「トヨタ経営会議」を東京モーターショーで開催した意義を考えてみた

多くの来場者が訪れる東京モーターショー2019。残すところあと2日となった11月2日(土)、青海会場のトヨタブースにて「トヨタ経営会議in東京モーターショー2019」が開催された。ステージ上にトヨタ自動車の豊田章男社長と、現在出張中のディディエルロワ副社長を除く5人の副社長が登壇し、トヨタ自動車の経営会議を一般来場者およびYoutubeにてライブ配信・公開するという型破りなもの。

豊田社長が「自動車業界全体で創っていく必要がある」と発言した経営会議で語られた内容とは?
ガズー編集部員が考え、感じた事と共にご紹介します。

全体で作る交通事故ゼロ~安全なモビリティ社会を作るために

普段の経営会議ではあえてアジェンダなどは作らずに開催されるそうだが、公開会議という状況のため、豊田社長が自ら議題を振って会を進める事に。

  • 議長として会を進めた豊田章男社長
    議長として会を進めた豊田章男社長
  • いつもの雰囲気(?)に場も和む
    和やかな雰囲気で会は進行した

最初の議題は「クルマの事故」。
何故クルマの事故が取り上げられることが増えてしまったのか?という問いかけに対して、吉田副社長は減少しているものの、高齢者事故が横ばいだという交通事故の実態を紹介。踏み間違えなどの状況では近接センサーなどの装備にて一定の成果を挙げているという。しかしトヨタ自動車として目指すのは「半減ではなくゼロ」このために、メーカーとしてできる事はなんだろう?さらなる問いかけに技術的には自動運転のレベルを上げるという意見も出たが、これはあくまでも「未来」の話。未だ個人保有のクルマが大多数な「現在」において、一番必要なのは既に走っている大多数のクルマ達の安全性能を上げる事が大事だと話した。
今後、あらゆる自動車メーカーがクルマへの後付け安全装備普及の段階に入ると思われるが、着実に、そして加速的に世の中に広めるには装着する人にとってわかりやすい『うれしさ』が必要では?と感じた。

  • 件数は低下しているが、高齢者は横ばい。多くは踏み間違えだという。
    件数は低下しているが、高齢者は横ばい。多くは踏み間違えだという。
  • 予防安全装備により、踏み間違えの事故は大きく低減されたという
    予防安全装備により、踏み間違えの事故は大きく低減されているが…

また「タテシナ会議」と呼ばれる自動車業界のトップが集う安全について考える会議では、すでに安全ガイドラインの普及と安全装置の性能向上に対する取り組みが始まっており、「あとは成果を出すだけだ」との事。
社会全体の大きな課題でもある交通事故だけに、自動車業界はもちろん行政なども巻き込んだ大きな活動としてなるべく早い結果が出る事を期待したい。
最後に豊田社長から交通事故ゼロに向けて当事者意識を持ち、インフラの整備なども進めながら全員がルールを守っていく事で安全なモビリティ社会を作っていく、という事に共感・協力してほしいと締めくくられた。

  • 非常に参加企業の多い「タテシナ会議」
    非常に参加企業の多い「タテシナ会議」
  • 説明される小林副社長
    説明される小林副社長

情報アピールの重要性~災害時にクルマができること

豊田社長が次に選んだテーマも昨今の課題である「災害」。クルマはどのように役立っているのか?との問いに、寺師副社長からは電動車で実際の災害時にクルマから電気を取り出した例が紹介された。ただ、すぐに電気を取り出せる車両を購入するのは難しい、というのが我々一般人のお財布事情。個人で所有できなくても行政などと連携して公共施設に必ず電動車を配備し、「緊急時に充電サービスが受けられる」といった取組みがあれば素直に嬉しいと思う。

また、冠水などの災害が近年多いのも事実。こうした場合にも何か役立つ事が考えられるのだろうか?

