新型カローラフィールダー/アクシオ 開発責任者 安井慎一氏に聞く

「ベストセラーカー」復権への新たなチャレンジ

2012年に、日本の道、生活様式にジャストサイズな使い勝手が良く、安心・安全なクルマを目指し、11代目にモデルチェンジしたカローラフィールダー/アクシオ。 
カローラは、今や世界150ヶ国で販売されるグローバルカ―であり、1966年の初代モデル以来、累計販売台数4,000万台を超えるベストセラーカーである。しかし、国内では、ハイブリッドカーの台頭、プリウスやアクアが月間販売台数2万台規模で売れる中、カローラは11代目にモデルチェンジしたものの販売台数6千台規模に苦戦を強いられる。その後、2013年新たにハイブリッドモデルを追加し、販売台数を1万台規模に回復させた。 
2008年以前は国内販売台数トップとして君臨し続けてきたカローラの国内での「ベストセラーカー」復権への新たなチャレンジとして、ビックマイナーチェンジが2015年3月に行われた。今回、どのようにビックマイナーチェンジされたのか、開発責任者を務めた安井慎一エグゼクティブチーフエンジニアに話を聞いた。

11代目カローラは、使い勝手の良さを追求したものの…

カローラというクルマは、国内だけでなくグローバルに展開しており、11代目のカローラの開発は、2012年の国内を皮切りに世界各国で行われ、今年(2015年)に入って、最後にベネズエラの工場が立ち上がり、ようやく一通りの開発が終わったところです。また、既に、次期のモデルチェンジの話も上がっていて、ずっと継続的にやっていくのがカローラの開発です。

そんな中、国内向けの11代目のカローラについては、当初、日本の事情に合わせて、狭い道でも運転がしやすいよう5ナンバーサイズに抑えながらも大人4人が快適に乗れる、また、運転のし易さに考慮して視界を広くとれるように様々な工夫を凝らし、使い勝手の良さを追求しました。

ただ、一方で、国内には歴代のカローラを乗り継いでいただいているお客様、カローラファンの方がたくさんいらっしゃって、そのお客様の年齢が上がってきていたこともあり、スタイル面は若干、保守的なものになってしまいました。 
実は、11代目カローラのキーワードは、「ワクワク、ドキドキ」でした。海外でのカローラは、「ここまでやるのか」と言っていただけるくらい大きく変え、かなりスポーティなデザインにしていたのですが、国内だけは最終的に少し「ワクワク、ドキドキ」しない感じのスタイルになってしまったのかと思います。

2012年の発売後、全国を回って、お客様やトヨタの販売店の方に11代目のカローラについてご意見を伺ったところ、使い勝手の良さについては好評であったものの、一部の販売店の代表者の方からは大変厳しいコメントを頂きました。
「とにかくもっとスタイリッシュにしてほしい」、「何故、ハイブリットを出さないのか?」ということでした。

スタイルについては、カローラを買っていただけるお客様の年齢が上がってきているとは言え、お客様のマインドは‘ヤング・アット・ハート’なのですね。もっと格好いいクルマが乗りたい、若々しいスポーティなクルマが乗りたい、そういったお客様や販売店のみなさまの声を頂きました。

ハイブリッドについては、2013年8月に投入し、2012年のフルモデルチェンジを上回る反響となり、一気にどんと販売台数が伸びました。CMにはSMAPの木村拓哉さんを起用し、「ハイブリッドジーンズ」というメッセージを打ち出しました。これは、ジーンズがお洒落で、それでいて気取ってもいなくて、若者から年配の方まで幅広く受け入れられていることから、カローラにもそういったイメージを持っていただけたら、という思いでしたが、このCMもみなさまからご好評頂きました。

今回のカローラマイナーチェンジのエグゼクティブチーフエンジニア(開発責任者)の安井慎一氏

スタイルをエモーショナルでスポーティ・モダンな方向に大幅進化

今回のマイナーチェンジでは、まずは、よりスタイリッシュでエモーショナルな外観にして、より若い方にも受け入れられるものにしました。通常のマイナーチェンジでは、フロントグリル、バンパー、リアコンビネーションランプあたりを変更するくらいなのですが、フード、フェンダー、バックドアまで大幅にデザインを変更しました。

