単三電池40本で走る「Ene-1GP」後編:雨が降る中で展開されたレース、そして結果は?

小雨の降りしきる、寒い日の開催となった2019年度「Ene-1GP MOTEGI」。競技は「KV-BIKE」の「ONE LAPタイムアタック」から開始されます。

バッテリーの消費を抑えつつ、早いタイムを目指す「ONE LAPタイムアタック」

バッテリー(単三電池40本)のマネジメントが根幹となる「Ene-1GP」では、充電や交換といった不正行為を防ぐため、競技時以外はバッテリーを管理所に預けなければなりません。競技開始前、アナウンスが流れたら管理所の設置されるピットへとマシンを持ち込み、その場でバッテリーを装着します。

バッテリー本体やコネクターに浸水しないよう、処置を施すメカニックたち。返却から競技開始までの時間は短い
バッテリー本体やコネクターに浸水しないよう、処置を施すメカニックたち。返却から競技開始までの時間は短い

ONE LAPタイムアタックは文字通り、スーパースピードウェイ1周のタイムを競うもので、クラス別に1位を取ったチームには20ポイント、以下20位まで順位に応じて19~1ポイントが与えられます。また、後に行われる「e-kiden 1時間ロングディスタンス」の予選も兼ねており、スターティンググリッドはタイムアタックの順位により決まります。

「KV-BIKE」の競技車両は自転車を使用しているが、モーター以外を動力とすることは禁じられている。大半のチームは外したペダルの代わりに、ステップ(足置き)を設置する
「KV-BIKE」の競技車両は自転車を使用しているが、モーター以外を動力とすることは禁じられている。大半のチームは外したペダルの代わりに、ステップ(足置き)を設置する

スタート形式は1台ずつグリッドにつき、数十秒おきにスタートフラッグが振られるといったもの。しかし、中には競技車両が前に進まないチームもあります。脚の力で蹴り出さずに自転車を漕ごうとするとペダルが重いのと同じで、停止状態からの発進には大きなトルクが必要です。スタートできないのはモーターのトルクが不足しているためで、もちろん動けない間も電池は消費します。ライダー、そしてメカニックは少しずつでもマシンが進み、加速することを願います。

順調に走行できれば10分もかからずにスーパースピードウェイを1周し、フィニッシュラインへ戻ることができます。タイムアタックには制限時間があり、15分以上かかってしまったチームはロングディスタンスに進むことができません。

●「KV-BIKE」
クラス別「ONE-LAPタイムアタック」上位3チーム

【クラスⅠ】

順位 チーム名 タイム ポイント
1 ミツバイク 5.14.920 20
2 飯田OIDE長姫高校 原動機部OB 5.32.544 19
3 近大高専流体研B 5.41.072 18

【クラスⅡ】

順位 チーム名 タイム ポイント
1 長野県佐久平総合技術高等学校 5.39.473 20
2 飯田OIDE長姫高校 原動機部 5.49.592 19
3 宇都宮工業高校 科学技術研究部B 7.02.840 18

多発したコースミス。悔やんでも取り返せないレースの洗礼

漏電を防ぐため、自分たちは濡れてもマシンは可能な限り濡らさない
漏電を防ぐため、自分たちは濡れてもマシンは可能な限り濡らさない

KV-BIKEがタイムアタックを行っている最中に、「KV-40」に出走する各チームはバッテリーを受け取り、出走の準備を進めます。基本的なルールはKV-BIKEと一緒で、クラス別に20位までの入賞者には20~1ポイントが与えられ、e-kiden 90分ロングディスタンスのスターティンググリッドも決まります。

「Ene-1GP MOTEGI」の雨天開催は、まだ2度目。多くのチームにとって、はじめてのウェットコンディションになる
「Ene-1GP MOTEGI」の雨天開催は、まだ2度目。多くのチームにとって、はじめてのウェットコンディションになる

スタートから一周を経て、フィニッシュラインを踏むことでゴール扱いとなり、タイムが記録されます。タイムアタックには制限時間があり、15分以上かかってしまったチームはロングディスタンスに進むことができません。

