レクサスRC F vs BMW M4比較リポート
甲乙付けがたい最新スポーツクーペ
レクサスRC FとBMW M4クーペは、ともにブランドを象徴するスポーツモデル。走りを極めた日独のプレミアムクーペを乗り比べた。
待望久しかった走りのイメージリーダー
世界のマーケットに挑戦するプレミアムブランドたるもの、贅(ぜい)を尽くしたその内容に加え、誰をも振り向かせるほどに流麗なスタイリングをアピールする2ドアクーペを用意するのは、当たり前の事柄でもあるはず……という期待値からすると、「何か一品足りないナ」、という思いが抜けなかったのが、これまでのレクサスのラインナップだった。
確かにレクサスには、日本では3代目のソアラとしてセールスされた2ドアのクーペが存在した過去はある。そんなソアラの後継4代目モデル、そして2代目ISの派生モデルである「IS C」も、それぞれがオープンボディでありながら、同時にリトラクタブル式ハードトップを備えたゆえに、それを「クーペの一種」と解釈できないこともなかったものだ。
加えれば、レクサスブランド発の純粋なクーペとしては、カーボン素材を多用したボディに専用V10エンジンを搭載するなど、稀有(けう)なメカニズムを採用しながら、3750万円という破格なプライスタグも話題となったLFAの存在も挙げられる。
が、世界でわずかに500台の限定販売というLFAを筆頭に、それらはいずれもカタログモデルとしては、あまりに少数な販売台数しか望めない、ニッチな存在であったことは否めない。時代はレクサスに、もっと普遍的で量販モデルのイメージを直接けん引できる、“身の丈感”の強いクーペの登場を求めていたのだ。
RCは、まさに待望久しかったレクサスにとって初の、そんなカテゴリーへと打って出たクーペモデル。中でも、そのシリーズ内に飛び切り強力な心臓を搭載した走りのイメージリーダーとして用意されたRC Fは、世界から特に注目を浴びる存在であるに違いない。
クルマ作りの思想が違う
フロントフードやフェンダー、グリルやバンパーなどに専用のデザインを採用。ベースのRCシリーズよりもアグレッシブなルックスをアピールするRC Fに搭載されたのは、かつてのハイパフォーマンスセダン、IS Fのものをベースとした5.0リットルの自然吸気V8ユニットだ。
昨今、こうした作りのエンジンは“絶滅危惧種”のひとつ。地元市場で罰則付のCO2排出量規制がスタートするのを目前に、ダウンサイジングした上で過給機をプラスする動きが欧州勢の間で目に付くようになる中、開発責任者をして「ためらいなく自然吸気のV8を踏襲した」と言わしめるあたり、レクサスというのがアメリカにこそ軸足を置くブランドであることと、無関係ではないだろう。
一方、前出開発責任者の「あちらのブランドとは全く別の存在」という声を聞いた上でも、どうしても比べたくなってしまうのが、ほぼ同サイズの2ドアクーペボディにやはり強力な心臓を搭載し、RC F同様にFRのレイアウトを採用するBMWのM4クーペだ。
こちらが搭載するのは、従来型に用いられた自然吸気4.0リットルV8エンジンに代えて採用された、3.0リットルの直列6気筒ターボユニット。431PSというその最高出力は、477PSを誇るRC Fの心臓に見劣りするものの、550N・mという最大トルク値はRC Fの530N・mに勝る。過給機付エンジンならではの特徴である。
ちなみに、7速DCTと6速MTを用意するM4クーペの、JC08モードでの燃費データは、前者が12.2km/Lで後者が11.6km//L。一方、“8-Speed Sport Direct Shift”をうたう8速ATを搭載するRC Fのそれは8.2km/L止まり。こうしたスペックの違いからも、両モデルのクルマ作りには大きな思想の違いがあると感じられる。
加速力では同等のRC FとM4
まずはRC Fに乗り込んでスタート。と、なるほどこのモデルの魅力の根源のひとつは、V8エンジンにこそあるんだナと、実際にドライブをした誰もが即座にそう実感するだろう。
