとつを抑えていく選挙活動を行うから「地上戦」というわけです。

国政選挙や知事選になると有権者の数が多くなり、広範囲に伝わるように演説をしなければいけないことから、「空中戦」となぞらえるとか。グリーンオートの選挙カーはガラス張りになっていることが特徴で、こうした空中戦で大きく役立ちます。

大きなガラスで内部がよく見えるのが好評の選挙カー

多くの政治家や各地方の知事候補から愛用され、評判も高いというグリーンオートの選挙カー。その大きな特徴は、車体後部が大きなガラスで覆われており、道を走っているときでも候補者の顔がすぐ判別できる点にあります。

「よくワンボックスの小さい窓から身を乗り出して手を振っている候補者さんがいますが、このクルマなら、窓を閉めていても誰が乗っているのかがすぐにわかります。窓を開けながらの走行もできるので、道行く人の声にすぐに応えることもできます。また、はしごが内部にあるので、屋根の上に上がって演説するときもクルマの外に出る必要がなく、ロールスクリーンを窓に下げれば突然、候補者さんが選車の上に登場する演出などもできると好評です」(若狭さん)

どれだけ乗っている人がわかりやすいか若狭さんに頼んで座席に乗ってもらった。たしかにわかりやすい! 天井には「はしご」が見える
どれだけ乗っている人がわかりやすいか若狭さんに頼んで座席に乗ってもらった。たしかにわかりやすい! 天井には「はしご」が見える

具体的に誰とは言えませんが、このガラス張りの選挙カーを使うと移動中の注目度が違うと絶賛している政治家が何人もいるそうです。

選挙カーの内装も見せてもらった。通常のワゴン車よりも広く、そして窓が大きいことは一目瞭然
選挙カーの内装も見せてもらった。通常のワゴン車よりも広く、そして窓が大きいことは一目瞭然
屋根の上にも上がってみた。中央の鉄板の部分が乗り降りするためのハッチ。候補者を照らす照明が左右についている
屋根の上にも上がってみた。中央の鉄板の部分が乗り降りするためのハッチ。候補者を照らす照明が左右についている

選挙前には寝る間を惜しんで車両の準備をすることも

そんな同社に注文が殺到するのはもちろん、統一地方選挙や参議院選挙、衆議院選挙といった大きな選挙のとき。

「うちではガラス張りのクルマが10台、普通の選挙カーが約20台で、トータル30台ほど保有していますが、同時に200件ぐらい予約を受けることもあります。台数や制作期間の問題から、断るケースも……。衆議院の解散総選挙では準備期間が1カ月もないので、そのときは社員総出で寝る間も惜しんで、朝から晩まで整備や看板の取り付けなどをします」(若狭さん)

基本的には、予約は候補者が与党でも野党でも無所属でも関係なく“早い者勝ち”となりますが、同社が独自に設けているルールがあります。

「例えば知事選の場合は、ひとりの候補者の注文しかうけません。国政選挙などでも、同じ選挙区の複数の候補者に貸し出すことは控えています。『あの会社、どの候補者でも関係ないんだな』と思われてしまうからです。場合によっては、同じ選挙区の候補者双方で話し合いをしてもらっています」(榊原さん)

他にもイベントやTV番組の企画に同社の車両を貸し出すこともあるそうですが、あくまでも選挙カーとしての使用に重点を置いているそうで、「もっと政治に関心を持ってもらいですね。投票率が増えるように、普段投票しない人に振り向いてもらえる、そして選挙に興味を持ってもらえる車両をこれからも作っていきたいです」と榊原さん。選挙期間中には、このように選挙カーで選挙活動を支える人や会社があることを忘れずにいたいものです。

▼株式会社グリーンオート
住所:神奈川県足柄上郡大井町上大井262-4
電話:0465-83-3318
http://www.green-auto.jp/

(取材・文:写真:斎藤雅道、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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