トヨタ シエンタ クロスレビュー ~五味 康隆~

乗ってよし、走ってよし

クルマ選びに迷っているなら、このモデルに注目してみてはいかがだろう―― そう言いたくなるほど、トヨタの最小ミニバンであるシエンタは、多種多様なライフスタイルに対応することができる。

好き嫌いははっきり分かれるかもしれないが、これまで保守的なイメージだったトヨタのデザインとは思えない、個性的かつ遊び心にあふれたスタイリッシュな内外装に、まず目を奪われるのではないだろうか。
しかし、筆者が注目してもらいたいのは、その中身である。例えば、パッケージ効率のよさ。コンパクトなボディサイズなのに、3列目シートまで備わっている。後ろの席にいくほどに着座位置が高くなり、各席で良好な視界が得られるというシアターレイアウトも採用されている。3列目のシートは、2列目シートの座面とフロアの間に折り畳んで収納することが可能で、シートを使わないときには、豊富な容量で使い勝手に優れる荷室空間が作り出せる。

加えて、子どものいる家庭やアクティブなシーンで重宝されるであろう両側スライドドアや、車外に出ることなく前席から2列目への移動ができるウォークスルーもある。さらに、このような“分かりやすい飛び道具”に加えて、シートの座面高を乗り降りがしやすい位置に設定するなど、目には見えにくいところまで配慮されているのも、良いところだ。

走りの質も追及されている。新開発の1.5リットル直4ガソリンエンジンは、燃料が有するエネルギーをタイヤを回すエネルギーに変換する際の熱効率で、世界最高水準の38.0%を達成。これにより、JC08モードで20.6km/Lの燃費を実現した。エネルギーの回生もできるハイブリッド車に至っては、ミニバン最高レベルの27.2km/Lを記録している。
筆者は当初、シエンタの動力性能や走りの質感は平均的な仕上がりで、カタログに載せることで販売に大きな影響力を持つ、この燃費性能をセリングポイントとするクルマだと思っていた。しかし、それだけではなかった。走りの質感、特にハンドリングが、予想以上にシッカリしていたのだ。
ハンドルを切り始めた瞬間から、ミニバンとは思えない的確な手応えがある。そのおかげで安心して走れるのはもちろん、反応の乏しさに起因するハンドルの切り過ぎも抑えられる。最小のハンドル操作量で、クルマをグラッとさせることなくカーブを曲がっていけるのだ。こうした特性はスポーツカーには強く求められるものだが、シエンタでそれが得られるとは、思ってもみなかった。

ハイブリッド車とガソリンエンジン車のすみ分けという点では、燃費を優先する方はもちろん、高速道路を使って長距離を走ることが多い方にも、ハイブリッド車をお薦めする。モーターアシストによる豊かな加速力のおかげで、追い越しなどがしやすいからである。
市街地を中心に60km/h以下で運転する機会の多い方には、ガソリンエンジン車がお薦めだ。シエンタの遮音性はそれほど高くないため、エンジンの停止と再始動が頻繁に繰り返されるハイブリッド車は、耳への音圧変化が大きく気持ちが落ち着かないのだ。ガソリンエンジン車にもアイドリングストップ機能は付いているものの、ハイブリッド車ほどは音圧の変化は気にならない。
自分だったら? 必要十分な加速力が得られ、上記のように音がさほど気にならない、1.5リットルのガソリンエンジン車を選ぶだろう。

(文=五味 康隆)

五味 康隆(ごみ やすたか)

自転車トライアル競技の世界選手権、全日本F3選手権への参戦を経て、モータージャーナリストに。各種ドライビングスクールのインストラクターを務めるなど、確かなドライビング理論と、優れた運転技術に裏付けされた分かりやすい解説に定評がある。次世代車に対する造詣も深く、これまで複数のハイブリッド車を乗り継いでいる。2015‐2016日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

[ガズー編集部]