友山副社長からは、日本中を走る100万台のコネクティッドカーから得たビッグデータを活用した、災害時に使える道路を公開する「通れた道マップ」が紹介された。今後は「冠水レベル」を情報として追加し、より災害時に役立てたいとの構想も発表された(ちなみに豊田社長に対しても初公開との事)。ただし、こちらもまだ収集できる情報元が少ないそうなので、多くのデータが集めるための投資など検討されるようだ。

  • ビッグデータ活用について説明される友山副社長
    ビッグデータ活用について説明される友山副社長
  • 左半分に車載映像など冠水の状況を知らせる情報が表示される
    左半分に車載映像など冠水の状況を知らせる情報が表示される

お客様に最適な車両を用意したい~電動車の種類

最後の議題は「電動車とは何を指すのか?」。HV、PHV、EV、FCVなど、様々な動力のクルマがあるがどれが電動車なのか?確かにわかりにくく、なんとなく「燃費の良いクルマ」というイメージが大半ではないだろうか。電動車とはモーターと動力のコントロールユニット、バッテリーが備わっているクルマを指すとの事。すなわち上記4種類は全て電動車なのだ。なぜこんなに種類が存在しているのか?という疑問が沸くが、これに対してトヨタ自動車としては「メーカーの都合ではなく、お客様の使い勝手に合わせてベストな選択をしてもらう」ために、複数の動力を用意しているとの事。またCO2削減という観点でも「普及して初めて役に立つ」という考え方であり、結果的にお客様に選んでもらえる・買ってもらえるという事を重視している、との事。

確かに身近に充電インフラがあるのか?どれくらいの航続距離が必要なのか?など、ユーザー側の観点で選択できるのは嬉しい点といえる。ただ個人的には、電動車を選ぶ際にその「選択肢の多さ」を「分かりにくさ」と感じる事もある。全てのメーカーに関して言える事だと思うが、環境性能ひとつとってもクルマの生産~廃棄までのトータルCO2排出量だけでなく、電動車の場合は電池を作る際のCO2発生や、装備する太陽光発電などの再生可能エネルギーの存在など、全部込みの分かりやすい情報が公開されれば…と素人ながら意見を申し上げたい。こういった点も業界全体で検討していただければ…などと思う部分だ。

  • 4種類の動力に見えるが、実はすべて電動車
    4種類の動力に見えるが、実はすべて電動車
  • 様々な動力が用意される理由について寺師副社長から説明される
    様々な動力が用意される理由について寺師副社長から説明される

色々な事を考えさせられながらも、来場者の方との質疑応答などが行われ、和やかな雰囲気のまま「経営会議」は終了。
振り返ると「会議」という形をとってはいたが、「モビリティを役立てるために全メーカーの全販売店に声がけし、お客様の困りごとを聞く活動を行っている最中」という発表や、「一緒に未来を創りたい」と締めくくった豊田社長の言葉など、『広く業界全体で未来を創っていこう』というメッセージ発信の場だったんだ、と感じました。そしてそれこそが自動車に関する様々な関係者が集まる「東京モーターショー」で開催されたことの意義だったのではないでしょうか?

そして(飛躍しすぎかもしれませんが)我々ガズー編集部が行なっている「人を中心とした、楽しく安全なカーライフを過ごしていただくための情報発信」という活動も、ひょっとして未来のモビリティ社会を創るうえでは大事なもののひとつなのではないか?そう思い、襟を正す編集部員でした。


執筆:編集部員T(谷口)

  • トヨタブースのステージ上で開催された
    トヨタブースのステージ上で開催された
  • 電動車の給電能力は思いのほか高い
    電動車の給電能力は思いのほか高い
  • サプライズでレーサーの小林可夢偉氏も登場
    サプライズでレーサーの小林可夢偉氏も登場
  • メーカー各社と連携し、地域の困りごとに対処
    メーカー各社と連携し、地域の困りごとに対処

[ガズー編集部]