GAZOO.comが目指すもの [豊田 章男](1/2)

GAZOO.com が目指すもの

トヨタ自動車株式会社 取締役副社長
豊田 章男

※2006年11月時点の役職です。

お客様とつながる接点を持ちたい・・からGAZOOが始まった

‐‐‐GAZOO.comを立ち上げてから10年目ということですが、立ち上げた時のトヨタの狙いについて教えてください。

GAZOO.com を立ち上げた当時は、マーケットインとか、カスタマーインとかよく言われ始めたころだと思います。 しかし、カスタマーインと言うのは簡単ですが、自動車メーカーは、販売店さんや、いろいろな代理店さんを介してお客様と接しているわけですから、我々は本当にお客様のことが判っているのだろうか、と疑問に感じることがよくありました。やはり、五感を研ぎ澄まして、お客様のことを身近に感じられる我々自身のインターフェースを持つべきでは・・ということで始めたのがGAZOOです。インターネットが急速に普及し始めたころでしたし、新しい世代のお客様と直接つながる接点を持ちたい、というのがGAZOOの根底にありました。

G-BOOKもGAZOOから生まれた貴重な副産物

‐‐‐これまでに、GAZOO.comがトヨタにもたらした成果について述べてください。

GAZOOは登場以来、終始、トヨタの顧客向けインターネットをリードする牽引役となって来たと思います。立上げ当初は中古車情報の紹介から始まり、翌年には、トヨタ車のカタログ請求や商談予約を受け付け、2000年には本やCDなどのEコマースを併設し、常に幅広いお客様との貴重な接点を創ってきたと思います。
一方、このガズーから得られたノウハウや、販売店とのネットワーク網は、トヨタブランドのマーケティングサイト「toyota.jp」にも生かされ、トヨタ車の紹介、販売促進において大きな成果を引き出しています。 また、2003年末に発表したトヨタのテレマティクスサービス「G-BOOK」は、ガズーモビリティーサービスと称するように、まさに、ガズーが原動力となって生まれたものです。

画像(ガゾー)がGAZOOになった

‐‐‐ GAZOOの名前の由来はどこから来ているのでしょうか?

名前の由来について申し上げるには、ディーラーの業務改善のことを話さなければなりません。1996年に、トヨタは「チームCS」という組織を設立しました。その組織は、国内のトヨタディーラーに出向いてディーラーの業務改善を支援していました。
例えば、キャッシュフローの改善です。ディーラーにとって、新車の在庫期間を減らすことも大事ですが、売れたらなるべく早く現金を回収することも大事です。ところが、ほとんどの場合下取り車があるわけですから、それが中古車展示場に展示されて、売れなければ、実際、新車を売ったお金を全部回収したことにはならない。ところが、売れるまでに長いものだと90日近くかかっていたわけです。しかも中古車展示場は満杯だから、下取りしてもなかなか商品として展示できないという悪循環もありました。
これではよくないと言うことで、あるディーラーで、チームCSのメンバーが下取り車を片っ端からデジタルカメラで撮影して、店頭でその“画像”を見えるようにしました。
すると、展示スペースはそのままで、販売台数が1.7倍、売れるまでのリードタイムは半分になりました。これは、すごいということで、その画像をインターネットにも載せたわけです。
当時は、そのシステムを“画像”システムと読んでいました。世間に告知する段階になって、“画像”じゃしょうがないから、GAZOと呼ぶか、いや、GA(画)のZOO(動物園)と言う意味で“GAZOO”にするかと言う様に、あまり考えずに決めたような気がします(笑)。

ライフスタイルの中で自然にクルマ情報に触れてもらいたい

‐‐‐GAZOOは、新車のネット見積もりや、ネット商談も、他社よりかなり早く手がけました。その狙いはどこにあったのでしょうか。

GAZOOを始めたころは、携帯電話には毎月2万円使うのに、新車のローンは月3千円でも払いたくないという新人類が出始めた頃です。そのうち、車に興味のある若者などいなくなってしまうのではないか、と危惧する人もいました。ただ、実際、街へ出て見ると、ディーラーに来る若者はいなくても、例えば、コンビニに行って見れば、雑誌コーナーにはカー雑誌がたくさん陳列されていて若い人がいつも立ち読みしている・・・車に興味が無いわけじゃなくて、要はライフスタイルが変わってきているんだな・・と。
つまり、メーカーやディーラーから情報を押し付けられるのではなくて、自分のペースで車を選びたいと言う人が増えてきたのだと思いました。それにうまく対応するにはインターネットが一番だと・・さっそく始めたわけです。今でこそあたりまえになりましたが、当時としては画期的だったみたいですね。

‐‐‐ GAZOO.comにはEコマースやコミュニティなど、一見、車には関係が無いコンテンツがありますが、それはなぜでしょう。

車という商品は一度買うと、一般的に平均7年くらいは買い換えないわけです。ですから、クルマだけだと、7年に一度しかGAZOOに用がないわけです。だから、いつも来てもらえるようにするためには、クルマを基軸に、音楽だとか、カーライフだとかコンテンツを広げて、クルマを中心にいろいろなことを、見たり、買ったり、おしゃべりしたりできる場を創っていかなければならないと考えました。
その結果、Eコマースやコミュニティを併設するようになりましたが、これは、押し付けではなく、ライフスタイルの中で自然にクルマ情報にも触れてもらいたいということを突き詰めて行った結果だと思います。