11代目カローラのデザインへの評価をもう少し詳しく販売店の方に聞いてみると、「ずんぐりむっくりしていますね」、「アクシオの後ろ姿は、下部がきゅっと絞られていて車格感も落ちたように見えますね」とのことでした。 
それを払拭するために、フェンダーのタイヤ上部の丸みを水平方向にスッと抜けるようにサイドを強調しました。また、フロントグリルを薄くよりシャープにするとともに、フロントバンパーの開口部をワイド化し、かつ、フロントの先端を30㎜伸ばし、伸びやかで切れ味のあるデザインに変更しました。ただ、回転半径はそのままで、カローラの特長である、取り回しの良さはキープしています。 
後ろ姿についても、フィールダーは、リアコンビネーションランプの形状を変更するとともに、LEDを横一線に光るようにし、水平方向へ流れるデザインにしました。アクシオは、リアのバンパーの造形を変更し、下部をワイドに、しっかりと幅が感じられるデザインにしました。 
フィールダーはスポーティな方向に、アクシオはモダンな方向に大きく進化できたと思います。

フロントグリルはセンターを強調したシャープな造形を採用。低重心のフロントバンパーに特徴的なロアグリルを採用し、スタイリッシュな表情を演出。フードからフェンダー、リアへ抜ける水平軸の強調により、伸びやかな印象へと大幅にリファイン (写真提供元:レスポンス ((株)イード))
ロアグリルを拡大したフロントバンパーと、アッパーグリルからヘッドランプへ連続したメッキ加飾により、左右への広がりを強調 (写真提供元:レスポンス ((株)イード))

トヨタ初、衝突予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense C」を設定

今回のマイナーチェンジの2つ目の強化ポイントは、衝突予防安全装備の設定です。トヨタ初となる予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense C」を今回の新型カローラから導入しました。

ハイブリッドを2013年に出した後に、あらめて全国を回ってお客様や販売店にご意見を伺った際に、「ハイブリッドを追加してくれてありがとう」と言っていただいた一方で、「止まる機能をトヨタはやらないのか?他社が軽自動車にも設定しているのに」との声をいただきました。 
お客様が販売店に来店される際、みなさん、ご家族で一緒に買いに来るわけです。その時に、息子さん娘さんが、万一、自分の父親が運転中に発作でも起こしてブレーキを踏めないとか、体力・視力の衰えにより誤った操作をしてしまうのではないか、ということを心配され、「衝突防止の機能がないと買わない」と、他社に流れてしまうケースがある、という意見をいただきました。また、法人のお客様にも安全装置が無いクルマは買ってもらえないという声も時折聞きました。 
それならば、カローラから、予防安全の機能を採用するよう、社内で調整し、導入を実現しました。

「Toyota Safety Sense C」は、カメラとレーザーレーダーという異なる特性の2つの検出装置で前方を監視して、事故、衝突を回避・軽減支援するシステムです。それと、‘レーンディパーチャーアラート’(間違えて車線をはみ出しそうになった時に警報を出す機能)と‘オートマチックハイビーム’(暗い道路での視認性を向上する機能)の3点をセットにしたシステムで、衝突回避支援パッケージとなっております。 
上級グレード、中級グレードに標準装備をしており、また、ハイブリッド車、エンジン車それぞれのベーシックグレードでもオプション設定しています。

衝突しそうな場合に、警報を発して回避操作を促し、約30km/h~80km/hで走行中にブレーキを踏むと、強力なブレーキアシストが作動。仮にブレーキを踏めなかった場合でも、自動ブレーキが約10km/h~80km/hの車速域で作動し、約30km/h減速し、衝突回避支援する。