今大会ではKV-BIKEも含め、最終コーナーでインコースについたまま直進し、ピットロードに入ってしまうチームが多かったようです。こうなるとせっかくのタイムも計測されず、次のロングディスタンスに出走する資格を得られません(実際には出走可能ですが、大きなペナルティを受けるため自力で上位に入ることは、ほぼ不可能になります)。自身のミスでチーム全員の努力を水の泡にしてしまったドライバーとライダーの悔恨は、計り知れません。しかし、ミスを犯した経験は、のちの血肉となることでしょう。

●「KV-40」
クラス別「ONE-LAPタイムアタック」上位3チーム

【KV-1クラス】

順位 チーム名 タイム ポイント
1 Team ENDLESS 2.53.585 20
2 広島工業大学 Team HIT-EV 3.05.753 19
3 ZDP 3.08394 18

【KV-2クラス】

順位 チーム名 タイム ポイント
1 飯田OIDE長姫高校 原動機部C 3.49.993 20
2 nn-tech エコランチーム 4.07588 19
3 長野県佐久平総合技術高等学校 7.02.840 18
「ONE LAPタイムアタック」終了後、宇都宮工業高校の科学技術研究部員が製作した「フォーミュラEV」のデモンストレーション走行が行われた。実際にフォーミュラ3で使用された車両をベースとしている
「ONE LAPタイムアタック」終了後、宇都宮工業高校の科学技術研究部員が製作した「フォーミュラEV」のデモンストレーション走行が行われた。実際にフォーミュラ3で使用された車両をベースとしている
モーターを搭載するためのアルミフレームは、自分たちで設計した自作品。単三電池を1000本使用し、速度こそゆっくりとしたものだがスーパースピードウェイを走りきった
モーターを搭載するためのアルミフレームは、自分たちで設計した自作品。単三電池を1000本使用し、速度こそゆっくりとしたものだがスーパースピードウェイを走りきった

本降りの雨の中、1時間の耐久レース

KV-BIKEとKV-40、両方のタイムアタックが終了したら、ロングディスタンスが始まります。バッテリーはタイムアタック終了時のまま使用するため、タイムアタックで消費した分を考慮し、ペース分配等のマネジメントを行います。

スターティンググリッドにつくライダーたち。まだ正午なのに、日が暮れたかのようにコースが暗くなる
スターティンググリッドにつくライダーたち。まだ正午なのに、日が暮れたかのようにコースが暗くなる

すっかり本降りとなった雨足の中、各チームのライダーたちはスターティンググリッドにつきます。e-kiden 1時間ロングディスタンスで獲得できるポイントは、ONE LAPタイムアタックよりも高く、1位30ポイント、2位25ポイント、3位20ポイント、以下20位まで18~1ポイントと設定されています。タイムアタックで奮わなかったチームも、上位を狙える可能性が残っています。

タイムアタックでタイムオーバーしたチーム、フィニッシュラインを踏めず未計測となったチーム、トラブルにより出走できなかったチームは、本来、ロングディスタンスに出走することはできないのですが、嘆願書を提出することで出走許可をもらうことができます。しかし、ロングディスタンスで得られるポイントにマイナス10ポイントのペナルティが課せられるため、自力による上位入賞は困難となります。

それぞれのライダーはライディングポジションを工夫し、風の抵抗の低減を試みる
それぞれのライダーはライディングポジションを工夫し、風の抵抗の低減を試みる

スタート後、順調にラップを重ねるチームがある一方、トラブルに見舞われて走行を断念するチームもあります。リタイヤのつもりでピットへと戻ってきたライダーに、大会スタッフは可能ならば修理し、再度、コースに戻るよう促します。

ライダーやドライバーに完走をしてもらいたいのは、大会スタッフも一緒
ライダーやドライバーに完走をしてもらいたいのは、大会スタッフも一緒

そしてスタートから60分が経過し、フィニッシュラインにてチェッカーフラッグが振られました。周回数が最も多いチームが優勝となり、以下、周回数の多いチームから順位が与えられます(同一周回数の場合、先にゴールしたチームが上位となります)。