ロックアップ機構を活用し、DCTやMTにも見劣りしないダイレクトな駆動力の伝達感を獲得した上で、トルコンATならではの滑らかなスタートも実現させたトランスミッションがまずは好印象。さらに、コンソール上のセレクターでSPORTモードを選択するとより迫力を増すサウンドを含め、エンジンそのもののパワフルさやレスポンスのシャープさも、申し分のない仕上がりだ。
一方、それがいかに“燃費などには重きは置かない”という確信犯的な心臓だとしても、この期に及んでアイドリングストップ機構の用意がないのは時代遅れ感否めず。
それが実燃費にいかほど貢献するのかは定かでないし、「アメリカでは、この種のアイテムは毛嫌いされる」というハナシを耳にした記憶もある。しかし、それは今や、かつて“大食らい”で定評(?)のあったブランドの作品にすら標準化される時代でもあるのだ。
同じく2ペダル式トランスミッションを備えるM4クーペに乗り換えると、まず気になったのはスタート時の滑らかさに欠けること。微低速域の制御の難しさはDCTのウィークポイントとされる部分。単にスポーツ性の高さが売りならば、これでも問題ナシかもしれないが、このモデルの場合「4シリーズ クーペのトップモデル」として選択するユーザーの存在をも考える必要があるはずだ。
ひとたび走り始めてしまえば、そんなトランスミッションと直6ターボエンジンが織り成すフィーリングは何ともゴキゲンだった。中でも、3000r.p.m.付近からの強いトルクの盛り上がりや、7500r.p.m.というターボ付きとしては高いレッドゾーンに向けての回転の伸び感などは、「自然吸気とターボエンジンのいいとこ取り」という印象だ。
前述のように、最高出力という点ではRC Fに差を付けられたものの、加速力そのものではまったくヒケを感じなかったのは、こちらのほうが150kgほども軽いという重量差の影響も大きいはずだ。
RC FのTVDはサーキットで効果絶大
RC FとM4という、レクサスとBMW発の最新スポーツクーペのフットワークは、「いずれも甲乙付けがたい仕上がりぶり」というのが実感だった。
「50:50の前後重量配分」という社是(?)にのっとり、1.6トン強の車両重量に対して前後アクスルに掛かる荷重の差をわずか60kgほどに抑えたM4に対し、1.8トン弱という重量のRC Fの前後軸重差は170kgにもなる。重いV8エンジンを積むこともあって、RC Fはやはりフロントヘビーなのだ。
が、たとえ低いギア位置からフルアクセルを与えても、思いのほかトラクション能力が高いのがRC Fでもある。タイトターンからの立ち上がりでも、だらしなく簡単にテールアウトの姿勢を見せたりはしないのだ。
ちなみに、サーキット走行を楽しみたい向きには、オプション設定されるトルクベクタリング機構「TVD」の選択をオススメしたい。これがあると、ハンドリングの自在度がより向上。特に、アクセルオンでのアンダーステアを打ち消す効果が絶大なのだ。
一方、そんなRC Fに比べるとM4のフットワークは全般に“軽い”印象だ。リヤのディファレンシャルには、電子制御式のLSDを標準採用。それもあってかトラクション能力はこちらも十分高い。
超ハイパワーな心臓を備えるものの、むやみにテールアウトの態勢は示さないのはRC Fと同様。コーナリング中も4つのタイヤがどれもしっかりと仕事をこなしているという感覚は、いかにも「よくできたFR車の典型」というテイストでもある。
ところで、コンベンショナルな仕様1種類で決め打ちのRC Fに対し、M4クーペにはオプションで「アダプティブMサスペンション」と呼ばれる、電子制御式の可変減衰力ダンパーが用意される。
標準状態では、いずれのモデルも街乗りシーンでそれなりに強い揺すられ感が伝えられるが、このアイテムをオプション採用したM4は、明らかによりしなやかな乗り味を演じてくれることになる。
(text:河村康彦/photo:田村 弥、峰 昌宏)
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