レクサス LCの誕生秘話を語る ~レクサス LC(プロトタイプ)特別試乗会 トークセッション~

2月23日(木)~25日(土)に、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)にて行われたレクサス LC(プロトタイプ)の特別試乗会。この試乗会のプログラムの1つには、トークセッションも用意されていた。モータージャーナリストの九島 辰也氏(以下、九島)、レクサスブランドに統一感を持った味つけをする“TAKUMI(匠)”ことトヨタ自動車の尾崎 修一氏(以下、尾崎)、今回MCを務めるプロドライバーの三浦 健光氏(以下、三浦)が登場。レクサス LC誕生までの秘話を語り合った。

発表当時は製品化の予定がなかった

​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​三浦:さて、2012年のデトロイトモーターショーで、レクサスが発表したコンセプトカーを皆様ご存じでしょうか?

九島:自分はとても印象的だったので覚えています。あの時 デトロイトでは、レクサス LF-LCとホンダ NSXもコンセプトカーを発表したので、日本メーカーが注目された年となりました。2016年にはレクサス LF-LCを市販化し、最高級クーペ レクサス LCとして投入するという事を、豊田章男社長自らが発表していましたね。

三浦:何がすごいって、あの時からたった4年で市販車としてデビューですよね!

九島:2012年当時は、製品化の話はなかったですよね?

尾崎:なかったですね。あの時は製品化のことは考えていませんでした。

九島:各メーカーは、モーターショーに出したクルマの一部を採用するという事を過去には結構やっていました。例えばポルシェはカレラGTを出して、そのセンターコンソールがパナメーラに採用されたりとか。モーターショーへ出展されたクルマは、後に誕生するクルマの先駆けであり、一部分の採用はあっても全部を採用することはなかったです。それを実現したのがレクサス LC。よほど反響があったのでしょう。

尾崎:そうですね。僕らとしても作りたい想いはあったのですが、レクサス LCは非常に難しいクルマで、これまでのクルマづくりでは実現は不可能でしたね。​

ハイブリッド車の乗り心地に期待

三浦:九島さんが、レクサス LCに初めてお乗りになったのはいつですか?

九島:2016年の12月です。場所はスペインのセビリアという町、世界中のジャーナリストを集めた国際試乗会です。通常の試乗会ですと、町中とワインディング、山の中と高速なのですが、この時はサーキットが用意されていましたね。

三浦:スペインでサーキットを使って試乗会を行うというのは、ポルシェのイメージですが…。

九島:スペインやポルトガルは、プライベートサーキットが多いので、そういう所を借り切って、ポルシェやベントレー 等のプレミアブランドが行うことが多いですね。

尾崎:いろんなシチュエーションで感じとっていただきたいので、自信を持ってサーキットに送り出しました。

三浦:最初に乗ったときは、いかがでしたか?

九島:モーターショーはクルマがステージ上ですよね。太陽の下でクルマを見るとまた雰囲気変わるのですが「本当にできちゃったんだ!ドア開くんだ!閉まるんだ!エンジンがかるんだ!」という所から始まりました。でも期待値は高かったです。最初、ガソリン車に乗りましたが、いきなり唖然としました。パワフルで、ステアリングフィールも良く、リアの追従もかなり良い。ハイブリッド車は、ワインディングでびっくりしました。日本のハイブリッド車って、ちょっと下が重いような感じとか癖があると思うのですが、欧州のメーカーのハイブリッド車は力強いんですよ。しかし、レクサス LCのハイブリッド車は欧州クオリティへ辿りついた気がしますね。

尾崎:そうなんです。ガソリン車も当然レクサスの味付けとなっていますが、ハイブリッド車もレクサス独自の乗り味となっています。

三浦:僕は今日 ハイブリッド車を試乗させてもらいましたが「楽しい!」と思えたことが新しいと感じましたね。V8が楽しいのは、むしろ当たり前だと思っています。

尾崎:「ハイブリッド車ってこんなものか・・」と思わせない作りに仕上がっていると思います。

トークショー前に、展示されたレクサス LCのスペックをじっくりと確認する参加者の方々

アメリカの西海岸で開発したきっかけとは?

三浦:発表から登場まで、すごい苦労をされているんですよね?

尾崎:単純にあのデザインを今までの作り方でやった場合"エンジンが乗りません・人が乗りません・乗降できません・全く何もできません”となってしまいます。「クルマを一から作り直すんだ!」という想いで原点に立ち返りました。低フードにするためにエンジンを落として、フロントミッドシップにするということをやりながら、フロントの軸を80ミリ前に出して、リアのオーバーハングを縮めることをし、プラットホームをしっかりと直していきました。良いデザインから生まれる効率の良い配置が良い運動性能を生み出し、機能美としてまとまっていきます。これを軸に新しいプラットホームが出来上がりました。

九島:聞いていて思ったのは、プレミアムの世界のクルマづくりのトレンドは、まさにホイールベースを伸ばしての前後のオーバーハングを短くして、すべて中心に持って来ようという流れなんです。突き詰めていくと自然とそこへ到達していく感じがありますね。

三浦:いいですね、自然とそうなるというのは。ちなみに、これまでどんなところでテストをして来たのでしょうか?

