【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】勝田貴元選手インタビュー、WRCレギュラードライバーに向けてまっしぐら

11月に開かれたセントラルラリーでヨーロッパから「凱旋」してWRカーをドライブ。ファンを大いに沸かせたラリードライバー・勝田貴元。フォーミュラカーレースからラリーに転向した異色の存在で、アグレッシブな走りと明るく愛嬌のあるキャラクターが、多くのファンの心をとらえています。しかしその外見とは裏腹に、「実は病んじゃうタイプ」とのびっくり発言も・・・? 期待の若手の素顔に、彼をカート時代から知るレースアナウンサー・稲野一美が迫りました。

「愛されキャラ」のラリードライバー勝田貴元  でも実は「考えすぎて病むタイプ?」

--11月のセントラルラリー、お疲れ様でした! 久しぶりの日本、しかも地元愛知と岐阜でのラリーはどうでしたか?

勝田:想像していたよりもずっと多くの人が来てくれて、びっくりしました。勝負うんぬんより、あんなにたくさんのお客さんを(クルマの中から)見られたのが、とにかくすごく嬉しかったです!
コースは林道が懐かしかったです。ヨーロッパだと、例えばフランスのコルシカ島のコースにはコーナーが一万ヶ所もあると言われていますが、日本のように小さなコーナーが長く続くところはないんですよ。暗くて狭くて、杉木立が迫ってくる林道を走っていたら、日本に帰ってきたなぁって実感しました。

--WRカーの車載映像見ましたよ。すごく迫力があった!

勝田:日本のコースをWRカーで走ったのは初めてでしたが、ものすごく速くて、一瞬でも遅れると次のコーナーが来ちゃう。全日本ラリーの時のようにコーナーとコーナーの間で次を待つようなタイミングなんて全くなくて、とてもハードでした。

日本らしい町並みを走ったセントラルラリー。
日本らしい町並みを走ったセントラルラリー。

--お祖父様はラリー界の重鎮(勝田照夫)、お父様は現役全日本ドライバー(勝田範彦)と、勝田家はまさにラリー一家ですが、ラリードライバーには昔から憧れていたんですか?

勝田:ラリーマシンはいつも身近なところにあったんですけど、いつか免許が取れたらやってみたいな、というくらいでした。自分で乗れるのなんてすごく先のことだと思っていましたしね。むしろ、幼稚園くらいから小学校四年生までは自転車でオフロードを走るレースのBMXにはまっていました。

--あの、起伏のあるコースを自転車で飛んだり跳ねたりするレース?

勝田:はい、勝つのがとにかくうれしくて、地方大会で優勝するくらいまでいきました。そのころから負けず嫌いというか、「負け嫌い」だったので、練習もすごくしました。体力や体幹はその頃にも鍛えられていたかもしれませんね。

--勝田選手と言えば、2017年のラリー・スウェーデンで、飛距離が全クラス中2位というロングジャンプ(42m)が話題になりました。ひょっとして小さいころから飛ぶのが好きだった?

勝田:あ、そうかも(笑)! 空中姿勢のコントロールとか、自然と考えてましたもんね。それが今、ラリーにもつながってるのかな。「負け嫌い」なところもそのまんまです(笑)

--「負け嫌い」なのはすごくわかる!レーシングカート時代の走りが、まさにそうでしたもんね。じゃぁ、カートに乗り始めたのはその後?

勝田:はい、小学校6年生の時、お父さんが遊びで乗って面白かったからって、僕に勧めてくれたんです。たまたま近くにカートショップがあって、2回試乗したらはまってしまいました。一ヶ月後の初レースからは練習とレースの繰り返し。同世代の子に比べると始めるのは遅かったけど、毎日、学校からバスに乗ってショップに通って、休みはほとんどサーキット。チームに同年代の子が少なかったので、ほぼマンツーマンで教えてもらっていました。

--それが中部の名門チームのひとつ、チームぶるーとさんだったと。

勝田:レースのことはぶるーとの代表、高橋さんに教え込まれました。高橋さんはとても厳しくて、ルール厳守は当たり前。ルールの中であっても、グレーなことは絶対ダメ。チャンスがあれば絶対に攻めろ、アクシデントに巻き込まれるのはドライバーの力不足で、その場にいたお前が悪いんだ、という考え方の人です。この順位でいいか、なんて走りをした時にはもう、めちゃくちゃ怒られました。

--それが戦略であってもダメだ、ってタイプですもんね、高橋さんは。

勝田:そうそう。『ド』がつくほど頑固なんですよ(笑)。高橋さんには「人に感動を与えられるレースをやって、初めて一人前だ」とも言われましたね。その時はよくわからなかったけど、後に、最後尾から全台抜いて優勝したレースを見て感動したんです。それから、自分も絶対あきらめない、守って終わるぐらいなら厳しくても最後まで攻めていこうというレーススタイルになりました。

