単三電池40本で走る「Ene-1GP」前編:まずはレギュレーションをチェック!

ホンダが主催する2つのエネルギーマネジメント競技、「Honda エコ マイレッジ チャレンジ」と「Ene1-GP」。どちらも学生から社会人までさまざまなチームが参加でき、自分たちの持てる知識と技術を注ぎ込んだ自作マシンで、各々の掲げる目標をクリアすべく力を尽くします。

将来、クルマの開発エンジニアを目指す中学生や高校生にとって、甲子園のような位置付けとなる両競技。今回は、ツインリンクもてぎで開催された「Ene-1GP MOTEGI」を取材してきました。

「Ene-1GP」とは、どんな競技?

以前に紹介したHonda エコ マイレッジ チャレンジは、各チームがガソリンエンジンを動力とした自作マシンを持ち込み、1リットルのガソリンで何km走ることができるかを競うものでした。

Ene-1GPも自作マシンで行われますが、動力にモーターを使用。支給された40本の単三電池を動力源とし、タイムアタック(ONE LAPタイムアタック)とロングディスタンス(e-kiden 1時間ロングディスタンス/e-kiden 90分ロングディスタンス)の総合結果で競います。

トップチームの競技車両は50km/hを越える速度で走行する。ドライバーの目線は数十センチの高さしかないため、体感速度は極めて高い
トップチームの競技車両は50km/hを越える速度で走行する。ドライバーの目線は数十センチの高さしかないため、体感速度は極めて高い

電池消費の大きい速さを重視したマシンではロングディスタンスを走りきれず、速さを犠牲にして電池消費を抑えたマシンではタイムアタックで上位が望めない。タイムアタックとロングディスタンス、両レースは同一の電池を使用して行われ、最後まで走りきるのが完走の条件。電池消費と速さ、両方を踏まえて効率の良いマシンを作ったチームだけが上位入賞を狙える、難しくも挑みがいのある内容です。

Ene-1GPは、ツインリンクもてぎと鈴鹿サーキットで開催され、それぞれのコース特性から異なるレギュレーションが導入されています。

「Ene-1GP MOTEGI」のレギュレーションと特徴

敷地内に複数のコースを所有するツインリンクもてぎ。Ene-1GP MOTEGIで使用されるのは、日本で唯一のオーバルコース「スーパースピードウェイ」です(厳密には最内側7メートルのウォームアップレーンを使用)。1周が1.5マイル(2.4km)の楕円のコースで、本来はアメリカンモータースポーツ向けに作られたコースです。

今大会には「KV-40」に65チーム、「KV-BIKE」に29チームの、計94チームがエントリー
今大会には「KV-40」に65チーム、「KV-BIKE」に29チームの、計94チームがエントリー

Ene-1GPは、2012年のEne-1GP MOTEGIから始まりました。スーパースピードウェイはドライバーへの負荷が少なく、走行マネジメントや車両づくりに集中できることから、初挑戦にうってつけの大会とされています。

チームは、監督に相当するチームマネージャーが1名、3輪以上の車両で競われる「KV-40」ドライバーが1~3名、2輪の「KV-BIKE」ライダーが1~2名、メカニックが1~3名と、最低3人、最大6~7人で構成されます。ドライバーとライダーが複数人登録できるのは、ロングディスタンスで交代が認められているためです。

競技車両は各チーム全員が、知恵を絞って製作する自作マシン

Ene-1GPに出走する競技車両に、市販される車両はありません。別チームから譲り受けるといったケースをのぞけば、各チームのお手製となります。Ene-1GPにはKV-40とKV-BIKEという2つのカテゴリーがあり、それぞれ異なる車両を使用します。

●自作幅が広い「KV-40」

上位を争うチームのマシンはとてもコンパクトで、よくドライバーが入れるものだと感心させられる
上位を争うチームのマシンはとてもコンパクトで、よくドライバーが入れるものだと感心させられる

走行時、停止時に関わらず、3輪以上で自立できる構造を原則するのが、KV-40です。コースのコンディションにもよりますが、トップチームの平均速度は50km/h以上。上位入賞を目指すのならば、風の抵抗や転がり抵抗の低減も考えて製作しなくてはなりません。

大別して車両重量に制限のない「KV-1クラス」と、35キロ以上の「KV-2クラス」、2つのクラスに分けられ、それぞれに一般部門、大学、高専、専門学校部門、高等学校部門、中学校部門と、4つの部門が設けられています。

35キロに満たない競技車両を製作するには、相応の知識や技量、費用を必要とします。同じ部門であってもKV-1クラスにエントリーしているチームは、より上級者の集まったチームとなります。また、搭乗するドライバーには55キロ以上という最低体重が定められています。