尾崎:試作車の公道でのテストは、アメリカの西海岸にあるロサンゼルスから1時間くらい北にあがった所のエンジェルクレストハイウェイで行いました。ここは、各クルマメーカーがテストをしている有名な場所です。起伏がある場所で、ステアリングの正確さだとかリズム、ブレーキなどのトータルの性能を発揮できる場所です。あとは、ニュルブルクリンクでクルマを鍛えたりしています。国内では、芦ノ湖スカイラインで試作車を夜な夜なテストをしていました(夜間貸し切りの走行)。深夜、鹿やタヌキと仲良くしながら走っていましたね。

​三浦:レクサス LC500のコンセプト「より鋭く、より優雅に」の言葉のように、西海岸はゆったりしていたり山があったりと、開発に最適な場所と聞いています。

尾崎:そして、クルマ好きの集まる"Cars & Coffee"というイベントがあって、涎の出そうなクルマがたくさん集まります。そこで、おじいさんたちがわいわいクルマ談議に花を咲かせるのですが、そんな場にレクサスが1台もなかったというのが寂しく、いつかここでワイワイやって欲しいという夢があり、この場で開発を進めるきっかけにもなりました。そこへ開発が終わってからレクサス LCを持っていきましたが「かっこいい!これいくらなんだ?」等 話かけられ、当初の夢が叶ったという想いでいっぱいでした。

九島:西海岸は、カーカルチャーの発達したところで、かつ雨が少ないので、古いクルマが錆びにくいという利点があり、クルマの長期保存が可能です。ですので、ぺブルビーチでは1919年から"コンクール・テレガンス"のようなイベントもやっていて、戦前の何億円なんてクルマも集まるんです。そして、そんなところに人も集まって来るんですよ。​

尾崎:そんな念願の場所へレクサス LCを持って行き、セレブの方々に見ていただきました。

三浦:日本でも今ここで始まっていますね。今日の参加者の皆様が乗られているクルマもすごいですからね。

尾崎:ぜひ、レクサス LCの感想をお聞かせ願いたいですね。

参加者の方々が真剣に聞き入り、トークセッションはあっという間に時間が過ぎていきました

オーナーの気分に寄り添うラグジュアリーカー、それがレクサス LC

九島:僕はゴルフが好きで、助手席にゴルフバック乗せてひとりで行きます。昔は"クルマにゴルフバックが何個詰める?"とか、"みんなで待ち合わせをしてゴルフに行く"とか、そういう時代でした。今は違いますね。効率的に時間を使う時代なので、自由にゴルフに行けば良いと思います。その時に例えば、朝早くゴルフ場近くのワインディングの道を、この音の良いレクサス LCで走って気分を上げたりすることで、頭もカラダも覚醒し、気分良くゴルフに臨むことができます。帰りにはゆったりと余韻に浸りながらオーディオを聴きながら走って帰ることもできます。

尾崎:"ゴルフに行くときの気分の上がる感じ"、"終わって帰る時の心地よさ" など、お客様の気分に寄り添って、いろんな走りを表現していけるのが、このレクサス LCだと思います。

三浦:"鋭い部分"、"優雅な部分"、"速い時"、"ゆったりした時"をイメージして試乗してくださると、もっとこのクルマが理解できると思います。そして、もっともっとお話を伺いたいのですが、お時間となってしまいました。技術的な背景など踏み込んだお話などは、説明員にどんどん聞いてください。では、引き続き試乗会をお楽しみください。本日はありがとうございました。

九島 辰也(くしま・たつや)

「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV/ヨーロピアンSUV&WAGON(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長。2014年はフリーランスとしての傍ら、フリーペーパー「go! gol.(ゴーゴル;パーゴルフ刊)」編集長、2015年7月発行からアリタリア航空機内誌日本語版編集長をつとめる。2016年7月よりメンズ誌「MADURO(マデュロ)」、総編集長/編集人をつとめる。

尾崎 修一(おざき・しゅういち)

トヨタ自動車 車両技術開発部 第1車両試験課 LEXUS-TAKUMI。1989年の2代目MR2(SW20)に始まり、アルテッツァ、初代レクサスISなど、一貫して車両総合性能評価に携わる。2010年からはレクサスマイスター(13年からはTAKUMIに名称変更)として、レクサス全般の商品性と質感におけるブランド味作りと方向性の統一業務を担当。

三浦 健光(みうら・けんこう)

元メーカー系レーシングドライバーの父の影響もあり、12歳からにカートを始めると大人に混じり好成績を記録。大学卒業と共に世界で活動を始め、優勝・表彰台多数とアジアで最も活躍した日本人の一人と言える。近年は自動車メーカーイベント、社内研修の講師や同乗解説走行など、「走って話せるインストラクター」として評価が高い。また、メーカーの外部評価メンバーとしても活動し、その実績は海外でも評価されており、スーパーカーブランドからの依頼でインストラクションをこなすほどである。

※写真のレクサス LCはプロトタイプモデルです

(写真:折原弘之)

[ガズー編集部]

MORIZO on the Road