--勝田君が出ているレースを実況する時は、ファイナルラップの最終コーナーからは目が離せなかったですね!絶対に抜きに来るから、何が起こるかわからない(笑)。そういえば、この前SNSで、当時チャンピオン争いをしていた佐々木大樹選手(GTドライバー)にも「あの鋭いブレーキングは健在?」って聞かれてましたね。

勝田:とにかく攻めてましたからね。懐かしいなぁ。今、あのブレーキングをしたら崖から落っこちちゃうので、封印してますけどね(笑)。あと、物(マシン)のせいにするな、自分に何ができるのかを考えろ、という教えも受けました。4輪では与えられたもので勝負する部分が多いので、特にありがたかったです。基礎ができる時期に、高橋さんの熱い考えが刷り込まれたから、今の僕があるんですよ。

「病んでいた」ラリー転向当初

--そこからフォーミュラカーレースにステップアップし、キャリアを重ねていく中で、2015年にラリーに転向しました。勝田君自身、すごく悩んだと聞いています。周囲の反応はどうでしたか?

勝田:めちゃくちゃ悩んだ末での決断でした。祖父はお前が決めたならいいよという感じでしたが、父は反対でした。レースとラリーの違いを知っているし、まだまだレースでやれることはあるだろうと。親友の平川亮(※編集注/FTRSの同期。現在スーパーフォーミュラやスーパーGTシリーズに参戦中)からは、俺が攻めまくるのを知っているからか、「落ちて死ぬなよ」と言われていました(笑)。

--海外に行ってからはどうでしたか?

勝田: 2016年にフィンランドに行ったんですが、すぐ挫折しました。フォーミュラはタイヤの限界まで攻められるけど、ラリーは道の状態の変化だったり、コ・ドライバーがいたりと、他の要素が多く入ってくる。攻められるところまで攻めたいという思いと、ふっとぶ手前での抑え方がわからなくて、どん底まで落ちました。自分はラリーには向いてないんじゃないかって真剣に考えていましたね。でも、レースのキャリアを捨ててまでラリーに来たんだから戻るわけにはいかないと、とにかく我慢しました。

もともと僕、一見考えてなさそうで、すごく考えすぎる性格なんですよ。だから発言だけでもと、わざとポジティブなことを言っているんです。一見明るくしているけど、内面は病んでるってタイプ。頑固ですしね。意外でしょ?

--全然そんな風には見えない! いつも明るくふるまってる感じで。先輩であるお父様には、相談したりしましたか? 

勝田:しなかったです。父はとても優しくて心配性なので、心配かけたくなくて。相談に乗ってくれる人はたくさんいるんでしょうけど、プライドもあって、自分で抱え込んでしまっていましたね。

ココイチとトイレ掃除がラリー前のルーティン

--そのころ、フィンランドではどんな過ごし方を?

勝田:トレーニングをするか、家でYouTubeを見るかといった過ごし方でしたね。住んでいたのは街だけれど、冬はめちゃくちゃ寒いし、外で遊ぶところなんかないんですよ。
YouTubeでは、格闘技の試合や、選手の密着取材番組を見ます。ボクサーの井上尚弥選手など、ストイックなアスリートが普段何をやっているのか、とても興味があるんです。記者会見を見ていても、本音はどうなのかなって考えてみたり。同世代ということで自分もモチベーションが上がりますし、試合前のルーティンも参考になりますね。

--勝田選手なりのルーティンはありますか?

勝田:あります!カート時代からなんですが、ラリーの前日にはココイチ(CoCo壱番屋)のカツカレーを食べるんですよ。海外に行ってからも、レトルトを買い込んでおいて必ず食べていますね。辛さ?甘口です。台湾ラーメンとか、辛い食べ物は結構好きなんですけど、ココイチだけはなぜか甘口なんですよね(笑)。
あと、トイレ掃除です。出発の前日に、素手で徹底的にやります。たまたま掃除した時に結果が良かったのがきっかけだったんですけど、それ以来、3年間ずっと続いていますね。井上選手も減量する時などは部屋をきれいにするらしいんですよ。やっぱりナーバスになっているときに汚いとイライラするからかな、掃除をするといいみたいなんですよね。結婚してからもこのルーティンは続いています。

サービスパークに帰還し、メカニックとコミュニケーションをとる勝田選手。
サービスパークに帰還し、メカニックとコミュニケーションをとる勝田選手。

結婚して子どもができたことで変わった「流れ」

--結婚といえば、少し前のTGRFで、彼女が来てるらしいよって話題になったと思ったら、あっという間に入籍して、お嬢さんが誕生して。いつの間に?って、びっくりしました!

勝田:子どもが子どもを作って、とか言われちゃうんですけどね(笑)。結婚したのは2017年の12月です。それまでは超遠距離恋愛だったんですよ。僕がフィンランド、留学中の彼女はニュージーランド(笑)。結婚してほどなく子供ができたので、一緒に住みだしたのは今年に入ってからです。

--家族一緒の生活はいかがですか?

