繁華街で見かける「アドトラック(宣伝カー)」の裏側を聞いてみた

大都市の繁華街を歩いていると、必ずと行っていいほどアドトラック(宣伝カー)を目にします。中型・大型トラックのコンテナ部分を使ってイベントや新製品、アーティストの新曲、求人などのPRをするものですが、どのように運用されているのかは気になるところ。そこで、2007年からアドトラック事業を手がける株式会社情通レゾナンスの塚本さんに、業界の裏話を教えていただきました。

走行ルートはどうやって決められている?

企業がアドトラックを利用する理由はもちろんPRですが、アドトラックは屋外の大型看板やテレビCMなどよりも、費用を抑えられるメリットがあるのだそう。とはいえ、PR効果が低ければアドトラックを走らせる意味はありません。そこで大切なのは、走行するルートです。東京では新宿、渋谷、池袋でよく見かけますが、走行ルートはどのように決められているのでしょうか?

「弊社が設定する基本ルートをもとに、個別の希望に沿うようにアレンジしています。例えば、あるアーティストのキャンペーンの際は、基本ルートと併せて『所属事務所の近くを走ってほしい』といった要望がありました。その場合は、大型車が走行できるルートなのかを確認した上で、ルートの変更・プランニングを行っていきます」(塚本さん)

こちらは新宿を走る基本ルート。これを4時間ないしは1日かけて走行する
こちらは新宿を走る基本ルート。これを4時間ないしは1日かけて走行する

アドトラックの走行スケジュールを聞くと、だいたい11時~20時の間で1エリアないしは2エリアを走ることが多いそう。つまり、同じ場所で複数回、同じアドトラックに遭遇するのは、運行上当然のことなのです。

「今では全国のルートマップを持っていますが、この事業を始めた当初は、私も助手席に乗り込み、走りながら最良のルートを探しました。現在はGoogleストリートビューがあるので、気になる道があっても事前に確認できるので便利になりましたね」(塚本さん)

ルートを決める際のポイントは、各エリア目印になるスポットや主要な道を通ることと、かならず中型・大型車両が通過可能かの2点。見る側からすると、なんとなく大通りを走っているだけに見えますが、実はいろんな苦労と改良の積み重ねがあったのですね。

最短5日。アドトラックが走るまで

アドトラックは4tトラックに装飾をほどこし、走行させるのがスタンダード。情通レゾナンスでは、車体レンタル、装飾、走行ルートプランニング、実走行まで、アドトラック走行に必要なすべてをパッケージにしたプランと、自社でトラックを所有する企業のために走行ルートのプランニングと運転代行だけを行うプランの、2つのパターンでサービスを行っているそう。

「期間限定キャンペーンの場合は、車体のレンタルも含めたプランを選ばれるのが一般的。求人広告など通年のキャンペーンとなると、自社でトラックを所有した方がコストを抑えられるので、どちらのパターンが多いかは業種によりますね。ちなみに、弊社で手がけるアドトラックで多いのは、音楽などエンタメ系のPRです」(塚本さん)

レンタル車両を用いるプランでは、装飾(画像データ制作、印刷、貼り付け)も同社で請負いますが、なんと最短5日で準備を整えることができるそう。最近では、急ぎのニーズも高まっているため、アドトラックの発車が突然決まることも多いのだと言います。

音量規制を始めとした法令遵守と配慮

アドトラックは派手な外装も目を引きますが、注目度を高めるために音楽を流しているケースも多いもの。最近では、某大手求人サイトのテーマソングが耳に残ると話題ですが、音量規制をふくめ、アドトラックの法律はどう整備されているのでしょうか。

「まず走行させる場合は、道路使用許可申請書を取得します。音に関しては、各都道府県がさだめる環境確保条例の中の『拡声機の音量基準』にあわせて、運用をしています。ちなみにこの条例には選挙カーも該当します」(塚本さん)

参考)東京都環境局「環境確保条例の拡声機に係る基準」
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/noise/noise_vibration/rules/speaker.html

宣伝カーや選挙カーの音量制限は75db(デシベル)。しかし、この法律もいつ変わるかはわからないため、近隣への配慮は常に意識していると言います。

「音に関するクレームは多く、特に学校や病院からは多くのご意見が寄せられます。学校や病院があるエリアを通過する際には音を切るなど、配慮は欠かせません。クレームが増えれば、業界全体の法律規制が起きる可能性もあります。そのため過去には、『このエリアでは音量の配慮を』と、同業他社に呼びかけたこともありました」(塚本さん)

音やマナーの問題は、自社だけが対応しても業界全体で取り組まなくてはいけないこと。こうした事業の難しい部分だと言えそうですね。

複数言語でのアナウンスなど、広告以外の活用も模索

10年以上にわたってアドトラック事業に携わってきた塚本さんは、「この10年で、アドトラックが屋外広告のひとつとして認知されるようになりました」と話しますが、世界に目を向けると、さらに活用方法や見せ方は広がっています。

「ラスベガスなどでは、動画を流すアドトラックが走行しています。日本では残念ながら動画を映し出しての走行は法律で認められていませんが、静止画のスライドショーを映し出すのは可能です。また弊社では、広告としての活用だけでなく、イベントでのアナウンスといった活用方法もあると考えています。たとえば東京オリンピックの会場アナウンスに用いれば、複数言語でのアナウンスが音声と動画でできますよね。そういう有益な使い方がもっとできればいいなと考えています」(塚本さん)

仕組みを知れば身近に感じられるアドトラック。街で見かけた際には、注目してみるとおもしろいかもしれません。

(取材・文:おおしまりえ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

取材協力

株式会社LUX

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