ライダーもメカニックも、結果を見るまで自分たちの順位は分からない
ライダーもメカニックも、結果を見るまで自分たちの順位は分からない
「KV-BIKE」ロングディスタンス総合1位を獲得したチーム「ミツバイク」。ゼッケン1は前年度、優勝チームの証
「KV-BIKE」ロングディスタンス総合1位を獲得したチーム「ミツバイク」。ゼッケン1は前年度、優勝チームの証
チェッカーを受けて肩の荷が下りたライダーから、安堵のため息が聞こえそう
チェッカーを受けて肩の荷が下りたライダーから、安堵のため息が聞こえそう

e-kiden 1時間ロングディスタンスに出走したマシンは、クラスⅠ、Ⅱを合わせて25台。うち16台がフィニッシュラインを通過し、完走扱いとなりました。

●「KV-BIKE」
クラス別「e-kiden 1時間ロングディスタンス」上位3チーム

【クラスⅠ】

順位 チーム名 周回数 ポイント
1 ミツバイク 11 30
2 近大高専流体研B 9 25
3 飯田OIDE長姫高校 原動機部OB 9 20

【クラスⅡ】

順位 チーム名 周回数 ポイント
1 飯田OIDE長姫高校 原動機部 9 30
2 平工業高等学校B 8 25
3 Teamペンタン 6 20

傳刀マシンには過酷な環境。サバイバルレースを生き残れ

KV-BIKEによるロングディスタンス終了後、入れ替わるようにKV-40の出走マシンがコースに入り、指定されたスターティンググリッドにつきます。

多くのチームが水滴や曇りによる視界の不良を避けるため、マシンのカウルを切断していた。せっかくの空力を損なうが、安全には替えられない
多くのチームが水滴や曇りによる視界の不良を避けるため、マシンのカウルを切断していた。せっかくの空力を損なうが、安全には替えられない
スターティンググリッドは最終コーナーの出口にまでおよぶ。勝敗は順位ではなく周回数で決まるため、最後尾でも上位に入れる可能性は十分にある
スターティンググリッドは最終コーナーの出口にまでおよぶ。勝敗は順位ではなく周回数で決まるため、最後尾でも上位に入れる可能性は十分にある

KV-40のロングディスタンスは走行時間が90分間と、KV-BIKEのロングディスタンスより30分、長くなっています。多くのレギュレーションはKV-BIKEと同じで、獲得ポイントはタイムアタックより高く、ロングディスタンスに出走できないチームも嘆願書を提出することで出走の許可をもらえます。その際に課せられるペナルティも一緒です。

全マシンが一斉にスタート。色とりどり、個性豊かなマシンが揃うのもKV-40特徴
全マシンが一斉にスタート。色とりどり、個性豊かなマシンが揃うのもKV-40特徴
フルカウルのマシンだけでなく、フレームだけのマシンや三輪車型のマシンも出走する
フルカウルのマシンだけでなく、フレームだけのマシンや三輪車型のマシンも出走する

時間と共に強まる雨足、そして低くなる気温はマシンに大きな負担を与えます。一台、また一台とコースサイドで停止、あるいは息も絶え絶えにピットロードへと戻り、最終的には半数近くのマシンがフィニッシュラインを踏めない、過酷なサバイバルレースとなりました。

コースサイドで動けなくなったマシンはオフィシャルカーにより救出され、ピットへと戻される。即リタイヤというわけではなく、修理後の競技復帰も認められている
コースサイドで動けなくなったマシンはオフィシャルカーにより救出され、ピットへと戻される。即リタイヤというわけではなく、修理後の競技復帰も認められている
ドライバーの判断でピットロードへと戻ったマシン。コース復帰を目指し、懸命な修理が行われる
ドライバーの判断でピットロードへと戻ったマシン。コース復帰を目指し、懸命な修理が行われる
チーム全員が役割を受け持つドライバー交代。新たなドライバーは「行ってらっしゃい」の声を背に受けながらコースへと向かう
チーム全員が役割を受け持つドライバー交代。新たなドライバーは「行ってらっしゃい」の声を背に受けながらコースへと向かう

