【ラリージャパンを1000倍楽しもう!】13年ぶりに誕生した日本人WRCドライバー勝田貴元選手をもっと知りたい!(2/2)

日本人ドライバーとして13年ぶりにWRCのトップカテゴリに参戦している勝田貴元選手。
現在はフィンランドでシリーズ再開に向けてトレーニングに励む日々を過ごしているということですが、自粛生活を機にレースゲームやイメトレなど新たに始めたこともあるそうです。
また、TOYOTA GAZOO Racing WRTのチームメイトたちの趣味や性格など、ラリージャパン観戦の際に役立ちそうなウラ話まで!?
前回に引き続き、モータースポーツジャーナリストの古賀敬介さんによるインタビューで、勝田選手にいろいろお話を伺いました!

レースゲームや街中の運動器具で自主トレ! ペースノート作りはリモートワークで!?

ーー現在、新型コロナウイルスの影響でWRCはシーズンが中断しています。勝田選手が住むフィンランドでは、ラリーカーを走らせることができないようですが、毎日どのように過ごしているのですか?

勝田:パーソナルトレーナーのヘイッキ・フオビネンと一緒に、ほぼ毎日フィジカルトレーニングをやっています。以前はジムでもやっていましたが、今は基本的に屋外ですね。
以前からフィンランドには、公園や空き地に筋トレをするための屋外アスレチック施設があったのですが、このような状況になってさらに増えています。子供が遊ぶためのものではなく、本気で体を鍛えるためのもので、僕の家から2分のところにもあるんですよ。
あとはランニングをやったり、マウンテンバイクで走ったり、家の中では「クロストレーナー」を使い疑似ランニングや体幹トレーニングもしています。
空いた時間にはシミュレーターやドライビングゲームをやったり、家族との時間に費やしたりしていますね。

ーープロのレーサーやラリードライバーは、みんなオンラインゲームやシミュレーターに力を入れていますね。

勝田:ラリーカーで走ることはできないので、シミュレーターやゲームで、できるだけ感覚を鈍らせないようにしています。もちろん、実車とは違う部分はありますが得るものも多いんですよ。
ゲームを始めた直後は、現実とのギャップで変な感覚になってしまうのがイヤで、少し不安もあったのですが、新たな発見もありました。
自分が作ったペースノートの情報はラリー中でも自然に頭の中に入ってくるので、聞き逃してもすぐにフォローできます。
いっぽうで、ゲームで使われているペースノート情報は、自分で作るものとは全然違っていて、しっかり音声を聞かないとまったく頭の中に入ってこないんですよ。
でも、情報を聞きながら道のイメージを作り、対処や調整をするという作業自体は実際のラリーと変わらないので、ドライビングトレーニングというよりは、イメージトレーニングとして活用していますね。

 

ーーなるほど。ご自宅ではどんなドライビングゲームをしているのですか?

勝田:ラリーゲームだとWRC8、ダートラリー2.0、リチャード・バーンズ ラリー。レースゲームはグランツーリスモ・スポーツとiRacingですね。
僕はまだゲームを始めたばかりでヘタッピですが、オンラインでプロのゲーマーさんと戦ってみると、これは本当にひとつのスポーツだなと思います。戦いの組み立て方も本当の競技にひけをとらないくらいレベルが高く、レース運びもとてもクリーンですね。
ラリーゲームでは、リチャード・バーンズ・ラリーがもっとも実車に近い気がします。かなり古いソフトですが、やってみてビックリしました。

----いまだに人気が高く、PC版はユーザーが独自に改造を施し進化しているようですね。

勝田:あと、ペースノートに関するトレーニングも続けています。
今、WRCで一緒に組んでいるコ・ドライバーのダン・バリットは、イギリスに住んでいてこちらに来ることができないのですが、以前に組んでいたコ・ドライバーのマルコ・サルミネンや、ミッコ・マルックラ(テーム・スニネンの元コ・ドライバー)に付き合ってもらい、今は使われていないけれど、昔WRCラリー・フィンランドで使っていたステージに行ってペースノートを作る練習をしていたんです。
マルコは、彼が住んでいるところからクルマで5、6時間もかかるのに、わざわざ来てくれました。

