移動時間が貴重なプライベートタイムへ。未来のモビリティを見た
- お話しを伺ったクルマ開発センター ビジョンデザイン部 松岡智仁 氏
まさに気持ちいいぐらいの潔さ。10月23日に幕が開けた第46回東京モーターショー2019。さっそく青海展示棟のトヨタブースに足を運んでみると、事前の情報通り、近く発売されそうな新型車は1台もない。あるのは現在のクルマの姿と大きく異なる未来のモビリティたち。トヨタの考える未来の乗り物は、楽しさとかけ離れたつまらないものになってしまうのか?日頃からトヨタのクルマづくりを取材する機会の多い筆者が取材を行った。
トヨタブースの詳細は別の記事に譲るが、今回のブースには本当にクルマがない。ブースの壁には未来の都市が描かれ、広大なステージの上にはモビリティが数台あるだけ。「モビリティのテーマパークで体験しよう」という設定で、新型車が並んだ他メーカーのブースと見比べるとインパクトは相当なもの。ニューモデルのお披露目を楽しみにしている来場者にとって、物足りなさを感じる人も少なくないだろう。かく言う筆者も事前の情報を聞き、寂しさを感じていたトヨタファンのひとり。しかし、結論から先に言ってしまうと、トヨタのモビリティはこれからも私たちに楽しさを提供してくれる。それもこれもトヨタの考える良いクルマづくりの考え方は引き継ぎつつ、新たな魅力を備えているのだから興味は募るばかり。
私が感じる最大の魅力はずばり、移動時間を「ただの移動」にしないようにトライしている点。モビリティと人々の生活の垣根がなくなったと言い換えてもいい。例えば、今回展示(体験もできる)されているモビリティのひとつ、「e-Care」は病院に向かう車内で医者の問診を受けることを前提としたEV。移動中に問診を済ませることができるから、病院に着いた瞬間に診察が始まり、待ち時間を減らすことができる。また「e-4me」は1人乗りに特化した“個室EV”。ユーザーが歌、楽器、トレーニングなど、自分のニーズに応じてお店にオーダーすると、その仕様のe-4meが決まった時間、決まった場所に迎えに来てくれる。2台の利用方法はあくまで一例で、さまざまな利用方法やサービスを想定しているというから、1人1人のニーズに応じたカスタマイズも可能になるはず。同乗者との会話や音楽、景色を楽しむのが当たり前の現在のカーライフと比べて、非現実的な話に聞こえるかもしれないが、移動と実際の生活がシンクロしたモビリティライフはまったく新しい価値を生み出すだろう。
しかし、私のトヨタのモビリティに対する不安が完全に払しょくされたわけではない。TOYOTA GAZOO Racingをはじめ、昨今のトヨタが声高に叫んでいる「もっと楽しいクルマづくり」のエッセンスは継承されているのだろうか。そこでモビリティ全体の展示プロデュースを行ったトヨタ自動車 クルマ開発センターの松岡智仁氏(ビジョンデザイン部 主査、トップ画像の人物)に話を伺ってみた。ところが、残念ながら今回の東京モーターショーは個別のディテールではなく、ブース全体で見てほしいとの事。一方、松岡氏が何度も強調していたのが「機能を形にした」という言葉。未来のモビリティに求められる使い方を想定してデザインしたということだが、このキーワード、実はTOYOTA GAZOO Racingのスポーツカー開発者からもよく聞かれる言葉。クルマを、モビリティを、単なる移動手段にしないという松岡氏の強い決意の表れと受け取った。
また、異色の存在が「e-Chargeair」。動力は燃料電池を使用する。人が乗らずに自走し、EVに電気を供給する“インフラ系モビリティ”で、充電の他、Wi-Fiや空気清浄機能、デジタルサイネージ機能などを搭載すると言う。驚くのは走行中のEVへのワイヤレス充電を想定していること。まるで飛行機の空中給油機のようだ。自分で運転するモビリティではないが、その分生活に直結するインフラ機能だけが与えられているというわけ。もちろん、インフラの重要性は今さら言うまでもない。このように従来にはない発想で作られたモビリティも、私たちクルマ好きの琴線に触れるポイントのひとつだと筆者は思うが、みなさんはどう感じるだろうか?
トヨタは未来のモビリティについても、これまでと同様、楽しいクルマづくりを念頭に置き、開発を行っている。電車やバスと同じにはならない。だから、私は未来のモビリティにエールを贈り、登場を心待ちにしている。
この記事を読んでいるみなさんも、東京モーターショーに足を運び、自分の五感を研ぎ澄ませ、モビリティの魅力に触れてみよう。
[ガズー編集部]
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