アクアラインの超レア・スポット「風の塔」に行ってみた

神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ、東京湾アクアライン。その地下トンネルを利用したことのある人であれば、「川崎人工島 風の塔」(水面下57m)という看板を目にしたことがあるでしょう。パーキングエリアである「海ほたる」からも、白く小さな島が見えます。大きな航空写真を見れば、川崎の陸地と「海ほたる」の間に、ポツンと浮かぶ白い島が確認できます。

手前が千葉で、奥が神奈川。海の中にポツンと白くあるのが「風の塔」(提供:NEXCO東日本)
手前が千葉で、奥が神奈川。海の中にポツンと白くあるのが「風の塔」(提供:NEXCO東日本)
「海ほたる」から川崎側を眺めると海の中に白い三角の「風の塔」が見えます
「海ほたる」から川崎側を眺めると海の中に白い三角の「風の塔」が見えます

その地は、関係者以外立ち入り禁止。海で船釣りを楽しむ人が、近寄って見ることができるだけ、そんな近くて遠いところでした。ところが、機会に恵まれ、めったにできない風の塔の取材をさせていただけることになりました。とはいえ、今年は残念なことに台風の当たり年。何度かの雨天順延を経て、秋晴れの11月上旬にようやくの取材の日がやってきました。

待ち合わせの「海ほたる」に行くと、NEXCO東日本の広報担当者さんたちは「クルマを用意していますよ」と。“あれ? 島なんだから船じゃないの”と思い込んでいましたが、高速道路の海底トンネルの下の緊急避難路を使って島まで行くとか。そういえば高速道路の上にあるんだから、つながっていて当然ですね。思い込みはいけません。

地下トンネルの高速道路の下にある緊急避難路をクルマで「風の塔」へ向かいます
地下トンネルの高速道路の下にある緊急避難路をクルマで「風の塔」へ向かいます

クルマに乗り込んで向かうは、海底トンネルの入り口です。これは海底トンネルを見学できる「アクアライン探検隊」と同じコース。トンネルの入り口は2重。避難路に煙が入ってこないように、中は気圧が少し高めに保たれています。強い風を感じながらトンネルの中に入り、さらに、まっすぐ奥まで伸びる避難路に。途中、「アクアライン探検隊」と同じように、トンネル構造や設備の説明を聞きます。直径14mのトンネルの上3分2ほどが高速道路になっており、その下が避難通路などに利用されています。

緊急避難路は一定区間ごとに、道路から地下の避難路へ逃げるためのスロープなどが備えられています
緊急避難路は一定区間ごとに、道路から地下の避難路へ逃げるためのスロープなどが備えられています

そして今回は、そこからさらにクルマで進み「風の塔」へ。全長15.1㎞の東京湾アクアラインのうち、海底トンネル部は9.5㎞。その真ん中あたり(海ほたるから、約4.8㎞)に島があります。真っ暗なトンネルの中をゆっくりと走ること10分ほどで到着。そこからクルマを降りてエレベーターに乗り込み、地上階へ。「風の塔」の地下部分は、直径100mもある円柱型の構造物で、高さも114mもあります。緊急避難路から乗り込んだエレベーターの階数表示はB6。なんと地下6階もの大きさだったのです。

「風の塔」の地上にある2つの塔。地下トンネルの換気のために吸気と排気を行います
「風の塔」の地上にある2つの塔。地下トンネルの換気のために吸気と排気を行います

真っ暗な地下から地上へ。“眩しい”と、その明暗の差に目を細めながら出た場所は、「風の塔」の地上部でした。最初の感想は「広い!」ということ。地下部分の直径は100mですが、地上部は、周りの船が衝突したときのために、さらに100mの保護エリアがあるため、あわせて直径200mの島になっていたのです。

そして、そこにそびえる2つの塔。三角? と思って、よく見れば、円柱を斜めにカットしたような形。大きい方が高さ90mで、小さい方でも75mもあります。なぜだが斜めになっていてアート作品のよう。以前、大阪で見た「太陽の塔」(大阪万博のために作られた巨大なオブジェ)を思い起こさせます。“なんだかわからないけれど、ビックリする。心をうつ”という感じが同じです。

「風の塔」の透視図。一番下に地下トンネルがあり、その上に換気用の設備が備えられています(提供:NEXCO東日本)
「風の塔」の透視図。一番下に地下トンネルがあり、その上に換気用の設備が備えられています(提供:NEXCO東日本)

2つの塔は、かなり近よって見えますが、実のところ10mほども離れています。塔が巨大なために、遠近感がおかしくなっているんですね。グルリと回ってみると、空気を取り入れるダクトが見えます。この2つの塔は地下トンネルの換気のための煙突の役割をしていたというわけです。背の高い方が吸気、低い方が排気。ビル風のように塔の間を流れる早い風に排気を引き出すよう、排気用のダクトは塔の間を向いた場所に設置されていました。塔の中は吸排気の設備があるだけのガランドウです。

塔があまりに大きいため、二つの塔の間を歩く人は、まるで豆粒のように見えます
塔があまりに大きいため、二つの塔の間を歩く人は、まるで豆粒のように見えます
塔の側面には吸気と排気のダクトが設置されています。排気が塔の間。吸気は海側を向いていました
塔の側面には吸気と排気のダクトが設置されています。排気が塔の間。吸気は海側を向いていました
塔の内部は、吸排気の設備と管理・検査用の階段と廊下があり、大きさに圧倒されました
塔の内部は、吸排気の設備と管理・検査用の階段と廊下があり、大きさに圧倒されました
背の低い塔の川崎側の壁面タイルは電波を吸収する素材が使われます。すぐ目の前にある羽田空港のレーダーに迷惑をかけないための工夫とか
背の低い塔の川崎側の壁面タイルは電波を吸収する素材が使われます。すぐ目の前にある羽田空港のレーダーに迷惑をかけないための工夫とか

吸気・排気を担当する「風の塔」ですが、必要に応じて稼働するため、私たちが訪れていた時間は停止中。耳にするのは、風と波の音。そして、すぐ目の前にある羽田空港から発着するジェット機の爆音です。また、周りは数多くの船が行き来しています。意外に東京湾は往来の多い海のようです。

たくさんの船や飛行機、クルマが、海に空に、そして地下トンネルを往来する東京湾。その真ん中にひっそりと佇む「風の塔」。同行したNEXCO東日本社員にとっても、ここは「ほとんど来ることはありませんね。私が来たのも20年ぶりかなあ」とレアな場所だったようです。

「風の塔」のすぐ横を航行する船舶。大小さまざまな船がひっきりなしに航行しています
「風の塔」のすぐ横を航行する船舶。大小さまざまな船がひっきりなしに航行しています
神奈川と千葉を結ぶ「東京湾アクアライン」の全体の説明図
神奈川と千葉を結ぶ「東京湾アクアライン」の全体の説明図
「東京湾アクアライン」のトンネル内部の設備などを説明する案内図
「東京湾アクアライン」のトンネル内部の設備などを説明する案内図

(取材・文:鈴木ケンイチ 写真:鈴木ケンイチ・NEXCO東日本 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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