今、味わっておきたい失われゆくもの。『懐かしの昭和ドライブイン』著者・越野弘之さんに聞く(後編)

全国各地の昭和の雰囲気を残すドライブインを巡り、その魅力を伝える『昭和ドライブイン』の著者・越野弘之さん。幼少の頃から古いもの、失われていくものへの思いが強かったという越野さんに昭和ドライブインの楽しみ方を伺います。

なくなっていくものを記録として残していきたい

越野さんが回った全国の昭和ドライブインをまとめた『懐かしの昭和ドライブイン』(株式会社グラフィック社刊)
越野さんが回った全国の昭和ドライブインをまとめた『懐かしの昭和ドライブイン』(株式会社グラフィック社刊)

――「子どもの頃からなくなってしまうものに対して敏感」であったとのことですが、きっかけは何だったのでしょうか

子どもの頃から鉄道ファンで、鉄道趣味のスタイルの1つに「なくなるものを追いかける」というのがあります。なくなってしまう鉄道や関連するものの写真を撮ったり記録したりしているうちに、鉄道に限らず「なくなってしまうもの」に敏感になりました。

街中の建物や店、看板など古いものに惹かれ、近いうちにこれらもなくなってしまうのだろうな……との思いから、なくなる前に記録として残しておこうと、写真を撮っておくのが習慣となっていました。

秋田県仙北市仙岩峠の茶屋店内
秋田県仙北市仙岩峠の茶屋店内

――そういった記録を公開していくようになったのですね

中学時代から鉄道雑誌に投稿した写真や記事を載せてもらうようになり、20代半ばからは個人で鉄道系のウェブサイトを立ち上げました。当時はまだデジカメも一般的ではなかったので、珍しい列車を撮ったらすぐに写真屋で現像して、そのプリントをウェブサイトにアップしていました。

その流れでレトロ自動販売機(自販機)やドライブインを回るようになってからは、ブログやTwitter、YouTubeでも情報発信をするようになりました。今では、Twitterのフォロワーも1万人を超え、YouTubeチャンネル登録者23,000人、総再生数960万になっています。(2019年12月時点)

宮城県亘理町ドライブインサザエの海賊定食。トレイからはみ出しそうなボリューム
宮城県亘理町ドライブインサザエの海賊定食。トレイからはみ出しそうなボリューム

失われつつある昭和40年代50年代

――越野さんが惹かれ、注目する“昭和”とは?

昭和40~50年代ですね。
映画にもなった『三丁目の夕日』では昭和30年代が注目されたり、戦前戦後の建物などは有形文化財などに指定され保存されたりしていますが、40年代以降のものってまだそういう文化価値が認められていないんですね。

でも、その辺りの年代のものにも令和の現在では失われつつある雰囲気や建築様式や当時の流行などが残されています。注目されていないがために、貴重なものがあっけなく、なくなってしまっているのが現実です。そこで私は、まだ今なら現存していて、近い将来なくなってしまうであろう昭和40~50年代の雰囲気を追い求めています。

昭和の雰囲気を残す富山県富山市日本海食堂
昭和の雰囲気を残す富山県富山市日本海食堂

どう楽しんだらいい? 昭和ドライブイン

――今のうちに訪ねておくべきドライブインは?

昭和に建てられたまま内装も外装も変化していないお店には行っておいたほうがいいです。そういうお店は店主が高齢で、後継者がいないことも多く、店主が体調を崩されるなどのアクシデントがあると閉店や休止になってしまうことが多いのです。ぜひ、老夫婦で営んでいて地元の常連客が中心といったドライブインに行ってみてください。そのようなお店は私の著書『懐かしの昭和ドライブイン』に多く掲載しているので参考にしていただければ。

――昭和ドライブインをより楽しむためのコツを教えてください

ドライブに行く際に観光地ではなく、行ってみたいドライブインを目的地にしてみてください。その方が楽しいドライブイン巡りができます。観光地に向かったついでにドライブインを探してもどうしても観光客向けのお店が中心になってしまうため、なかなか良い昭和ドライブインに巡り合うのは難しいでしょう。逆に行きたいドライブインをまず決めて、その周囲の観光地を探していくと、あまり知られていない良いスポットが見つかることもよくあります。それに、ドライブインで店主などと話をすることで地元の人だからこそ知っている見どころや穴場などを教えてもらえることも多いので、楽しみも増えますよ。

熊本県玉名市のドライブイン仔馬
熊本県玉名市のドライブイン仔馬

――歳月とともに減りつつある昭和ドライブインへの越野さんの思いを聞かせてください

悲しいことですが、昭和の雰囲気のまま残っているドライブインのほとんどは近い将来なくなってしまう運命にあると私は思っています。店主の高齢化、後継者問題、店舗の老朽化などさまざまな問題がありますが、少なくとも若い後継者がいないお店は確実になくなります。私がこれまで見てきた感じだと、あと5年もすると昭和ドライブインは半減するのではないかと考えています。

私たちにできることは、今のうちに昭和ドライブインを訪問して味わっておくことだけだと思います。残された時間はあとわずかです。少しでも多くの昭和ドライブインを巡ってその懐かしさ、おいしさ、そしてタイムスリップ感覚を味わってほしいなと思います。

<取材協力・画像提供>
kossy昭和スポット研究所
https://www.youtube.com/channel/UCLx3LXnWAAML6e59hhW3uKw
昭和スポット研究所kossy Twitterアカウント
@jihankimania

(取材・文:わたなべひろみ 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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