吐く息が白くなるころ、フィニッシュラインにてチェッカーフラッグが振られます。順調に90分を走りきったマシン、度重なるトラブルを乗り越えたマシンに向けて、多くメカニックや大会スタッフから拍手が送られます。

「KV-40」ロングディスタンス総合1位を獲得した、チームBIZON(12号車)
「KV-40」ロングディスタンス総合1位を獲得した、チームBIZON(12号車)
バッテリーが切れる寸前なのか、徒歩より遅い速度でチェッカーを受けるマシンも。フラッグを持つ大会スタッフから「頑張れー」との声が聞こえた
バッテリーが切れる寸前なのか、徒歩より遅い速度でチェッカーを受けるマシンも。フラッグを持つ大会スタッフから「頑張れー」との声が聞こえた
単三電池が40本あれば90分間走れることを、チェッカーを迎えたマシンたちが教えてくれる
単三電池が40本あれば90分間走れることを、チェッカーを迎えたマシンたちが教えてくれる

e-kiden 90分ロングディスタンスに出走したマシンはKV-1クラス、KV-2クラスあわせて52台。うち27台がフィニッシュラインを通過し、完走扱いとなりました。

健闘虚しくフィニッシュラインを踏めず、オフィシャルカーと共に帰還したマシンたち。リタイヤの経験は、必ず大きな糧になる
健闘虚しくフィニッシュラインを踏めず、オフィシャルカーと共に帰還したマシンたち。リタイヤの経験は、必ず大きな糧になる

●「KV-40」
クラス別「e-kiden 90分ロングディスタンス」上位3チーム

【KV-1クラス】

順位 チーム名 周回数 ポイント
1 Team BIZON 26 30
2 ZDP 24 25
3 東郷アヒルエコパレーシング 24 20

【KV-2クラス】

順位 チーム名 周回数 ポイント
1 nn-tech エコランチーム 21 30
2 栃木県立矢板高等学校B 16 25
3 平工業高等学校A 15 20

せっかく大会用に表彰台が用意されていたのですが、表彰式は屋内で行われることに。それまでの張り詰めた空気はすっかりと溶け、穏やかな雰囲気で長時間に及んだ健闘をたたえ合います。

●「KV-BIKE」
クラス別総合順位、上位3チーム

【クラスⅠ】

順位 チーム名 タイムアタック
ポイント/順位
ロングディスタンス総合
ポイント/順位
ポイント
1 ミツバイク 20/1 30/1 50
2 近大高専流体研B 18/3 25/2 43
3 飯田OIDE長姫高校 原動機部OB 19/2 20/3 39

【クラスⅡ】

順位 チーム名 タイムアタック
ポイント/順位
ロングディスタンス総合
ポイント/順位
ポイント
1 飯田OIDE長姫高校 原動機部 19/2 30/1 49
2 平工業高等学校B 15/6 25/2 40
3 Teamペンタン 16/5 20/3 36

●「KV-40」
クラス別総合順位、上位3チーム

【KV-1】

順位 チーム名 タイムアタック
ポイント/順位
ロングディスタンス総合
ポイント/順位
ポイント
1 Team BIZON 15/6 30/1 45
2 ZDP 18/3 25/2 43
3 東郷アヒルエコパレーシング 17/4 20/3 37

【KV-2】

順位 チーム名 タイムアタック
ポイント/順位
ロングディスタンス総合
ポイント/順位
ポイント
1 nn-techエコランチーム 19/2 30/1 49
2 栃木県立矢板高等学校B 16/5 25/2 41
3 長野県佐久平総合技術高等学校 18/3 16/5 34

本大会に興味を持たれた方は、実際に観覧されてはいかがでしょうか。来年度のEne-1GPも、ツインリンクもてぎと鈴鹿サーキットでの開催が予定されています。

(取材・文・写真:糸井賢一 編集:木谷宗義+ノオト)

<関連リンク>
Ene-1GP MOTEGI 公式サイト
https://www.twinring.jp/ene-1/

[ガズー編集部]

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