チーフエンジニアの家計簿 [3代目ヴィッツ 山本博文チーフエンジニア](1/2)

1999年1月にデビュー以来、国内外で爆発的なヒットを記録。日本カー・オブ・ザ・イヤーと欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した初代ヴィッツ(ヤリス)。「小さくて、安い」という点に価値が置かれていた当時のコンパクトカー市場において、デザインや品質、衝突安全性能や環境性能の高さでライバル車を圧倒し、国内でのコンパクトカーブームの火付け役となっただけでなく、「日本の小型車を変えた」存在として、それ以降の日本のコンパクトカーの進化を牽引してきた。また、海外ではヤリスの名前で欧州、北米、アジアなど世界各国で生産、販売され、世界中の街を走っているトヨタの世界戦略車の1つである。近年、コンパクトカー市場は欧州勢を始めとした海外メーカーのライバル車がひしめき、国内だけでなく世界的に最もホットで競争が激しい市場となっている。そんな中、2010年12月に3代目ヴィッツが国内外からの高い注目を集めて発表された。その開発にあたっては他のクルマとはまた違った強烈なプレッシャーと苦労があったはずである。その話を聞くべく、トヨタ第2開発センターに山本博文チーフエンジニアを訪ねた。

山本博文
山本博文
1981年トヨタ自動車工業入社。
ボデー設計部にて約10年間、セリカ、スープラなどのアッパーボデーの設計、フラットフォームの開発などを担当後、安全実験部に異動し、衝突実験を担当。
自らがかかわっていたカムリの評価などをおこなった後、約2年で製品企画セクションに異動。ターセル(台湾)、ソルーナ(タイ)、ヤリス(フランス)、ヴィオス(中国)、アイゴ(フランス)、オーリス(トルコ、イギリス)など、海外で生産する小さなクルマを中心に担当してきた。チーフエンジニアとしては前任者から引き継いで開発途中から担当したブレードに次いで、新型ヴィッツは2台目のクルマとなる。

小さなクルマの開発は自分の性分に合っている

もちろんクルマは大好きですが、私は子どもの頃から飛行機が好きで、上空を飛んでいる飛行機のエンジン音を聞けば機種が分かるくらい飛行機オタクでした。ですから大学では航空工学を学び、流体力学を専攻し、将来は飛行機のパイロットか設計者になりたいと思っていました。いまでも飛行機は大好きで、休日にプラモデルを作ったりしています。

大学の研究室では就職先として、大きく国内の航空機メーカー、航空会社、自動車メーカーの3つの進路がありました。そこでそれぞれの会社を見学したのですが、航空機メーカーの現場はとてものんびりしているように感じました。それに対して、自動車メーカーの工場ではものすごい勢いでクルマが作られていて活気があった。「日本の経済は自動車が引っ張っている」と考えてトヨタに入社しました。そういう入社の経緯からして、量産車の開発は自分の性分に合っているようです(笑)

ボデー設計部、安全実験部を経て、製品開発のセクションに異動。最初に担当したのが台湾で生産するターセルの開発でした。その後もタイでのソルーナなど小さなクルマばかり、しかも海外で造るクルマを中心に担当してきました。

小さいクルマを開発する上で大変なのは限られた予算をいかにやりくりして、新しい技術や魅力ある装備を盛り込むかということです。とくにヴィッツなどコンパクトカーが属している Bセグメント* のマーケットは世界的にライバルが多く、熾烈な開発競争が繰り広げられています。また、近年はワンクラス上のCセグメントからダウンサイジングで乗り替えるお客様も多く、その分、クルマのサイズが大きくなり、高級化していっています。外装、内装のデザインや質感、走行性能、安全性、燃費性能などどこも手を抜けません。当然のようにライバル車を上回る高い品質や性能が求められます。それらを限られた予算の中で実現していく訳ですから、大変なのです。

長年、そんなクルマばかり開発してきたので、「いくらお金をかけてもいいからいいクルマを作れ」といわれたら逆に困ってしまいます(笑)。最初は「絶対に無理だ!」と思っていた数ある高い目標をみんなで知恵を出し、悩み、苦労しながら1つ1つクリアしていく。そこにエンジニア冥利を感じます。しばしば「山本さんはM気質ですね」といわれますが、小さなクルマの開発は、ちょっと貧乏性なところがある自分の性分に合っているみたいです。

山本博文
山本博文
1981年トヨタ自動車工業入社。
ボデー設計部にて約10年間、セリカ、スープラなどのアッパーボデーの設計、フラットフォームの開発などを担当後、安全実験部に異動し、衝突実験を担当。
自らがかかわっていたカムリの評価などをおこなった後、約2年で製品企画セクションに異動。ターセル(台湾)、ソルーナ(タイ)、ヤリス(フランス)、ヴィオス(中国)、アイゴ(フランス)、オーリス(トルコ、イギリス)など、海外で生産する小さなクルマを中心に担当してきた。チーフエンジニアとしては前任者から引き継いで開発途中から担当したブレードに次いで、新型ヴィッツは2台目のクルマとなる。

* Bセグメント:セグメントとは、主に欧州で用いられる乗用車のクラス・区分を分類するカテゴリーの1つ
基本的にはボディサイズや車格を基準とした分類になり、ヴィッツやbBがBセグメントにあたる

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