勝田:オフのときには、もっぱら娘と遊んでいますね。キッズパークに連れて行ってあげたり、近所を散歩したり。娘と一緒にいるととても落ち着くし、今まで感じたことのないような幸せを感じるんですよ。育児もしますよ。平川も子供が生まれたばかりなんですけど、彼はおむつを換えないらしいんですよ。でも僕はしっかり換えますからね(笑)。実家ですか?もうみんな娘にメロメロですよ。祖父も父も、全滅です(笑)。
実は、奥さんと子どもができたことで流れが変わったなという実感があるんです。よく、良いほうに行くのか悪い方に行くのかどちらかだと言われましたので心配していたんですが、僕は確実に良いほうに行きました。去年はトヨタの育成ドライバーも一人に絞られる時期で、ここで負けたらもう終わりだ、絶対に負けられないという気持ちもありましたが、守るものがあるというのが何より大きかったんだと思います。色んなことに甘えがなくなって、モチベーションが上がりました。それがWRC2での初優勝にもつながったと思います。

セントラルラリーでは多くの日本人ギャラリーの前を凱旋アタック!
セントラルラリーでは多くの日本人ギャラリーの前を凱旋アタック!

期待の2020年。ラリージャパンで勝田選手の走りが見たい!

--WRCといえば、来年はいよいよ日本で開催ですね。見に行きたい人がたくさんいると思います。おすすめの「ラリーの見方」はありますか?

勝田:はい、3つあります。
1つ目はスペシャルステージです。いつもの交差点などを凄いスピードで駆け抜けていくWRCカーの迫力を感じてもらいたいですね。ドライバーや車によって走らせ方が全然違うので、比べてみるのも面白いと思います。
2つ目はリエゾンです。
リエゾンとは移動区間のことで、競技車両も一般車と混じって公道を走ります。2車線の所は並走するので、隣の車から手を振ってもらえたりするんですよ。また、交差点や歩道からの応援が増えるのも嬉しいですね。ラリーを知らない人たちにも、これはファンがいる競技なんだってわかってもらえますしね。
3つ目はサービスパークです。
サービスパークでは、メカニックがマシンのメンテナンス作業をするのが見られます。制限時間が短い中での、正確ですばやい作業は迫力がありますよ。壊れた車を大きなハンマーでガンガン叩いて直してたりね。間近で見ると楽しいのでおすすめです!

2019年WRC第6戦チリにWRC2クラスに参戦した勝田選手は見事クラス優勝! チーム監督のトミ・マキネンと表彰台に上る。
2019年WRC第6戦チリにWRC2クラスに参戦した勝田選手は見事クラス優勝! チーム監督のトミ・マキネンと表彰台に上る。

--最高峰、WRCへのステップアップも見えてきましたか?

勝田:WRC2で勝ったことは本当に大きかったです。トップの世界が体験できました。ラリーに転向してからは、全開の走りを封印し、常に我慢して、抑えて抑えてという走りを心がけてきたんです。父にもそう言われてきたし、実際、コ・ドライバーにも、もっと攻めろと言われたことは一度もないんですよ。みんな、抑えろ、抑えろって、そればかり言うくらい(笑)。だけど、WRCの走りを見たら、一番上はやはり全開で行かないとダメ、抑えていては絶対に勝てないシビアな世界なんだと感じました。だから今では、僕もいつかは全開ギリギリの走りをしないといけない、そしてチャンピオン争いができる位置にいなくてはと強く思っています。

--封印が解ける時を楽しみにしています。最後に、皆さんにメッセージをお願いします。

勝田:来年のラリージャパンまでに、僕自身、まだまだできることがあると思っています。この一年でしっかり取り組んで、ファンの皆様により成長した姿をお見せできるように頑張っていきますので、皆さんもぜひラリーを見に来てください!

--ちなみにその時も、前日はココイチを食べてる?

勝田:もちろんです。カツカレー、甘口です!(笑)

インタビュアーの稲野一美さんは勝田選手のカート時代を見守ってきたお姉さん的存在。
インタビュアーの稲野一美さんは勝田選手のカート時代を見守ってきたお姉さん的存在。

<勝田貴元(かつたたかもと)プロフィール>
1993年3月17日生まれ。愛知県出身
2004年:カートに乗り始める。
2009年:フォーミュラトヨタレーシングスクール(FTRS)スカラシップを獲得。
2011年:フォーミュラチャレンジジャパン(FCJ)チャンピオン獲得。トヨタ・ヤング・ドライバーズ・プログラム(TDP)と契約し、全日本F3に参戦。
2015年:ラリーに転向。
2016年:世界ラリー選手権WRC2クラスに参戦、
2019年12月現在2勝。

<インタビュー・文:稲野一美(いなのかずみ)>
レースアナウンサー。1996年よりレーシングカートを中心にサーキット実況を始め、現在はTOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Raceや全日本カート選手権などを担当。TV・Radio出演多数。モットーは「愛ある実況」。若手ドライバーを「親戚のお姉さん(おばちゃん?)のように」応援している。

(まとめ:ガズー編集部、写真:佐藤宏治、TOYOTA GAZOO Racing)

[ガズー編集部]

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