溝の深さだけではない。雨の日の安全のために、タイヤは新しい方がいい理由

夕立や豪雨、そして台風もある夏は雨天時にクルマを走らせることも多い季節。雨の日の濡れた路面は乾いた舗装路に比べて滑りやすいことは広く知られていますが、ドライバーであればスリップを防ぐためにはタイヤの溝の深さが重要だということも認識していることでしょう。

一般的なタイヤは、新品状態では深い溝が刻まれていますが、表面がすり減ると溝が浅くなってきます。溝が浅くなると雨の日にスリップしやすくなるわけですが、その理由は、タイヤと路面の接地部分から水を排除する「排水性」が悪くなることが挙げられます。

タイヤは路面との間に水の膜があると滑りやすくなります。溝が浅くなることで水の通り道が狭くなり、タイヤと路面の間にある水の膜を除去しにくくなることで、タイヤがしっかりと路面に接地できずに滑りやすくなるのです。水の膜は厚ければ厚いほど滑りやすくなり、ひどい場合は「ハイドロプレーニング現象」と呼ばれる、タイヤが滑りハンドルやブレーキが利かなくなる状態になってしまいます。

タイヤには擦り減ったときに残り溝が1.6mm以下になったことを表す「スリップサイン」が設けられていて、タイヤ側面にはスリップサインが登場する場所を示す△マークがついています。
タイヤには擦り減ったときに残り溝が1.6mm以下になったことを表す「スリップサイン」が設けられていて、タイヤ側面にはスリップサインが登場する場所を示す△マークがついています。

しかし、雨の日のクルマの運転は「溝があれば安心」とは言い切れません。意外に知られていないのですが、タイヤが古くなると充分な溝があっても濡れた路面では滑りやすくなるのです。理由は、舗装路面の細かい凹凸とタイヤの接地面の関係。それがスリップするかしないかを決めているといっても過言ではありません。

もし機会があれば、アスファルト路面の表面をじっくり観察してみてください。平らなイメージですが、実際には細かい凹凸があるのです。しかしタイヤはゴムで作られていて柔らかいので、表面がしなやかにアスファルトの路面にフィット。タイヤと路面が密着すればするほど滑りにくくなります。

しかし、ゴムは劣化すると硬くなってしなやかさを失います。古くなった輪ゴムなどを思い浮かべると、イメージしやすいですね。タイヤも同じこと。古くなったタイヤは表面が硬くなるのです。すると、路面の細かい凹凸にしっかりと密着できず、接する面積が狭くなるので滑りやすくなります。これこそが、古いタイヤは溝がたくさん残っていても雨の日に滑りやすい理由です。

タイヤの性能が保たれていないと、クルマを安全に走らせることはできない。(写真:フォード)
タイヤの性能が保たれていないと、クルマを安全に走らせることはできない。(写真:フォード)

タイヤの寿命はどのくらい? すり減らなくても定期的に交換すべき

どのくらいの期間使うと性能にかかわるほどタイヤのゴムが劣化するのかというと、使用状況や駐車場所の環境(直射日光が当たらない場所だと劣化しにくいなど)により異なるので一概には言えません。

ただ、世界的なタイヤメーカーであるグッドイヤーのウェブサイトには、「使用開始から5年以上経過したタイヤは日常点検の他、継続して使用できるかどうか、タイヤ販売店などプロスタッフによる点検を受けることをおすすめします」という記載があります。まずは5年がひとつの目安で、それ以上長く使う場合はプロの診断を受けるといいでしょう。

また同社は、「製造後10年経過したタイヤは、溝が残っている(法規上使用できない溝の深さまですり減っていない)など、外観上問題ない場合でも、ゴムの劣化などの問題から新品タイヤに交換されることをおすすめします(あくまでも目安で、タイヤの実際の使用期限を示すものではありません)」とも説明しています。

しかし、それらはあくまで「可能な限り長く使い続けた場合の目安」。タイヤのゴムは突然性能が落ちるわけではなく、使っているうちに徐々にしなやかさを失ってスリップしやすくなります。そう考えると、安全を第一に考えるのであればさらに早いタイミングで交換するのがベターです。

ちなみに使用前のタイヤに関しては、日本のタイヤメーカーであるブリヂストンが、「適正に保管された新品タイヤは、製造後3年間は同等の性能を保つことが確認されていますので、大丈夫です。これは、タイヤ性能に関わるゴムの性能低下は、適正保管中はほとんど進まず、タイヤを車両に装着して走行することでタイヤに発生する熱と力により徐々に進行するためです」とウェブサイトで説明しています。ですから、信頼できるお店で購入する限り心配はいらないでしょう。

昨今のクルマは、衝突被害軽減ブレーキなどドライバーをサポートして事故を防ぐ装備が組み込まれていますが、それがしっかり効果を発揮するためにはタイヤのグリップが大切。乾いた路面よりも滑りやすい濡れた路面であれば、なおさらです。

しかもタイヤの寿命は残り溝だけでは判断できません。タイヤはすり減っていなくても定期的に新品に交換することをおすすめします。

<参考サイト>
グッドイヤー
https://www.goodyear.co.jp/
ブリヂストン
https://tire.bridgestone.co.jp/

(文・写真:工藤貴宏 写真:フォード 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

あわせて読みたい!

  • オールテレーンタイヤってなに? M+Sとは? SUVのタイヤ選びで知っておきたいこと
    オールテレーンタイヤってなに? M+Sとは? SUVのタイヤ選びで知っておきたいこと
  • 北米で大人気、BF Goodrichの新タイヤサイズが日本上陸!スタイルも決まり、いざオフロードへ!
    北米で大人気、BF Goodrichの新タイヤサイズが日本上陸!スタイルも決まり、いざオフロードへ!
  • ここがポイント! スタッドレスタイヤの保管方法
    ここがポイント! スタッドレスタイヤの保管方法
  • 空気の抜けもパンクもない!「エアレスタイヤ」が予感させるタイヤの未来
    空気の抜けもパンクもない!「エアレスタイヤ」が予感させるタイヤの未来

コラムトップ

MORIZO on the Road