トヨタ シエンタ クロスレビュー ~ 藤島 知子 ~

みんなに「移動のよろこび」を

まるでスポーツウエアのような、躍動感のあるキャラへと変貌を遂げた2代目シエンタ。デザインの方向性がカワイイ系だった初代から大胆にシフトしただけに、今回のモデルは保守派にとっては少々アクが強いと感じられるかもしれないが、好きな人には強烈に響くであろう潔さがある。

3列シートを持つミニバンというと、少し前までは女性や子供がなじめる親しみやすいキャラや、ちょいワル系のキャラに設定されるのが一般的だったが、今回のシエンタはそのどちらにも属していない。このあたりは、スポーツ的な要素がもたらすミラクル。ミニバンだからといって子供中心にはなっておらず、家族の誰もが主役として輝けそうだ。

また、5ナンバーサイズのボディに3列シートを備えたプチミニバンは、日本の混雑した道路事情にピッタリの実力派といえる。子育てママの気持ちを察すれば、街乗りでスイスイ走れる車幅感覚の捉えやすさと小回り性は、不要なプレッシャーを招きにくくて好ましい。おまけにスライドドアだから、子供が隣のクルマに“ドアパンチ”してしまう心配も少ない。「ちょっと足を伸ばしてみよう」という一歩が踏みだしやすくなって、行動的になれそうだ。

注目したいのは、コンパクトなクルマを広く使えるパッケージング。今回はガソリンエンジン仕様のほかに、シエンタとしては初のハイブリッドモデルがラインナップされている。エンジンのほかにモーターやバッテリーなどを搭載することは、シートアレンジを優先させたいミニバンにとって、スペース効率を求める上で不利になりやすい。ところが、そのあたりにはハイブリッドカーの普及を早期から進めてきたトヨタならではのノウハウが生かされている。
専用のバッテリーを2列目の床下に埋め込み、ワンステップで車内にアクセスできる低床フロアを実現。背が高い大荷物を積みたい時も、3列目のシートを折りたたんで2列目下に滑り込ませれば、1085mmもの荷室高が確保できる。細部まで配慮が行き届いたクルマづくりには、「スペース効率を競わせたら世界一だな」と感心させられるばかりだ。

このスペース効率は福祉車両にも生かされており、折りたたみ式のスロープを使って車いすで乗れるものに加えて、ストレッチャーごと乗り込める仕様も用意されている。外観的には通常のモデルとほぼ同じで、狭い道も走れるサイズであることに変わりなく、介護する側もされる側にも“移動の自由”を与えてくれる。人生の豊かな時間を過ごす上で、かけがえのないことだ。

ただ、実際に購入を考えると、ガソリンエンジンとハイブリッドで悩む人はいるかもしれない。装備のレベルが近いグレードで比較すると、両者の価格差は30万円くらい。170~200万円ほどで購入できるガソリンエンジン仕様(FF車)をシンプルに乗りこなすのであれば、購入に踏み切りやすい。一方ハイブリッド仕様は、モーターアシストのおかげで上り坂や加速時のアクセルの踏み込み量が少なくて済み、エンジン回転数を低く抑えることで静かに走れるというメリットがある。さらに、モーターのトルク制御を生かした「バネ上制振制御」により、クルマが前後方向に揺すられる不快な動きも抑えられる。
シートアレンジなどの使い勝手は両者で変わらないから、ハイブリッドがもたらす走りのメリットをよく考えたうえで、高いと感じるか否か。それは、乗り手の価値感次第。クルマを使うシチュエーションを考えて、選んでほしい。

(文=藤島 知子)

プロフィール

藤島 知子(ふじしま ともこ)

幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年から市販車やミドルフォーミュラなどのレースに参戦。現在はレース活動で得た経験や女性目線をもとに自動車専門誌、ウェブ媒体、女性ファッション誌に試乗記などを執筆している。お茶の間にクルマの楽しさを伝えるテレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』は出演8年目を迎える。

[ガズー編集部]