ーーこういう時に昔の相棒が助けてくれるというのは、いい関係が続いている証拠ですね。

勝田:本当にいい人たちに恵まれています。でも、1ヶ月くらい前から、新型コロナの影響で僕が住んでいるユバスキュラ方面に彼らが来れなくなってしまったんです。
仕方がないので、ひとりでステージに行って、最初は道の状況を自分で喋ってボイスレコーダーに録音し、2回目に走る時はその録音音声を車内に流し、それに従って走ったりしていました。ただ、それだとなかなかタイミングが合わず結構難しかった。
そこで、クルマにライブカメラを前向きに装着して、その映像をイギリスにいるダンに見てもらいながら、僕の声を聞いてペースノートを書いてもらって、2日目に走る時には映像を見ながらペースノートを読んでもらうようなトレーニング方法を試しました。
電波の関係でやはり少しラグがありましたが、ダンがすぐに対応して早めにノートを読むようにしてくれたので、とてもやりやすかったし、非常に良い感触でした。

ーー究極のリモートワークですね! ラグを見越してノートを読むなんて、さすがダンはWRCコ・ドライバー。そもそも、その方法を思いついたのも凄いと思います。

勝田:実はそのアイデアは、トレーナーのヘイッキが考えてくれたんです。彼は以前F1ドライバーのパーソナルトレーナーをやっていて、セバスチャン・ベッテル、アレックス・アルボン、ピエール・ガスリーといった選手をみていました。ラリーのことは全然知らなかったんですけど、だからこそ発想が柔軟で、僕らが思いつかないような方法を提案してくれるんです。
ペースノートを作る感覚が鈍ってしまうと、実際にラリーが再開してレッキ(=コースの事前下見走行)をする時、ペースノートの最初の部分の精度が落ちてしまうかもしれないですからね。再びラリーが始まる時に備えて、準備をしておかなければならないし、現状を維持するだけでなく、向上させなければならないんです。

ーーそこが他のモータースポーツと大きく違う点ですね。ラリーはコ・ドライバーとふたりで戦う競技だし、ペースノートの情報が非常に重要だから、運転のトレーニングだけでは不十分なんですね。

柔軟性アップから愛妻料理まで!過酷なレースウィークを乗り切るための秘訣は?

ーーレッキの話が出ましたが、ラリーはステージでタイムを競う競技期間だけでなく、その前のレッキ期間も長いですね。

勝田:はい。ステージを走る日数は、例えば全日本ラリーだと2日ですが、WRCでは3、4日とさらに長い。ペースノートを作るためのレッキも2、3日設定されていて、全部合わせると丸々1週間になります。
例えば、開幕戦のラリー・モンテカルロは月曜日からレッキが始まるので、現地に入るのは前週の土曜日か日曜日です。さらに遠い南米大会の場合は、時差もあるので体を慣らすため金曜日に現地に入ります。

ーー僕も取材をしていて感じますが、WRCはスケジュールが本当にタイトですよね。

勝田:レッキでは、ペースノートを作りながら、同時にオンボードカメラでステージの映像を記録し、夕方レッキが終わるとホテルに戻って、作ったペースノートとオンボード映像を照らし合わせます。その作業が終わって寝るのは夜11時くらいで、それを2、3日やったあとにようやく本番。そこから3、4日走るわけです。ラリーを始めた最初の頃は、レッキ1日だけでクタクタになり、思考停止していました(笑)。それくらいレッキは集中力が必要ですし、ペースノートはラリーにとって命です。どれだけ運転が上手いドライバーでも、ペースノートがダメだったら速く走れない。いかに、レッキの時に完成度が高いペースノートを作るかが重要なんです。

