無料で冬道講習を行う北海道千歳のレンタカー会社の取り組み

冬道の運転は雪国で育ったドライバーでもかなりの緊張を強いられるもの。雪のない地域のドライバーには未知の世界でしょう。クルマの貸し出し前に敷地内の専用コースで冬道講習を行うレンタカー会社が新千歳空港のほど近くにあります。「ニコニコレンタカー美々店」代表の橘礼太さんに冬道講習の内容や始めたきっかけなどを聞きました。

クルマを動かすのは簡単。重要で難しいのは止まること

――冬道講習はどのように行われるのですか?

この講習の第一の目的は北海道の道路状況とABS(アンチロック・ブレーキ・システム)について知ってもらうことです。ABSとは、ほとんどのクルマに装備されていて、冬のツルツル路面などで急ブレーキをかけたとき、タイヤがロックしてクルマが操作できない状態にならないよう作動するシステム。ところが、雪のない地域のドライバーはABSの存在をほとんど知りません。
そこで、新千歳空港から送迎車で店舗に到着するまでの間に安全確認をした上で、ABSを作動させ「ガガガーッ」という音や体感を経験してもらいます。そのときのお客さまの反応でABSについてどの程度の認識があるかを見て、個々に合わせた説明や講習を行います。

広大な専用コース
広大な専用コース

受付をしながら、ABSの仕組みやブレーキのかけ方などの冬道ならではの運転方法を説明し、敷地内にあるコースで、実際に運転してブレーキを踏み込みABSが作動する体験をしてもらいます。同時に雪のない地域の人特有の「4WDは滑りにくい」という誤解も解いていきます。4WDはブレーキが効きやすいのではなく、冬道でも発進しやすいというだけですから。
いずれにしても、冬道のブレーキの難しさをしっかり覚えてもらいます。冬道では前のクルマのブレーキランプがついた時点でブレーキをかけても間に合わないことが多い。雪のないところでのブレーキをかけるタイミングよりずっと前から心構えをしなければ、クルマを安全に止められません。
また、こちらではエンジンブレーキとフットブレーキの両方をうまく組み合わせてブレーキをかけている人も多いのです。冬道で一番難しくて重要なのは動いているクルマを確実に止めること。そのような観点でお客さまに説明をしています。

北海道特有のクルマ・道路事情を知ってもらう

――他にもお客さまに伝えていることなどはありますか?

雪が降る、路面が凍るということで思いもよらないことがたくさんありますから、注意しておくべきことを伝えています。
例えば、吹雪でホワイトアウトして怖いからといきなりクルマを停止したら追突される危険があります。そんなときは道路の上にある矢羽根で路肩や進行方向を確かめながら進み、クルマを駐車するなら十分に安全を確認して路肩ギリギリに寄せます。その際に、車内に一酸化炭素が入りこむのを防ぐため雪でマフラーがふさがらないように注意します。

路肩を示す矢羽根は雪国以外ではあまり知られていない(上部にある矢印のような形をしているものが矢羽根)
路肩を示す矢羽根は雪国以外ではあまり知られていない(上部にある矢印のような形をしているものが矢羽根)

路面が濡れて光っているのかブラックアイスバーンになっているのか判断できない時は、周囲の安全確認をした上で滑るか滑らないか軽くブレーキをかける試し踏みをした方がよいということ。
北海道の歩道の縁石は比較的高いので、コンビニなどに入る時は斜めに進入するとバンパーを壊してしまう可能性があるなど、道外の方には初めて知ることは多いと思います。

路面が濡れているのかブラックアイスバーンなのか見た目では全くわからない
路面が濡れているのかブラックアイスバーンなのか見た目では全くわからない

「ブレーキが壊れている!」身近な声から始めた講習

――冬道講習を始めたきっかけは?

僕自身、東京生まれで、転勤で北海道に来て冬道運転を体得したのですが、妻が冬道運転をしたときに「このクルマ、ブレーキが壊れている」と慌てているのを見て、ABSのことを言っているのだと気づきました。レンタカー会社を始めてからも、ABSが作動したことでお客さまから「ブレーキが壊れている」と電話がよくかかってきていたんです。知らないままABSを体験してしまうとかなり怖いと思うんですね。それなら、出発前にどういうものかを伝えようと冬道講習をスタートしました。
冬道初体験という方にはもちろんですが、スキー場によく行くから雪道の運転はOKというお客さまにも念入りに説明します。本州と北海道の雪道では全くの別物です。北海道の雪道は極端に言えばスキー場のゲレンデのど真ん中を走るようなもの。自分の技術を過信せずに十分すぎるくらい注意してほしいと伝えています。

――講習内容を紙面で用意していないのはなぜですか?

口頭での説明が一番印象に残るからです。紙面で渡しても、運転しながらそれを読むことはないでしょう。ここで説明された時点では腑に落ちなくても、実際に運転して「ああ、このことだったんだ」と気をつけてくれて、お客さまが無事に帰って来てくれたらお互いにハッピーだねってことなんです。

安全で快適なドライブ環境を提供するために

会社員時代にレンタカーをかなり利用していましたが、僕が東京から来たとわかっても、冬道の注意などはされたことはありません。今思えば不親切だったなと。どんな危険が潜んでいるか全く知らない人をいきなり冬道に送り出すということだから。それで、うちの方針としては出発前の段階でしっかり情報提供して、ちゃんと帰ってきてねということなんです。

冬道講習以外にも利用者の立場に立ったサービスと情報提供を
冬道講習以外にも利用者の立場に立ったサービスと情報提供を

ですから、冬道講習はもちろんですが、シートヒーターやUSBの有無など各クルマの装備も詳しく説明します。そうすれば、お客さまもクルマをフルに活用してドライブを楽しむことができるし、こちらもナビの使い方がわからないなどの電話で業務の手を止めることがなくなりますから(笑)。

<取材協力>
ニコニコレンタカー美々店
https://www.2525r.com/store-01046-001.php

(取材・文:わたなべひろみ 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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