新たに心地良い居場所が出来た ~ニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦 土屋武士選手~

先般の東京オートサロンで、TOYOTA GAZOO Racingは、12回目となるニュルブルクリンク24時間耐久レースの参戦発表を行いドライバーラインナップをお披露目しました。そのメンバーの中に、土屋武士さんのお名前がありました。以前から彼の仕事ぶりも存じ上げておりますが、このプロジェクトには適任!と思ってしまう自分がいます。特に今、土屋選手(呼び方になぜか照れが入ってしまいますが…)はドライバーを引退し、職人しておりますからね。チームをとりまとめる役目も充分。「寝た子を起こした」というオファーだったそうですが、その土屋武士選手にお話を伺いました。彼らしい言葉の数々に、今もずっと変わらない彼の人となりを見ましたね。それでは、どうぞ。

―――オファーがあった際のお気持ちを聞かせてください!
土屋:まじですか?レース出るんですか?カラダ鍛えなくちゃ!と、思いました。一度、ドライバーとしては引退していますので寝たコを起こしたという感じでした。もちろん、うれしかったですがレースに出るというドライバーの立場よりも、エンジニアだったりメカニックだったりのクルマ開発に関わることができる!という気持ちの方が強く、チームづくりもと言ってくださって非常に光栄に思っています。普段、全部それを自分でやっているので、経験を生かすことが出来ると思っています。

―――参加するこの活動についてのご自身の見解をお聞かせください
土屋:トヨタ自動車の関わるレースですから、ワークスなのかもしれないけれど、自分は組織は大きいけれどプライベーターだと考えています。このプロジェクトにしか関わっていない方との仕事は、レース業界の職人さんと同じ。気を遣うこともなく接することができます。人を鍛えクルマを鍛えるというTOYOTA GAZOO Racingが積み上げて来た活動は、自分がやって来たこととリンクしますので、共感できるので肩ひじ張らずに、この仕事に集中し活動できる状況です。

遣り甲斐もありますが何より責任は重大です。しかし、これが未来のトヨタ自動車が作るクルマに生かされると思うと、多少なりとも社会貢献ができるのでうれしいですね。レースに勝つことも大事だけれども、良いクルマを作ってみなさんにお届けできる“お手伝い”ができる、中々できない経験です。まだ始まったばかりですが、ガレージに足を運んでいます。テストも始まっています。今は、レーシングドライバーとしてではなく、ただのクルマ好きとしてジョイントさせていただいてますので、ただただ楽しいですね。この楽しさは、きっとクルマに反映されると思います。

―――ドライバーからエンジニア・監督業に転身されましたが
土屋:SUPER GTを含め今までの自分は、自分で乗って自分で作って自分で考えて走らせてをやって来ました。今のGTのクルマは、今まで乗った中で、ものすごく乗りやすいものに仕上がりました。実際に走らせてもGT300クラスでチャンピオンも獲っていますので、おわかりいただけると思います。しかし、未だにデータロガーを見ていないんですよね。「根拠」を持ってクルマづくりをしているので、自分の中では積み上げているだけなんです。

その結果、こんな事が起こるんだ、こんな事がわかるんだということを今までの24年間でやって来ましたが、25年目に入りわかることがもっと増えました。それは、ドライバーの立場からクルマを降りエンジニアになって、一年クルマづくりに集中したからだと思います。起こすアクションに対し、分析すると答えが一つ見つかります。答えは、もっとあるはずですが…。この答えは、ドライバーとして乗っていてエンジニアをしている人にしか絶対にわからない「景色」がそこにあったんです。この年末にしみじみ感じましたね。やればやるほどこの「景色」が見えて来ました。そうすると、土屋春雄(実父で元監督)の言う景色が見えて来たんです。具体的にコレという感じではなく…。昔の人は、何かにつけ同じことを言い続けていましたが、それがわかるようになりました。

―――走りたくならない?
土屋:常に頭の中で走ってます!自分の代わりに若いドライバーたちが、とんでもないタイムを出してくれますからね。自分にプレッシャーがかかることなく、そんなことをしてくれる後輩たちがいてくれるので、それで満足です。若い人たちに走ってもらって、自分はまた積み重ねていく…、脳内で走り続けます。

―――最後に
土屋:うちのチーム(つちやエンジニアリング)を傍から見ていればわかると思いますけど、みんな好きなことばかりやっていて楽しそうでしょ? レースの古き良きカタチが、業界では絶滅危惧種みたいなうちのチームには存在します。大自動車メーカーのチームがそれを求めてくれたことが驚きですが、それをお裾分けできればと考えています。

自分はレースでは好きなことをやればやるほど、煙たがられているので肩身が狭い思いをしていました(笑)。TOYOTA GAZOO Racingのこのプロジェクトに参加できることで、自分にとって居心地の良い場所ができ幸せです。頑張りますので、よろしくお願いします!


クルマは進化しても、職人さんたちのクルマづくりを楽しむ古き良きカタチが、レース業界は沢山あったけれど、それが今はなくなって来ているという武士さん。そのお話は、またいつか伺いましょう、語ると3時間くらいかかるそうなので…。頑張れば頑張るほど煙たがられるというお話に、その姿を想像して笑ってしまいました。それはきっと職人の宿命な気もします。それだけ仕事に集中して良いものを作るからですよね!ずっとお父様の代から変わらずにいる自身のチームの良さ、町工場のチームの良さを、TOYOTA GAZOO Racingに反映しつつ、世界の大舞台で頑張って欲しいですね。きっと長くこのプロジェクトに関わっていくのではないかと想像しましたね。

また、中山雄一選手の初参戦も発表されました。「10年間ドライバーをやって来て、初めてTOYOTA GAZOO Racimgのメンバーになることができました。これまでと違い、もっと良いクルマづくりというコンセプトで開発の部分に携わる事ができるのがうれしいです。土屋武士さんは、育成プログラムに参加した当時からの先生。諸先輩方と共に新しいチャレンジを頑張ろうと思います」とコメントをくれました。

5月12日(土)~13日(日)第46回ニュルブルクリンク24時間耐久レースに向けたみなさんの頑張りに期待ですね!楽しみにしてますね!ありがとうございました!

(写真 折原弘之、テキスト 大谷幸子)

[ガズー編集部]