走行中は常に6100rpm。常識を打ち破る「戦うCVT」という存在

クルマのAT(オートマチックトランスミッション)には、いくつもの種類があります。もっともトラディショナルな存在が、ギヤを内蔵したステップATです。ほかに欧州で採用の多い、MT(マニュアルトランスミッション)を基本に2組のクラッチを使うDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)などがあります。一方、日本のコンパクトカーに広く採用されているのがCVTという方式です。ベルトをわたした2つのプーリーの直径を変化させることで変速比を変えるCVTは、無段階で変速が行われます。そのため微妙な変速比をスムーズに作ることができ、低速から中速域では速度にあわせた最適な変速比を維持することで、燃費性能を高めることができるのです。また、変速を段階的に変化させて、ステップATに似せた変速も可能。万能選手的な性格もあって、CVTは日本メーカーに人気の高いトランスミッションとなっています。

「走りが良くない」というイメージを覆すために

燃費性能を高めるのに有利なため、どうしてもCVTには「燃費は良いけれど、元気よくキビキビ走ったりするのは苦手」というイメージが付きまといます。そんな風潮に、反論したいという動きがトヨタから現れました。

「CVTを開発している人間として、“CVTは走りが良くない”という風評を払拭したいと思いました」と言うのは、トヨタの東富士研究所で、パワートレインの開発を行う高原秀明さん。彼らのチームは「CVTの走りの魅力を示す!」という目標のもと、「スポーツCVT」を開発し、2017年から全日本ラリー選手権(以下:全日本ラリー)に参戦したのです。

ラリーは市販車をベースに公道で行われる競技。全日本ラリーは、腕利きが揃う日本におけるトップ・シリーズです。そんな厳しいステージの中、参戦初年度となる2017年シーズンにJN3クラスでシリーズ・ランキング2位を獲得。早速、その実力の高さを証明します。さらに2018年シーズンも同じくJN3クラスでシリーズ2位。2019年シーズンは新設されたJN6クラスで、現在まで開幕から4連勝という快進撃を見せます。全日本ラリーという本気の競技で、速さだけでなく強さも証明したのです。

スポーツCVTの開発を担当する、トヨタ自動車パワートレインカンパニーの高原秀明氏
スポーツCVTの開発を担当する、トヨタ自動車パワートレインカンパニーの高原秀明氏

常に最高の出力をキープし続ける

全日本ラリーで大活躍するスポーツCVT。それが、どんな走りをするのかを確かめるチャンスを得ました。WELLPINE MOTORSPORTから、板倉麻美選手と梅本まどか選手が駆る2019年JAF全日本ラリー選手権JN6クラス参戦車両「DL WPMS Vitz CVT」のメディア向けの試乗会です。試乗会は、5月のゴールデンウィーク明けに茂原ツインサーキットで開催されましたが、その直前の全日本ラリー選手権で板倉×梅本選手のコンビは、見事クラス2位を獲得しています。

全日本ラリーに参戦する車両ですから、外は派手なカラーリング、室内はロールバーが張り巡らされた物々しいいで立ち。とはいえ、エンジンそのものはノーマル、普通の1.5リッターエンジンで最高出力は109馬力ですから、怪物マシンというわけではありません。

WELLPINE MOTORSPORTから2019年JAF全日本ラリー選手権JN6クラスに参戦する板倉麻美選手(左)と梅本まどか選手(右)
WELLPINE MOTORSPORTから2019年JAF全日本ラリー選手権JN6クラスに参戦する板倉麻美選手(左)と梅本まどか選手(右)

コースインの前に、スポーツ・モードのスイッチをON。そしてアクセルを深く踏み込めば、エンジン回転数が一気に高まります。「あれ?」と、気が付けばタコメーターの針は最高出力を発揮する6100rpmにぴたり。なんと、アクセルの踏み方に関係なく、常にエンジンの最高出力が出る回転数を維持するのが、スポーツCVTの秘密だったのです。

エンジン回転数が一定ですから、加速中も減速中も、コーナリング中もエンジンの音は一定。初めての経験です。それなのに、アクセルを踏み込めば普通に加速しますし、アクセルを放せば減速もします。つまり、アクセルの操作にあわせて、CVTが無段階に変速しているのです。アクセル操作で変わるのは、エンジン回転数ではなく速度だったのです。

アクセルの操作とは関係なく、常にエンジンの最高出力を発揮する6100回転を維持する
アクセルの操作とは関係なく、常にエンジンの最高出力を発揮する6100回転を維持する

また、パワーの出方も特徴的です。常に全力。ちょっとアクセルを軽く踏んでも、深く踏んだ時と同じように、最高出力で加速します。逆に、アクセルを戻せば、最大のエンジン・ブレーキ。加速も減速も全力だったのです。街中を流すときは、ギクシャクしそうな特性ですが、スポーツ走行では、こうした特性は大歓迎。だからこそ、スポーツCVTを搭載した車両が、いきなり全日本ラリーで大活躍できたのでしょう。

ちなみに、CVTの本体そのものは、普通のヴィッツのモノとほとんど同じ。制御だけが大きく違うとか。ハードウェアはそのままで、ソフトウェアだけで、スポーツCVTの走りを実現しています。つまり、市販車にフィードバックさせることも可能というのがポイントです。全日本ラリーという厳しいフィールドでは、速さだけでなく信頼性も求められます。そこで鍛えられた製品であれば、市販化も夢ではないということ。

もしもスポーツCVTが市販化されれば、将来は「CVT=速いトランスミッション」という認識も生まれるかもしれませんね。

(文:鈴木ケンイチ 写真:高橋学 編集:木谷宗義+ノオト)

<関連リンク>
WELLPINE MOTORSPORT(高崎くす子@WPMS&CJRT公式)
https://twitter.com/WPMS_CJRT

[ガズー編集部]

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