トヨタ ノア/ノアハイブリッド 試乗レポート

王道を行くミニバン

ミニバンの激戦区を戦う「トヨタ・ノア」がフルモデルチェンジ。
ハイブリッドモデルも加わった最新型の仕上がりを、2車種の試乗で確かめた。

基本から新開発

フルモデルチェンジを受けて3代目となった「ノア」と「ヴォクシー」は、兄弟車とはいうものの、デザインのテイストははっきりと違う。
やんちゃなヴォクシーに対して、ノアはどっしりと構えている。まさにミニバンの王道を行く、といった佇(たたず)まいだ。
これだけ雰囲気が違うと、どちらにしようか迷う人も少ないだろう。うまく差別化が図られている。

ミニバンの王道を行くデザイン、と書いたけれど、新型ノアはモデルチェンジの内容もミニバンの王道を行くものだ。
ミニバンがセダンやハッチバックと違うところは何か? まず、圧倒的な空間の広さがある。
また、大きく開くスライドドアによって、乗り降りが容易なこともミニバンならではの強みだ。

そして、3列のシートを巧みにアレンジすることで、「多人数乗車」から「少人数乗車+大荷物」まで、さまざまなシチュエーションに対応できるのもミニバンの持ち味である。

新型ノアは、こうしたミニバンの特長をさらに進化させている。

まず全長を100mm延長することで、室内空間を拡大した。実際にセカンドシートとサードシートに座ってみると従来型との違いは顕著で、腰掛けた時の膝まわりのスペースに余裕が生まれた。

新型ノアは従来型に比べて全高が25mm低くなった。けれども、室内の高さは60mmも高くなっている。なぜこんなマジックが可能になったのかといえば、床を低くしたからだ。この低床化に加えて、スライドドアの構造を見直すことでドアの開口部も広くなった。おかげで新型ノアは、後席へのアクセスが実に容易になった。

床を低くすることの難しさについては、別に紹介する開発者インタビューを読んでいただきたいのだが、このようにクルマの構成を基本からやり直し、ミニバンに求められる性能を追求したのが今回のモデルチェンジの眼目である。

試乗したのは、ノアのハイブリッド仕様とガソリン仕様。ガソリン仕様にはよりアグレッシブなエアロボディも用意されるが、今回は標準ボディを試した。ちなみにハイブリッド仕様はFF(前輪駆動)のみ。ガソリン仕様には4WD(四輪駆動)も用意されるものの、試乗したのはFFである。

ユーティリティに妥協なし

ノアが積むのは、基本的には「プリウス」や「プリウスα」に使われるのと同じハイブリッドシステム。ただし、車重の重いミニバン向けに、若干のチューニングが施してあるという。

このハイブリッドシステムは、ノアというモデルの性格に合っていると感じる。
バッテリーの残量やアクセルの踏み加減で変わってはくるものの、発進加速はモーターのみ、あるいはモーターとエンジンの共同作業で行う。
この時、瞬時に最大のトルクを発生するモーターの特性のおかげで、ノア ハイブリッドはすっと加速できるのだ。

出足がいいだけでなく静かなことも、モーターがもたらす美点だ。実際に給油して燃費を測るとまた違う印象を抱くだろうけれど、ドライバーの立場からするとハイブリッド仕様はエコカーというよりプレミアム仕様である。

ブレーキをかけた時に減速エネルギーを回収して電気として蓄える回生ブレーキの作動フィーリングや、アイドリングストップ機構に見られるスムーズで素早いエンジンの再始動などは、プリウスで鍛えられただけあって練りに練られている。

ハイブリッド用のニッケル水素バッテリーは、助手席の下に配置した。
セカンドシートの下などに置くと、ミニバンにとって望ましい“平らな床”を実現するのが難しくなるからだという。
このあたり、燃費だけでなくミニバンのユーティリティを大事にするという開発方針が伝わってくる。

ハンドルを握っていて気が付いたのは、運転のしやすさと、クルマの動きが安定していることだ。
まず運転のしやすさ。これは、視界のよさによるところが大きい。サイドウインドゥ下端の位置を下げたり、ドライバーの斜め前のAピラー(柱)を細くしたりするなど、こまやかな気配りで良好な視界が提供されている。まさにおもてなしだ。ボンネットの先端までしっかり見えるから、この手のクルマの運転に慣れない方がステアリングを握っても、不安を感じることはないだろう。

もうひとつ、クルマの動きが安定しているのには、路面の凸凹を乗り越えた時のボディの揺れがすぐに収まることが大きい。往々にして、背の高いクルマはふわふわした上下動が長く続き、ドライバーに不安を与えるケースが多いものだが、ノアはそうではない。
また、ステアリングホイールの手応えもしっかりしている。ステアリングホイールを通じて「いまクルマがどういう状況にあるのか」がしっかり伝わってくることも、安心して運転できる理由のひとつだ。

グレードごとのよさがある

ハイブリッド仕様からガソリン仕様に乗り換える。23.8km/リットルというハイブリッド仕様の燃費にばかり注目が集まるけれど、実はガソリン仕様のJC08モード燃費も16.0km/リットルだから悪くない。

アクセルペダルを踏み込むと、ハイブリッド仕様にはないガソリン仕様の持ち味がわかる。
ガソリン仕様は、やや高回転までエンジンを回したり、高速域に入ったりした時の“パワー感”で、ハイブリッド仕様を上回るのだ。
グッとアクセルペダルを踏み込んだ時の加速が気持ちいい。

対してストップ&ゴーが続く市街地でのキメの細やかさではハイブリッドに軍配が上がる。
ノアとヴォクシーのルックスに大きな違いがあるのと同じで、ハイブリッドとガソリンエンジンの運転フィーリングも明確に異なるのだ。

乗り心地はハイブリッド仕様と同じく、しっかりしていて安心感が得られるもの。
同じグレード同士で比べると50kgほど重いハイブリッド仕様のほうが少し重厚な感じもするけれど、それは同条件で乗り比べなければわからないレベル。
基本的なフィーリングは、両者共通である。

試乗を終えて、あらためて室内をチェックすると、実によく練られていることがわかる。
サードシートはだれでも簡単に、力を入れずにたたむことができるし、セカンドシートは前後方向に大きくスライドするだけでなく、左右方向にもスライドしてサードシートへの乗り降りを容易にする。
収納も豊富で、荷室フロアの地上高は従来型より60mm下がったため、重いモノを積んだり下ろしたりするのも楽になった。

広さと使い勝手を向上させながら燃費にも配慮した新型ノアは、まさにミニバンの王道を歩んでいると言えるだろう。

(text:サトータケシ/photo:田村 弥)