起きてしまった事故の状況を明らかに。交通事故の名探偵「CDRアナリスト」とは?
交通事故後の検証は「頭の痛い課題」
クルマに乗る人にとって、最大のリスクは交通事故です。どんなに注意深く運転していても、交通事故の確率をゼロにすることはできません。つまりドライバーであれば、誰もが関係する重要な問題が交通事故です。
そして、交通事故で頭の痛い問題は、事故の瞬間だけでなく、終わった後にも存在します。それが「事故の検証」です。交通事故が、どのように発生して、どんな結果になったのか。検証がなければ、刑事問題も保険問題もクリアになりません。
ところが、終わってしまった交通事故を、つまびらかにすることは意外に難しいもの。事故の当事者は、断片的で主観的な状況しか知りようがありませんし、勘違いすることやウソをつく可能性もあります。
そうした状況で大きな武器となるのがイベント・データ・レコーダー(EDR)です。
これは、飛行機で有名な「フライト・データ・レコーダー(通称・ブラックボックス)」の自動車版と言えるもの。エアバッグのコンピューター内に備えられた機能で、交通事故の衝撃を検知したら、その事故の5秒前から事故後2秒まで最長7秒の間のクルマの状況を記録します。
記録するのは、速度をはじめエンジンの回転数、アクセルやブレーキ操作など多岐にわたり、最新モデルでは、50項目を0.08秒ごとに記録するクルマも存在しています。こうした機能の導入は2000年ごろにスタートしており、現在では、大多数の自動車メーカーが採用。2017年の時点で、アメリカで販売される台数の99.3%のメーカーがイベント・データ・レコーダー(EDR)を搭載するほどになっています。
イベント・データ・レコーダー(EDR)解析に必要なモノ
交通事故の内容をつまびらかにするために役立つイベント・データ・レコーダー(EDR)ですが、その解析は、残念ながら一筋縄ではいきません。
まず、エアバッグのコンピューターという車体内部にある部品から情報を吸い上げる必要があります。また、規格が定められているとはいえ、自動車メーカーごと、または車種ごとに異なったコンピューターが使われています。つまりバラバラなのです。
そこで生まれたのが、複数のメーカーや部品サプライヤーの製品に対応する汎用のデータ収取機器。それがボッシュの「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」です。
- 奥にある緑の筐体がクラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)
世界的な部品サプライヤーの大手であるボッシュの製品ということもあり、業界の標準ツールとなっています。この製品であれば、世の中に出回るクルマの多くを、ひとつの機器でカバーすることが可能となるので、公平で、透明性のある事故調査を行うことができます。
複数台の事故で、全車のデータがなくても分析が可能
交通事故のときのデータが手に入れば、それですべて事故の内容が詳細にわかるわけではありません。そこに求められるのは、クルマの仕組みの理解、交通事故調査の知識、物理学の知識です。
加えて、クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)で取り出すイベント・データ・レコーダー(EDR)の情報は英語であり、それを読解する英語力も求められます。しかも、交通事故の検証の結果は、事故の責任や保険の支払い内容にも関わりますので、素人判断では困ります。
そこでボッシュは、事故を検証するプロを育成するトレーニングと認定制度を用意。トレーニングを経て、認定された検証のプロは「CDRアナリスト」と呼ばれています。現在、日本には90名ほどのCDRアナリストが存在しており、年間150万件といわれる交通事故の検証に日本中を駆け巡っているとか。
CDRアナリストが解き明かす謎の内容とは!?
CDRアナリストの手にかかると、交通事故の何がわかるのでしょうか?
そこでヒントになるのが、CDRアナリストのトレーニング用の演習問題です。ある演習では次のような状況での分析が求められていました。
3台の玉突き事故が題材になっていました。ところが3台のうちデータを呼び出せたのは、真ん中の1台だけです。
このような難しい前提で、「どのような順番でぶつかったのか」「それぞれ、どれくらいのスピードで前車にぶつかったのか」「それぞれのドライバーは事故の前にどのような運転を行っていたのか」といった問題を解きます。これは、実際の複数台の事故でも、1台から事故の分析を行えることが求められているのです。
また、コーナーでスピンして何度かぶつかったという単独事故において、「このクルマが受けた衝撃度は、どれくらいなのか」「衝突前にどれくらい回転したのか」などの詳細な内容も、演習問題として出されていました。
まったく見ていない交通事故を、目の前で見たように詳細に説明する。それがCDRアナリストの力なのです。
ボッシュによるCDRアナリストの制度は2017年に導入されたばかり。まだ、導入されたばかりで知名度の低い職業ですが、今後は、どんどんと増えていくことは間違いありません。交通事故に遭って困ったらCDRアナリストに事故の検証を依頼する。それが当たり前になる時代は、もうすぐやってくるのです。
(文:鈴木ケンイチ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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