2連覇、ワールドチャンピオン、偉大な戦績を凌駕する涙 ~ル・マン24時間の感想文~

終わりました、ル・マン24時間。終わった直後ですので、ドライバーのコメントなども見ず憶測だけで書き始めました、お許しを…。結末がなんとも、ドラマチック。素敵という意味ではなく、終わったあとの中嶋一貴選手の言葉同様、“酷”でした。

24時間のレースで、23時間、レースを牽引してきた TOYOTA GAZOO Racing の7号車。TOYOTA GAZOO Racing の2台には、フロントの部分にトラブルを抱えていたようですが、トヨタワンツーでレースは進んできました。しかし、トップの7号車が残り1時間で緊急ピットイン。原因は、スローパンクチャー。

スローダウンする中、後続の8号車がトップを奪いました。予選で7号車がポールポジションを獲得していて、24時間の長丁場でどうなるかわからないとはいえ、23時間も盤石なレース運びをしてきたというのに…。

都内のメガウェブのパブリックビューイング会場にいた私は動揺。会場も状況がつかめず、ただ7号車がル・マン制覇からどんどん遠のいていくであろう状況に、会場全体も言葉を失いました。

どちらが勝っても、トヨタは連覇。でも、内容的にとっても複雑な気分。頭が真っ白になりましたね。トヨタワンツーも危ういかと思った矢先、コース復帰で、7号車が猛烈にプッシュを開始。チェッカーまで、いろんな感情が渦巻きました。

中嶋一貴選手がどうこうではなく、一貴が言うように7号車が支配する“7号車のレース”でしたから、小林可夢偉選手に、おめでとうと言えるなあと心の中で思っていたんですよね。

可夢偉くんは、一貴同様、元F1ドライバー。スキルは充分にも関わらず、国内カテゴリーで優勝を逃しています。SUPER GTでは昨年勝ちましたが、スーパーフォーミュラは、何度か優勝していたと言っても過言ではありません。それは、自身の問題ではなかったり、天候など他の要因で逃すという悔しい思いをしてきました。ご存知の方も多いと思います。

彼と話した時、「俺はそんな役回りや…」と、あっさり言いのけました。これまで、たくさんあったと…。彼は、誰も責めません。もちろん100パーセント彼のことを知っている訳ではないですが、チームのミスだったりしても、一緒に頑張った仲間に対し、ネガティブな発言をしません。当たり前なのかもしれませんが、言いたくなることもあると思うのですよ、長いキャリアの中で。

今回の悔しさは、ハンパなかったと思います。見ていて辛かったですね。チェッカーが近づくと、8号車のフェルナンド・アロンソ選手、セバスチャン・ブエミ選手の涙ぐむ姿が映し出されました。嬉し涙には、見えませんでしたが、みなさんどう思いましたか? チェッカー後は、元気にしていましたけど、あの心情を勝手に解釈しウルウルきました。誰にも真相などわからないけれど。もちろん、嬉し涙でも可!

チェッカー後の日本から行っている Jスポーツさんのインタビュー。一貴に向けたマイクは、酷だろうと思いましたが、レポーターの高橋二朗さんだってお仕事です。これまでで一番辛かったとツイートしていましたが、見ているこちらも辛かったです。

涙を流し、言葉が出て来ない状況の一貴を見て、ジローさんももらい泣き。これで何やら泣いていいんだよと、正解をもらったような気がして涙腺崩壊しました。見ていた方、涙出ちゃいましたよね?どう?

泣きながら歩いてきた一貴は、インタビューだし、涙を見せないようにしていましたが、チェッカー直後のインタビューですしね…。「酷でした」という言葉が、すべてを物語っていたように思います。ル・マン24時間って、勝者にも試練を与えるんだなあと感じました。これほんと見ていて辛かったです。

一貴は、あの3分前、ノーパワーで優勝を逃した時、ワールドチャンピオンになった時も、人前で涙を見せなかった…。泣かないドライバーなのにと思っていたら、今回は、涙を堪えられない…。パブリックビューイング後にお話ししたファンの方も、同様のことを話してきたんですよね。それだけ、今回の出来事は…心に刺さったと推測できます。チームメイトを慮る(おもんぱかる)気持ち、素敵でした。

可夢偉くんは、サングラスをかけたままインタビューを受けていました。涙が込み上げたのか、そうじゃなかったのか。昼でまぶしいから単にサングラスだったのか、真相はわかりません。

当初、言葉が出てこなかったですよね。その後、「悔しいです…」と一言。頭が混乱している感じにも見えました。母目線で素直に書くと、かわいそうでかわいそうで…。ここは私も冷静になれないとこですね…。ほんと…。ただ、悔し涙というものは、ひとりで流すものだと思っているので、少しそっとしてあげたい気持ちもあります。

 

8号車、トヨタ2連覇、ワールドチャンピオン、おめでたいことです。トヨタワンツーもままならないトラブルに見舞われた今回、ポディウムのメンバーを見て、これも大変なことなんだなと改めて思いました。現在、このカテゴリーにライバル不在なので、いろいろ言われちゃうと思います。私も、気持ち的に若干盛り上がりに欠いていたのは、認めます。

ただ、ライバルたちが撤退したことは、彼らに罪はないので、どうしようもないんだと…。そう気持ちに折り合いをつけることにしました。24時間走り切ることは、確かに難しいことでもあるし。

勝てなかったことでこれまで流した涙がたくさんあって、勝ったことで流した涙もたくさんあって…。ル・マン24時間って何なんでしょう? 日本から他に参戦されたドライバーの方の気持ちにも、読んでいると変化があり、そんな影響をたくさん与えてくれる場所なんでしょうね。世界観が変わるというか。

私も、たった一回だけ現地に仕事で行っただけですが、このレースがますます好きになり、帰国してから語りまくっていたら、語り過ぎて嫌がられ…(笑)。乱暴な表現ですが、鉄の塊(クルマ)に、気持ちが宿り、人々を魅了するレース、世界3大レースを言われる価値がなんとなくわかってきたのかなと。どのレースにも人の気持ちは宿っていますが、100年近く続けてきた、このレースを支えてきた人の気持ちは壮大でしょう。

終わって思うことは、もう一回行ってみたいな…でした。またル・マンに行きたい、戻って見たいなんて、そんな用意されたような文章を書くとは、自分では思っておりませんでした。パブリックビューイングも、ファンの方と話せて、気持ちを共有できて良かったです。ありがとうございました。

チープな言葉しか出てきません。ごめんなさい。軽く語りたくなかったんだけど、適当な言葉が見つからないんです…。嗚呼、私も悔しい。

10月のWEC富士で、ル・マン24時間気分を楽しみたいと思います!みなさんも是非いらしてくださいね!雰囲気からすべて、いつもの富士スピードウェイと違い、海外レースが楽しめますよ!それでは、また!

(写真:トヨタ自動車 / テキスト:大谷幸子)

[ガズー編集部]

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