エンジン車の燃費性能を、初代プリウス並に向上

今回のマイナーチェンジの3つ目のポイントは、1.5Lのガソリン車の燃費向上です。JC08モードで、フィールダーで23.0km/L(従来差+1.8km/L)、アクシオで23.4km/L(従来差+2.0km/L)を達成しました。 
今回、エンジン自体を新たに開発しました。NRというエンジンの型式は変わっていないのですが、2013年にヴィッツ・パッソで導入した新しいNRの1.3Lエンジンをベースに、排気量を1.5Lに拡大し、様々なデバイス、システムを入れ、燃費性能を向上しました。アイドリングストップも標準化しております。 
エンジン車の燃費向上についても、お客様や販売店のセールススタッフの方から、「ハイブリッドには手を加えるが、エンジン車は良くしないのですか?」という意見を多く頂き、これに答えようと取り組みました。 
新型カローラの1.5Lエンジン車の燃費は、実は、17年前に出した初代プリウスの燃費と同じぐらいのレベルなのです。17年かけて、エンジン車もここまで燃費向上することができました、ということです。

また、ハイブリッド車も改良を施し、JC08モードで、フィールダー/アクシオともに33.8km/L(従来差+0.8km/L)を達成しております。

以上の3点が、新型カローラの強化ポイントになります。

もう一度、時代をけん引するクルマへ

私は、カローラを担当して10年以上経ちますが、カローラとは、初代の開発責任者の長谷川龍雄の言葉「地球人の幸福と福祉のためのカローラ」を念頭に、カローラの特長である‘使い勝手の良さ’‘安心・安全’‘高品質’を大切にしながら、その時代のお客様の声、ニーズに対応した新しい価値を創造し、今日まで造り続けてきました。カローラというクルマは、お客様に育てていただいているブランドとつくづく感じております。

その結果として、長い間、国内販売No.1を獲得し、今では世界のベストセラーカーとして、全世界累計販売4,000万台を突破しました。ここ数年は、国内販売では苦戦を強いられているものの、カローラにハイブリッドモデルを投入後、2014年に車種別で国内4位にまで回復しました。まだまだ道半ばではありますが、今回の商品強化で、国内No.1を取り戻す布石としたいと思っております。

今までずっと支えてきて頂いているカローラファンのお客様はもちろんのこと、一人でも多くのお客様に新型カローラにお乗りいただき、今まで以上にご愛顧いただくことを心から願っています。

安井 慎一
安井 慎一
1963年愛知県生まれ。明治大学理工学部大学院修了後、1988年にトヨタ自動車入社。入社後は、エアバッグ/シート/シートベルトの設計を担当。1997年に製品企画部に異動し、ファンカーゴ、初代bB、初代イストの製品企画を経て、2002年に10代目カローラのコンセプトプランナーを担当し、以来、カローラシリーズの製品企画を務める。10代目、11代目カローラの海外向けのチーフエンジニアを担当し、2013年には日本国内も含めた全世界カローラのチーフエンジニア、2015年4月よりエグゼクティブチーフエンジニアを務める。世界中のカローラの製品企画を担当するにあたり、その国々の道路事情や運転マナーを知るため、海外出張の際にはできる限り自分自身でクルマを運転することをモットーにしている。北米や欧州をはじめ、道路事情の過酷なインド、パキスタン、中東など様々な国で、実際に運転経験を持つ。
趣味は、マリンスポーツ、ゴルフ、読書。マリンスポーツでは、船舶免許を持ち、特に、ウィンドサーフィンが好き。但し、最近は、年数回行けたらいいくらいとのこと。読書は、海外出張時の移動時間に読むことが多く、もっぱらビジネス本、商品企画に繋がる他業界の事例を探っている。印象に残っている書籍は、山崎豊子の「沈まぬ太陽」。ご自身、インド、パキスタンへの滞在が多く、小説の主人公が同じ場所に滞在していたことからも親しみをもったのだそう。
現在の愛車は、カローラフィールダーハイブリッド。愛車遍歴は、学生時代は日産パルサーを中古車で購入。入社後は、カリーナED、3代目ソアラ、ランドローバーディスカバリー、スターレット、アウディA4アバンテ、VWゴルフトゥーラン、プジョー207、エスティマハイブリッド、そして現在のカローラフィールダーハイブリッド。色々なタイプのクルマや、普通と少し違うクルマに乗りたいという思いから、様々なクルマを乗り継ぐ。

[ガズ―編集部]