レクサスRC F 自動車評論家 クロスレビュー

レクサスのフラッグシップとなるクーペが5.0 リットルV8自然吸気エンジンを搭載するRC F。その軽量化バージョンの“Carbon Exterior package”も含め、5人のモータージャーナリストが論ずる。

レクサスRC F

レクサスRC F“Carbon Exterior package”

レクサスRC F
ハイパフォーマンスを安全に味わえる

RC Fは、より多くの人がハイパフォーマンスを楽しめるという点で優れたスポーツカーだ。根本的な部分ではボディがしっかりとしたこと。IS Fではタイヤサイズに制約があり操縦安定性を成立させるのが難しかったが、その経験を踏まえて適正なサイズを選択できたことなどが、RC Fの乗りやすい特性を支えている。

また、大排気量自然吸気エンジンは、どんなによくできたターボエンジンよりもレスポンスに優れ、走りの一体感を得やすくなっている。トルコン式のATも文句なしの出来栄えで、DCTは要らないと思わせる。もちろんイージードライブも可能で快適だ。

TVD(Torque Vectoring Differential)はハイパフォーマンスを楽しく安全に味わうのにぴったりのシステムだ。後輪の駆動力を左右で変化させて最適な操縦性を生み出すTVDは「STANDARD」「SLALOM」「CIRCUIT」の3モードを備えている。また、スポーツモード付VDIMにおいては、“隠しモード”の「EXPERT」も用意。これは車両安定装置を完全オフにはしないものの、システムの介入をかなり抑え、後輪のスリップをある程度許容する。これらを組み合わせてサーキットを走っていると、高速コーナーでは弱アンダーステア傾向で非常に安心してアクセルを踏んでいける反面、低速コーナーではアクセルオンでズバンっとテールを振り出せるほどの自由度がある。

高速コーナーと低速コーナーの特性の違いにギャップを感じなくもないが、少ないリスクのなかで、最大限に楽しめるのは確か。多くの人にハイパフォーマンスを体感してもらいたいという明確な哲学があるのだ。

(text:石井昌道)

レクサスRC F
にこやかな21世紀のスポーツカー

往年の名曲を、あらためてシンセサイザーで演奏するのがRC F。クルマの隅々まで微細にも大胆にも電子制御できるのが今だから、おっとり澄ますのもたけだけしく荒ぶるのも自由自在でありながら、決定的な破滅には立ち至らない。RC Fは、それをにこやかに演じてみせてくれる。

そのポイントは、コクピットにちりばめられたスポーツモード付VDIMやTVDなどの切り替えスイッチ。この限界の守り方が絶妙なのだ。たとえばSPORT S+モードを選んだ上でVSCオフをちょんと押し、やる気でコーナーを攻めると、信じられないほどドライビングが上達したかのように思い切り振り回せる。それでいながらテールを滑らせすぎた瞬間、それ以上は行かない程度に自動的な制御が介入する。サーキットで思い切りやれば、コーナー進入時に慣性を利用してダダ〜ッとカウンターステアにも持ち込めるが、公道では、けっこうヤンチャを演じたつもりでも、瞬間ピクッと腰のあたりに動きを感じ、ハッとする間もなく勝手に立ち直っているだけ。それでも努力して乗りこなした気がして、思わず自分が好きになる。

でも、RC Fでいくら速く走ってみせても、「すごいクルマですねえ」とうらやましがられるかもしれないが、「運転、うまいですねえ」などと褒めてはもらえない。20世紀への郷愁を後押ししてくれても、これが21世紀のスポーツカーというものなのだろう。これもまた、やがて訪れる自動運転時代の前触れなのだろうか。

いわゆるFRスポーツ独特の“綱渡り感覚”はあるのだが、その「綱がメチャクチャ太い」というのが白眉RC。それにトヨタ流の熟成されたハイブリッドを組み合わせたこのRC300hが最もレクサスらしいRCではあるのだろう。だけどV6仕様やV8仕様に乗っちゃうと、パンチ不足はパンチ不足。街中ではほとんど本領発揮できませんけどね(笑)。

(text:熊倉重春)

レクサスRC F
官能性を求めたセクシーなクーペ

トヨタが最も苦手とするのは、セクシーなクルマを作ることだったのではないか。正直われわれも、トヨタにセクシーさを求めたりしなかった。ところがこのレクサスRC Fは、実にセクシーなクーペなのである。ルックスもセクシーだが、なによりセクシーなのはその心臓、5.0リットルV8エンジンのフィールだ。

もはやこの世から、大排気量自然吸気エンジンが消えようかというこの時期に、あのトヨタが、官能のためだけに生まれたようなパワーユニットを搭載した。これが衝撃でなくてなんだろう!