ーーラリードライバーは、本当に大変な仕事だと思います。

勝田:コ・ドライバーの仕事量もハンパないです。彼らの仕事はラリーが始まる前から始まり、どこをどう曲がるかなど詳細に記されたコマ図が並ぶ「ロードブック」を、本番でミスコースしないように、ナビやGoogleマップ等と比較しながら全部チェックするんです。例えコ・ドライバーがミスをしなくても、ロードブックに記された距離などが間違っていることもあるので。
チームとのやりとりも主にコ・ドライバーがやりますし、ラリー前、ラリー中の仕事量は、僕が「ヤバいな、僕には絶対にできない」と思うくらい膨大です。コ・ドライバーなくして、ラリーを戦うことなどできません。

----そうしてレッキが終わり、ようやく競技が始まるわけですが、それもまた長い戦いですね。

勝田:モンテカルロは最初のステージが始まるのが木曜日の夜9時近くで、ステージを走り終えてホテルに戻るのは12時半以降。次の日は朝6時半くらいに1号車がスタートするので、移動時間を考えると4、5時間寝られたらいいほうですね。
それに、ラリーはタイムアタックをするステージだけだと合計350km前後ですが、ステージとステージを繋ぐ「リエゾン」と呼ばれる移動区間も含めると軽く1000kmを越えるので、1日中クルマを運転しています。
乗り心地がいい乗用車でも3、4時間運転すると疲れると思いますが、ラリーカーは足まわりが硬く、リクライニングしないフルバケットシートに座り、エアコンもなく、音はうるさくて、砂も入ってくる。それを朝から晩まで運転すると本当に疲れるし、特に夏場はきついですね。

ーーだからこそ、普段のトレーニングが重要なんですね。

勝田:筋力はもちろん必要ですが、柔軟性と回復力も重要で、そこに重点を置いてトレーニングしています。ラリーの場合は休める時間がほぼないので、短い時間でどれだけ疲労を取り除くことができるか、体と頭を休ませてあげられるかが課題となり、そのための方法をトレーナーに考えてもらっています。
例えば、ずっとシートに座っていると負荷が1ヶ所に集中して腰が痛くなるので、それを分散させるために体の柔軟性を高め、可動域を拡げるようにしています。1年前と比べると随分楽になり、腰もまったく痛くならなくなりましたよ。
また、それに伴い集中力も高まりました。ステージ中に腰が痛いなど少し思っただけでも集中力が途切れ、ミスをしやすくなります。一瞬でも集中力を失うとペースノートを聞き逃し、タイムロスはもちろん、最悪クラッシュにも繋がりますからね。

ーー日々の食事にも気をつけているようですね。

勝田:はい。結婚が決まった時に妻がアスリートフードマイスターの勉強を始め、資格までとってくれました。栄養バランスをしっかりと考えた食事、しかも本格的な日本食も作ってくれるので助かります。普段は僕にあーだこーだ言わないんですが、食事だけは別ですね。ご飯をおかわりしようとすると「あんまり良くないよ」って(笑)。

ーーWRCは海外遠征が多く、移動時間が長いのも大変ですね。

勝田:アルゼンチンやチリなどヨーロッパから遠く離れたラリーは時差が大きいので、睡眠の管理がとても重要です。それについてもトレーナーのヘイッキが上手く管理してくれて「この時間には部屋を真っ暗にして、寝られなくてもいいから脳を睡眠に近い状態に置く」とか「この時間にこれを食べる」など、全て計算して決めてくれるんです。彼がF1ドライバーにも実践してきた方法ですが、それをやると時差ボケがかなり解消されます。
あと「オーラリング」という、体の生理的信号をトラッキングする指輪も使っています。僕だけでなく、トヨタのセバスチャン(オジエ)や、エルフィン(エバンス)も使っています。何時間寝て、睡眠中の心拍数がどう変化したかなどが細く記録され、そのデータをヘイッキと共有しアドバイスをもらっています。寝る前にスマホを見てると、怒られはしないけど「だめだよ」と注意されます(笑)。

ーー生活全般を管理されるのは、どういう気分ですか?

勝田:時差の計算など難しいことを自分で考える必要がないので楽ですね。僕は、いろいろなことを考え過ぎてしまうタイプなので。「仕事をきっちり分担しよう。睡眠や体調のコントロールは全てこちらでやるから、タカはそれに従い、自分の仕事だけに集中した方がいい」と、ヘイッキによく言われます。

知っていれば話しかけやすい!?チームメイトの趣味や性格を教えてください!

