1980年代に流行った「水中花シフトノブ」って知ってる? カー用品メーカーの星光産業に聞いた
透き通ったアクリルの中に咲いたきれいな花。パッと見はお部屋のインテリアに見えますが、実はMT車のシフトノブ用アクセサリーなんです。その造形から、「水中花シフトノブ」と呼ばれて愛好されたこのアクセサリー、現在は生産終了してしまっていますが、誕生したのは1975年ごろなのだとか。
そこで、水中花シフトノブを考案したカー用品メーカー・星光産業を訪れ、開発の経緯についてお伺いしました。
製品名は「水中花シフトノブ」じゃなかった
今回、お話を伺ったのは、会長室室長の高橋政幸さん(左)と製品事業本部本部長の松木昭さんです。まずは、星光産業の歴史から聞いてみました。
――星光産業さんはどのような会社なのでしょうか?
高橋 弊社は1953年に設立し、もともとは文房具を展開していました。モータリゼーションの進展でクルマが普及していく中で、1962年にカー用品の製造をスタートしたんです。現在も、灰皿やスマホスタンドなど、ユーザーのニーズに合わせたカーアクセサリーの製造販売をしています。
――そもそも水中花シフトノブとはどういうものでしょうか?
高橋 透明なアクリルに造花を埋め込んだ、取り替え用のシフトノブアクセサリーです。1975年ごろに発売しました。当時はAT車が少なく、MT車が主流で、シフトノブはクルマの中でもよく触る場所のひとつでした。そこに商機を見出し、水中花シフトノブを始めとしたアクリルノブやウッドノブ、革巻ノブなどのシフトノブ製品を展開したんです。昔はカー用品の専門店が少なかったので、ガソリンスタンドなどに商品を納入していましたね。
松木 クルマを持っている人は、内装を自分好みにカスタマイズすることが当たり前の時代だったんです。当時を思い返すと、みんなシフトノブ部分を取り替えていましたね。水中花シフトノブは、現会長が京都に旅行した時に、お土産屋で見かけたアクリル模型から着想を得て開発に至ったと聞いています。
――「水中花シフトノブ」というネーミングも素敵ですよね。
高橋 実は、「水中花シフトノブ」というネーミングをしたのは、私たちではないんです。弊社は「アクリルフラワーノブ」として売り出していましたから。
松木 水中花シフトノブが発売されて数年後の1979年には、『水中花』というテレビドラマが放映されていました。主演の松坂慶子さんが『愛の水中花』という主題歌を歌っていたんです。もしかすると、それにちなんで周りの人が名付けたのではないかと思っています(笑)。
水中花シフトノブが消えた理由
――水中花シフトノブは1996年に星光産業のカタログから姿を消してしまいます。それはどうしてなのでしょうか?
高橋 やはりAT車の普及率が上がったことが、大きかったのだと思います。MT車がほとんどだった1980年代前半までは、弊社にとってシフトノブ全盛の時代でした。しかし、AT車の普及に従って、1980年代後半にはだんだんと縮小しています。AT車はMT車と比べてシフトノブの交換が難しかったんです。AT車専用アイテムも打ち出しましたが、あまりヒットしませんでした。
松木 カー用品メーカーとしては、車両の変化は大きかったですね。1996年には、水中花シフトノブだけでなく、ほかのアクリルノブも廃番になっています。
高橋 2001年には、トラックのコラムシフト用にアクリルノブをリニューアルし、そこからファンの要望を受けて、2005年に水中花シフトノブを復刻しています。当時はコラムシフトのドレスアップ用にトラック運転手の方が購入してくれた印象です。それも2011年を最後にカタログから外れ、現在はもう取り扱いはないですね。
――現在でも、MT車ユーザーの中には、シフトノブ交換をする人がたくさんいます。復刻はもうされないのでしょうか?
高橋 たまに要望をいただくことはあるのですが、今のところ販売予定はありません。しかし、今でも水中花シフトノブを覚えていただけているのは、とてもありがたいことだと思います。
――ありがとうございます。最後に今後の展望をお伺いできれば!
松木 水素自動車や電気自動車、自動運転などクルマの変化はありますが、クルマが移動手段として使われるのは、これからも変わらないはずです。今後も、クルマの中を自分好みにカスタマイズするお手伝いができればうれしいですね。
ノスタルジー漂う水中花シフトノブ。復刻は今のところなさそうですが、もし復刻されることがあれば、新たなニーズを開拓できるようにも思えます。もし、「以前持っていたよ」という人がいれば、押し入れから探し出して、懐かしさに浸るのもまた一興です。
(取材・文:神田 匠 写真:神田 匠 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
星光産業株式会社
https://www.seikosangyo.co.jp/
[ガズー編集部]
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