理に適ったカタチは美しい。 [プリウスα 粥川宏 開発責任者](1/2)

世界初のハイブリッド・パワートレーンによる30km/L超という圧倒的な低燃費を実現した初代プリウス。そして、その基本価値をさらに進化させるとともに、乗り心地や使い勝手、さらには格好良さ、ドライビングプレジャーなど、クルマ本来の使用価値や感性価値を向上させ、ハイブリッドカーとしての一つの完成形となった2代目プリウス。そしてその正統進化としてそれらすべての性能や価値をさらに高め、同時に、「ハイブリッドカーを特別なクルマではなく、普通の大衆車に」をテーマに、ハイブリッドカー・ユーザーの裾野を拡大することを使命として託された3代目のプリウスたち。2009年に誕生した3代目長男の現行プリウスは祖父や父から受け継いだ使命を見事に果たし、同年のカーオブザイヤーに輝くとともに、時流に乗って、カローラの年間販売台数を20年ぶりに塗り替え、エコカー時代の寵児となった。そして、世間の注目の中、登場した3代目次男、プリウスα。このクルマもまた、兄と同じく正統派プリウスの系譜を引き継ぐ“トヨタが提案する未来のクルマのカタチ”の一つである。この誕生によりプリウスは“一子相伝”の時代から“プリウス・ファミリー”の時代へと移行する。そしてそれは同時に、新しい時代のスペース系車両の誕生でもある。そのプリウスαの開発を企画段階から開発主査として担当してきた粥川主査をトヨタ第1開発センターに訪ねた。

新しい時代のスペース系車両を目指して

粥川宏
粥川宏
1984年トヨタ自動車入社。
初代レクサスやスープラなどさまざまなクルマのボディ設計を担当。その後、東富士研究所でアルミを使った環境対応の小型軽量車の先行開発に従事、2001年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー・ES3(イーエスキュービック)の開発に参加。その後、ボディー計画室長としてフラットフォーム開発を指揮。その傍らで、愛知万博i-unit開発に参画。2006年より製品企画担当に異動し、プリウスαの開発主査となる。

プリウスαっていうのは、ただ単に、プリウスの車体を伸ばしてワゴンタイプにしたクルマ。もしかしたら、そんな風に理解されている人も多いかと思います。でも、実際に乗り比べていただけると一番よく分かっていただけると思いますが、全く性格の違うクルマなんです。
例えば現行プリウスの運転席はコックピットのように囲まれて「さあ、走るぞ!」という気持ちになるレイアウトになっていますが、プリウスαの場合はインパネのデザインが横基調になっていて、横への広がりを感じるレイアウトになっています。ヒップポイント高は現行のプリウスに比べて、運転席で30ミリ、後部座席では80ミリ高くなっていて、その分、乗り降りが楽にできるようになっています。しかも、天井高も高く後部座席でも十分な開放感があります。窓の位置も違っていて、後部座席でも広い視野を確保しており、大人数でドライブを楽しみことができます。
さらに、走りにおいても現行プリウスは徹底的にクルマ本来の運動性能を高めることを追求していますが、プリウスαが重視したのは乗り心地と静寂性です。振動を抑える高剛性ボディに吸音材、制振材、遮音材を最適配置。さらに、ばね上制振制御により路面からのピッチ挙動を低減。また、風切り音が少なく、社内の評価部署からも「風切り音は高級車並みだね」といわれました。これにより、広い車内の中でも会話が弾み、ロングドライブを大人数で楽しめるようになっています。
また、デザインにおいても、現行プリウスと似ているようでいて、実際に横に並べてみると、全然、違う。同じ親から遺伝子を受け継いでいるので、よく似ているように見えて、実は顔も性格も全く違う。それはまるで人間の兄弟のようです。
その違いはどこから来るのかというと、それはひとえに、ターゲットとするお客様の違いから来ているものです。

粥川宏
粥川宏
1984年トヨタ自動車入社。
初代レクサスやスープラなどさまざまなクルマのボディ設計を担当。その後、東富士研究所でアルミを使った環境対応の小型軽量車の先行開発に従事、2001年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー・ES3(イーエスキュービック)の開発に参加。その後、ボディー計画室長としてフラットフォーム開発を指揮。その傍らで、愛知万博i-unit開発に参画。2006年より製品企画担当に異動し、プリウスαの開発主査となる。
  • プリウスα
  • 3代目プリウス

プリウスαは兄貴分の現行プリウスと同様に“ハイブリッドカー・ユーザーの裾野を拡大する”ことを命題として開発が始まりました。スタートは06年ですから、現行プリウスよりちょっと遅れてのスタートですが、同じグループの中で机を並べ、並行して開発を進めていました。ちなみに同じグループには昨年デビューしたSAIのチームもありました。
現行プリウスはご存知のようにかなりパーソナルユースに振ったのに対し、プリウスαはファミリーやグループでの利用、さらには買い物やレジャーなどでの利用を中心とするお客様、そして、アクティブシニア層をターゲットにしています。つまり、ミニバンやステーションワゴンなどスペース系のクルマをご利用いただいているお客様です。本当はもっと燃費のいいクルマに買い替えたいけれど、たくさん人が楽に乗れて、荷物も運べるこうしたスペース系のクルマの使い勝手や居住性、開放感は捨てがたいと考えられているお客様です。
現行エスティマやアルファードにもハイブリッドの設定はあり、環境保護に対する意識の高いお客様に高く評価いただいています。しかし、とにかく値段が高い。もっと手ごろな値段で手に入るスペース系のクルマでしかも、プリウスの遺伝子を受け継いだ圧倒的な低燃費(30km/L超)を実現する。ミニバンなどの使い勝手や居住性はそのままに、圧倒的な低燃費を実現する。そして、かっこいい。私たちが目指したのはそんなクルマです。
しかし、その実現は容易ではありません。単純にプリウスの車体を大きくして、たくさんの人が乗れて、荷物が積めるスペースを確保するだけでは、車体の重量が重くなり、空力性能も悪くなり、到底、プリウスが求める低燃費は実現できません。つまり、現行プリウスの開発の延長線上には私たちの求める解はなかったのです。
私たちが目指しているクルマを開発するためには、いったんプリウスから離れて、全く新しいスペース系のクルマを開発するという発想が必要でした。