トヨタ シエンタ クロスレビュー ~ 萩原 秀輝 ~

パパも家族もうれしいミニバン

わたくしハギハラ、自動車メディア業界では“武闘派リポーター”で通っている。高性能モデルに試乗する機会が多いし、限界を極めたうえでの走りの評価には自信があるから、周囲の評判は甘んじて受け入れている。でも、2人の子育てをほぼ終えたイイパパ(本人談)でもある。ミニバンは3台乗り継いできたので、そっち方面の評価も門外漢というわけではない。

さて、新型シエンタのハナシである。ミニバンとしての売りは、地上高330mm(2WD仕様)という低床フラットフロアを実現していること。小さな子供は、幼稚園に入るころからとにかく自分でヤリたがる。クルマの乗り降りにしてもそう。そんなときにも、フロアがこの高さなら親としても安心だ。それから、後列にいくにしたがってシートの座面が高くなるレイアウト。どの席でも前方の視界が開けているため、間違いなく子供はよろこんでくれる。

しかもシエンタは、意外なことに、武闘派リポーターとしても注目できるモデルなのだ。低床フラットフロアが低重心化に一役買っているのかどうかは定かではないけれど、コーナリング中のボディの動きから察すると、あながち的外れな臆測ではなさそうだ。

注目というのは、例えばこんな場面―― シエンタのサスペンションは、キャラクターからしてスプリングやダンパーが乗り心地を重視した設定になっている。なので、コーナーを気持ちよく駆けぬける際に路面のうねりを通過すると、ボディが縦に揺れるように動くことがある。ところが、危なっかしさはまったく感じさせない。走行ラインが乱れることがないからだ。

まぁ、リポーターのように「走行ラインをイメージしながらコーナリングをする」みたいな人は、少数派だろう。それでも、ただ何となく走らせていても、シエンタの素直な操縦性や腰の座った安定性はドライバーにちゃんと伝わってくるし、それがクルマに対する信頼感にもつながる。こうした点は、ミニバンとしての走りの魅力を際立たせてくれる。

しかも、このクラスのミニバンとしては、ボディ剛性がけっこう高い。ザラついた路面で、タイヤからゴーッというロードノイズが聞こえてくるのはミニバンではありがちなこと。ただ、シエンタはフロアがシッカリしているからか、ロードノイズは響くことなく、スッキリと耳に優しい。
特にハイブリッド車は、モーターのアシストによりエンジンが低回転域を維持でき優れた静粛性が得られる。その魅力は、ロードノイズに台無しにされずに済んでいる。十分な力強さも確保されていて、静かさと気持ちよさを維持しつつ走りの楽しさも実感させてくれるのだ。
一方、ガソリンエンジン車も、日常的に使う中回転域までは満足のいく静粛性と力強さを実現している。さすがに、アクセルを床まで踏んで高回転域に達すると騒がしくなるが、そんな走り方はリポーターとしてあえて試した結果でありシエンタには似合わない。

いずれにしても、シエンタは最新のミニバンにふさわしい家族がよろこぶ快適性と安心感をもたらしてくれる。特にハイブリッド車は、走りの楽しさだけではなく、あまりある経済性にも期待できる。

(文=萩原 秀輝)

萩原 秀輝(はぎはら ひでき)

1959年生まれ。大学在学中より自動車専門誌のリポーターとして活動を開始。ツーリングカーレースにも参戦し優勝や入賞の実績がある。そうした経験を生かし、数々の安全運転教育の場で講師として活躍。これまでの受講者は1万3000人を超える。日本自動車ジャーナリスト協会理事。1992年より日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員を務める。

[ガズー編集部]