このエンジン、低回転域での豊かなトルクはもちろんのこと、トップエンドまで上昇を続けるパワー感が素晴らしい。さすが大排気量自然吸気! サウンドなどの味付けも、快楽を第一に追求したもの。まず官能性を求め、その上で効率も確保した、トヨタらしからぬ優先順位に感動した。

ライバルのBMW M4は、3.0リットル直6ツインターボにダウンサイジングしたが、あまりにもフラットトルク。乗り比べると、RC Fの優位性は明らかだった。なぜなら、よりセクシーだからである! あのM4よりも! この事実はショッキングだった。

大排気量V8をノーズに搭載しながらTVDの効果でノーズの重さもほとんど感じず、手首をひねれば自由自在に向きが変わるこの感覚。今やこの手の万能感こそが、セクシーなゴージャスクーペにとって、最も重要な要素ではないだろうか!?

(text:清水草一)

レクサスRC F“Carbon Exterior package”
サーキットで走らせると差は歴然

クルマを信じきって、乗り手はただステアリング&ペダルワークに専念し、ドライビングそのものを楽しむ。そんな現代スタイルのファン・トゥ・ドライブを、兄貴分のLFAレベルに実現し、なおかつ“夢”で終わらない価格設定で世界のスポーツカー好きに問うた野心作。それが、私のRC F評だ。

とにかく、手応え・踏み応え・聞き応えという、スポーツカー官能三拍子がそろったマシンであった。鋭いが手には自然なフロントアクスルのアクションと、足裏に心地よくも頼もしく感じるトルクフィール、信じ難いほどに気持ちのいい制動フィール、そして大排気量自然吸気(今となっては貴重だ!)ならではのエンジン&吸排気サウンドが、スポーツカー好きの身体を喜ばせる。はっきり言って、今現在、世界のどこを見渡しても、このクラスでRC F以上に楽しいスポーツクーペはないと思う。

不満もある。あまりにもがっちりと頑丈なライドフィールはドイツ勢と比べても少々武骨過ぎるし、その結果として低速域での重々しい乗り味が街乗りを無粋なものにしかねない。けれども、その最中に聞こえてくるV8エンジンの、まるでネコが喉を鳴らすかのようなサウンドが、その先にあるいくつかの喜びを期待させ、さらなるアクセルオンへとドライバーの心を導いてしまうから、不満を漏らす暇などほとんどないだろう。

オススメは“Carbon Exterior package”仕様だ。サーキットで走らせると、その差は歴然。ドライバーにまとわりつく部分が軽くなったようで、いっそう気持ちいいドライビングを楽しむことができる。

(text:西川 淳)

レクサスRC F“Carbon Exterior package”
ボディもシャシーもすべてが速い

「高いだけのことはある」という言葉を使える久しぶりの国産車だった。同時に乗った3.5リットルV6エンジンを積むRC350“F SPORT”が悪かったわけじゃない。でも予算に余裕があったら間違いなくRC Fを選ぶだろう。

5.0リットルV8エンジンは旧IS Fの進化形。以前から自然吸気大排気量ならではの心地よさは備えていたけれど、IS Fはそれを強引にISの車体に押し込んだという印象があった。マイナーチェンジのたびに改善されていったけれど、基本的には直線番長の匂いがするキャラクターだったからだ。

RC Fはその点が違う。5.0リットルV8を完全に車体の一部としている。ハンドリングは素直。ノーズの重さやトラクション不足に悩まされることはない。しかもTVDと呼ばれるトルクベクタリングをSLALOMモードにすれば動きがさらに鋭くなり、CIRCUITモードではスタビリティ重視になるという遊び心も盛り込まれている。

その代わり、乗り心地は硬い。でもすぐに、ダイレクトなショックを巧みにいなす、フラット&ソリッドなフィーリングに好感を抱くようになった。硬くて重い物がぬるっと動く感じと言えば、フィーリングがわかるだろうか。そもそも強靱(きょうじん)なRCにさらなる補強を加えたボディが真価を発揮している。

大きなエンジンを積んでいるから速いのではない。ボディもシャシーもすべてが速い。車体全体で高性能を目指していることが伝わってきた。

(text:森口将之)

MORIZO on the Road