ーー先ほどオジエやエバンスの名が出ましたが、トヨタの仲間である彼らはどのような選手ですか?

勝田:今年彼ら3人と既に2戦を戦い、とてもバランスの良いチームだと思いました。セバスチャンはチャンピオンを獲りにいく選手。エルフィンは速さも経験も安定感もあり、セバスチャンにだって負けていない。カッレ(ロバンペラ)は若くイケイケで速く、それでいて落ち着きもある。理想的なドライバーラインナップだと思います。その3人が情報を自分の中だけに留めず共有し、僕にも色々教えてくれます。みんな本当にオープンですね。自分の仕事に集中しつつも、みんなチームのことも考えているんです。

ーー6年連続で世界チャンピオンに輝いたオジエは、どのような人物なのですか?

勝田:厳しいところはすごく厳しく、勝ちに対する拘りも人一倍強い。でも、人間的にとても優しい人です。僕ら後輩にもすごく親切で、チャンピオンだったことを鼻にかけたり、我がままを言ったりもしません。正義感が強く、とてもフェアな人です。また、サインやファンサービスも、時間がある限りしっかりとするファン思いの選手です。だから、ラリージャパンに彼が来た時、万が一サインを断られてしまったとしても、それは面倒なわけではなく、その時は本当に時間の余裕がないんだなと思ってください。

ーーでは、第2戦スウェーデンで優勝したエバンスは?

勝田:エルフィンは、以前僕のコ・ドライバーのダンと組んでいました。一見気難しそうに見えますが、全然そんなことはありません。とにかく超マジメで、ラリー中は一人で何かを考えていることが多いですね。あと、彼はマウンテンバイクがとても好きなんですよ。

ーー昔から勝田選手と仲が良いロバンペラ選手は?

勝田:カッレとは付き合いが長く、家もすぐ近くです。彼はドリフトが大好きなヤンチャボーイで、わざわざ日本にドリフトをしに行ったくらいです。ドリフト用のクルマも持っていますし、以前「エビスサーキットに行くのが僕の夢だった」と言ってたくらい。初めて会ったのは彼が15歳の時でしたが、その時から既にプロ意識が凄く、驚きました。

――それぞれ違うタイプでありながらも、みんな非常に速いですし、キャラクターも魅力的ですね。

勝田:はい。彼らのような、ドライバーとしても人間としても素晴らしい選手たちと一緒に仕事をできる自分は、本当に恵まれた環境にあると思います。少しでも早く彼らと対等に戦えるように、自分が立てた目標に向かってこれからも努力し続けます。

ーーWRCの一刻も早い再開と、勝田選手の活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。

WRCドライバーのトレーニング方法からレースウィークの過ごし方まで、なかなか聞くことができない貴重なお話をじっくり伺うことができたインタビュー。実はフィンランドの交通事情やトレーナーとの裏話など、他にも興味深いお話があったのですが、さすがに長くなり過ぎるので、また機会を改めてご紹介できればと思っています!

WRCは現時点で第8戦ラリー・フィンランド(8/6~9)からの再開が見込まれているようですが、ラリージャパンの開催、そして日本人WRCドライバーの活躍に期待したいですね!

<インタビュー・文・写真:古賀敬介>

古賀敬介(こがけいすけ)モータースポーツジャーナリスト/フォトグラファー。1967年東京生まれ。幼少期のスーパーカーブームでクルマに興味を持ち、大学生時代の夏休みに訪れたラリー・フィンランド(1000湖ラリー)をキッカケにWRCを中心としたモータースポーツ記者として雑誌編集部などで執筆を行う。勝田貴元選手のことは、全日本ラリー選手権の王者である父・範彦選手の子供であることで昔から知っており、祖父の照夫氏が当時中学生だった貴元選手を連れてトミ・マキネン氏のファクトリーを訪れ、はじめてWRCカーの同乗体験をした瞬間も見守っていたという。現在はリモートワークで取材と執筆を行ないながら、WRCが再開した時に向けて鋭気を養っているそうだ。

[ガズー編集部]

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