●市販自転車を電動化「KV-BIKE」

「KV-BIKE」は、ホンダの出発点である「A型自転車用補助エンジン」を彷彿させるカテゴリーだ
「KV-BIKE」は、ホンダの出発点である「A型自転車用補助エンジン」を彷彿させるカテゴリーだ

ベース車両に市販自転車を使用できるKV-BIKEは、KV-40の競技車両と比べて低コストで製作することができるため、参加のしやすいカテゴリーとされています。

競技中は普段、自転車に乗っている時より高い速度で走行します。カウルの装着は禁止されており、ライダーには操縦技術のほか、風の抵抗を減らすべく身をかがめる技術も求められ、肉体的な負担は大きいものとなります。

競技車両は20インチ以上のホイールサイズと、15キロ以上という最低重量が定められています。

大別してライダーの体重が55キロ以上の「クラスⅠ」と、50キロ以上の「クラスⅡ」に分けられ、こちらも一般部門、大学、高専、専門学校部門、高等学校部門、中学校部門と、4つの部門があります。

KV-40、KV-BIKEともに、動力用のモーターには規定がなく、自由に選択が可能。ドライバーやライダーの位置はもちろんですが、モーターや40本の電池の搭載場所も、走行や電池の消費、操縦者の負担や安全に影響を与えるため、しっかりと考える必要があります。

今年の「Ene-1GP MOTEGI」は、寒くて小雨の降る難しいコンディション

今年で8回目の開催(KV-BIKEは5回目)となるEne-1GP MOTEGI。大会当日の天候は小雨で、気温も上がりません。バッテリーや計器、回路類に浸入する雨水は漏電トラブルの元となるため、各チームは出走時間ギリギリまで雨対策に追われます。

負担が大きくなるのはマシンだけではありません。KV-BIKEに出走するライダーは体温を奪われ、またKV-40の風防を曇らせて視界を悪化させます。転がり抵抗の低減を追及したマシンはタイヤのグリップ力が少ないため、コーナーの走行も難しくなります。

特にバッテリー周辺の雨対策は、返却されてから出走までのわずかな時間に施さねばならない
特にバッテリー周辺の雨対策は、返却されてから出走までのわずかな時間に施さねばならない

受付終了後、公式車検が行われます。車検場ではオフィシャルにより、競技車両が規則に適合しているかを厳密に確認されます。不適合と判定されても、公式車検時間内に再検査を受けて適合と認められれば出走可能です。公式車検時にはドライバーやライダーの体重測定も行われます。

競技車両の重量測定は、バッテリー(単三電池40本)を搭載した状態で行う
競技車両の重量測定は、バッテリー(単三電池40本)を搭載した状態で行う
ドライバーが搭乗した状態で、ブレーキがちゃんと機能するかを確認。他にも規則通りに前方視界や後方視界が確保されているかも確認される
ドライバーが搭乗した状態で、ブレーキがちゃんと機能するかを確認。他にも規則通りに前方視界や後方視界が確保されているかも確認される

無事に車検を通過したら、マシンと一緒に重量測定を行ったバッテリーを取り外し、管理所へ預けます。公平を期すためバッテリーの管理は特に厳しく行われ、原則として管理所横のピット内でしか取り付けは許されていません。また、外したバッテリーの持ち歩きも禁止されています。

指定された電池は充電式だが、車検後の充電は認められておらず、車検やタイムアタック競技が終了したら、すみやかに預けなくてはならない
指定された電池は充電式だが、車検後の充電は認められておらず、車検やタイムアタック競技が終了したら、すみやかに預けなくてはならない
預けられたバッテリーは、競技者が触れることができないよう隔離して保管される
預けられたバッテリーは、競技者が触れることができないよう隔離して保管される
単三電池40本を、どういう形で競技車両に搭載するか。各チームの考え方が束ね方にもあらわれる
単三電池40本を、どういう形で競技車両に搭載するか。各チームの考え方が束ね方にもあらわれる

車検後に安全講習会とブリーフィングが催され、各チームのチームマネージャーとドライバー&ライダーは参加が義務付けられています。この後、ロードコースのホームストレート上にて開会式が行われる予定でしたが、雨天のため各ピットでの視聴形式に変更となりました。

時刻は10時を過ぎ、いよいよ最初の競技「ONE LAPタイムアタック」が開始されます。レースの様子は、「後編」でご紹介します。

(取材・文・写真:糸井賢一 編集:木谷宗義+ノオト)

<関連リンク>
Ene-1GP MOTEGI 公式サイト
https://www.twinring.jp/ene-1/

[ガズー編集部]

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